不自然すぎる動き
リンドブルムがラヴァルラント教会国を滅ぼした後、俺達はジークフリードと神聖皇国に帰ってから拠点に戻ってきていた。
直行で帰っても良かったのだが、拠点の場所がバレると面倒事が起きるかもしれないので、態々遠回りして帰ってきたのである。
出迎えてくれたのは、シルフォードとアンスールだった。
「おかえり団長。どうだった?」
「凄かったぞ。満点の星空の中、星が降ってくるんだ。一つや二つじゃない。何千、何万もの星が降ってくるんだぞ」
「うわぁ........想像しただけで、地獄絵図なのが分かるね。国なんて残ってないでしょ、それ」
「国の形は保ってなかったな。と言うか、人が住める土地じゃなくなってた。あそこに人が住めるようになるのは、相当な年月がかかると思うぞ」
何千年単位では済まなそうだ。それこそ、万単位の年月がかかって、ようやく住める土地に戻るかもしれない。下手をすれば、億単位か?
もしかしたら、迫害された人々か新たな地を探してそこに住み着くかもしれないが、生きていくのは大変だろう。川や湖の水は干上がっているし、食料となる物は何も無い。
水に関しては雨水が何とかしてくれるかもしれないが、食料はどうしようもなかった。
ニーズヘッグのお陰で、巻き上がった土や隕石が落ちてきた際に生まれた熱源などは処理されているらしいが.......それでも厳しい環境には違いない。今の環境じゃ、植物もまともに育たないだろうな。
「あら、リンドブルムは夜を見せたのかしら?」
隣で会話を聞いていたアンスールが、軽く首を傾げながら会話に入ってくる。
相変わらずその目は黒く長い髪に隠れており、口元で表情を確認するしか無かった。
「夜........まぁ、夜だな。宝石箱をひっくり返しても見ることは出来ない星空の中を流れ星が行き交ってた」
「へぇ、本当に夜を見せたのね。意外だわ」
アンスールは意味深に呟くと、俺の肩を軽く叩いてにっこりと笑う。
目は見えないが、其の顔は優しい母親の様にも見える。
その“夜”について、アンスールは何か知っているのだろうか。
「“夜”ってやつに何かあるのか?」
「えぇ、まぁね。でも、私の口から言うことでは無いわ。気になるなら自分で聞きなさい」
「んー、思い出したら聞いてみるよ」
アンスールは気になるなら聞けと言ったが、どうも地雷臭がする。花音によって鍛えられた地雷感知能力は、この話をリンドブルムに聞くと面倒だと言っていた。
触らぬ神に祟りなし。
もし、本人が勝手に語るのであれば聞くが自分からは聞かない方が良さそうだ。
「ふふっ、少なくともリンドブルムはあなたの事を相当気に入っているみたいね」
「そうなのか?」
「少なくとも、嫌いな相手に見せる能力ではないわ。それがどれだけ効果的な一撃だとしてもね。“夜は亡き友に捧げる鎮魂歌。星降る夜は貴方の願った世界を潰した者への裁き。今ここで奏でよう。これはアタシが友へ送る答え”」
「なにそれ」
「聞いてなかったのかしら?あぁ、聞こえてなかったのね。これはあの子の──────────いえ、これも自分で聞きなさい」
アンスールはそれだけ言うとこれ以上はボロが出始めると思ったのか、俺から離れて花音とイスの方に行ってしまった。
残された俺とシルフォードは、お互いに顔を見合せて首を傾げる。
「なんだったんだろうな」
「さぁ?少なくとも、その“夜”と言うのがリンドブルムさんにとって大切な物だという事は分かったよ。それと、悲しい詩だった」
「“亡き友への鎮魂歌”ねぇ。ますます本人に聞きには行けないな」
「そうだね。死んだ友人の話は........辛い」
故郷を失い、姉妹だけか残されたシルフォード。
彼女にも友と呼べる者達は多くいたのだろう。既に仇は打ったが、それとこれとでは話が違う。
俺はまだ友と呼べる者を失ったことがないから分からないが、いづれ分かる時が来る。
生きとし生けるものが辿り着く地点は“死”であり、この世界に滅びないものはない。その時が来れば、自然と分かるはずだ。
分かりたくは無いが。
俺はしんみりとした雰囲気を振り払う為、話題を変えることにする。シルフォードとしんみりするのはいいが、あまり時間が無いのだ。
「何か報告はあるか?一応、報告書は読んではいるけど、見落とす点はあるからな」
「知ってるとも思うけど、旧シズラス教会国の動きが更に加速してる。すでに危険域に達していて、下手をすると今すぐにでも戦争が起こりそう」
「それは知ってるぞ。正教会国が随分と熱心にアゼル共和国とジャバル連合国を攻め落とそうとしてるらしいな。理由は掴めたか?」
シルフォードは、ゆっくりと首を横に振った。
理由は掴めてないか。
旧シズラス教会国には、相当な数の兵士が移動してきているのが分かっている。
もちろん、アゼル共和国とジャバル連合国も指をくわえて見ているわけでないのだが、どうも妨害が上手くいっていないようだった。
子供達に妨害させようとも考えたのだが、どうも子供たち曰く需要拠点には、一定距離まで近づくと“視線を感じる”らしい。
無理をさせて死なす訳にも行かないので、遠くからの監視だけに留めているのが現状だ。
これにより、妨害がほとんどできていない。
視線を感じない場所で兵士達を殺して回るのもありと言えばありなのだが、それをやるとキリがない。
戦争の為、あちこちに子供達を派遣している都合上、旧シズラス教会国に回せる人材と言うのは意外と少ないのだ。10万近くいても人手不足とは........
「兵力はどのぐらいか分かってるか?」
「おおよそ20万ほど。それは問題ないと思うけど、問題は
「........え?マジ?」
俺は思わず素で聞き返してしまった。
中でも団長である“神突”デイズは、11大国を代表する
「確か、正教会国に雇われたって話があったな........子供達の監視も出来なかったから、察知が遅れたか」
「これはしょうがない。私達も世界の全てを掌握しているわけじゃないから」
「そうだな。とりあえず、対策を立てないと。このまま戦争になれば、間違いなくアゼル共和国が負けるぞ」
「そこは大丈夫。ストリゴイさんとスンダルさんにも声はかけてあるから、準備は万端。同業者だから、戦い方も色々と調べたし、大体の事は分かってる」
それは頼もしい。この仕事を初めて早2年。シルフォード達はこの傭兵団に欠かせない存在になっている。
本人もやる気のようだし、ここは任せてもいいかもしれない。
俺はシルフォードの肩を軽く叩くと、少しだけ笑う。
「それじゃ、アゼル共和国の事は任せるぞ」
「任せて。
そこまで気張らなくてもいいんじゃないかな?とは思ったが、真面目な顔をするシルフォードに水を差す真似は出来なかった。
さて、俺は明日滅びを告げる厄災達の様子を見に行くかな。
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