星よ滅びよ終焉よ

 星降る夜が明けたラヴァルラント教会国の有様は、それはもう酷かった。


 首都があったはずの場所はいく千もの隕石によって破壊され、原型すらも留めていない。最早、これがデフォルトですと言わんばかりの惨状だ。


 首都に大きく構えた教会、人々がつき先程まで行き交っていた街並み、今日を食いつなぐことも難しい者達が集まるスラム街。その全てが数百メートル規模の星によって押し潰され、破壊され、破滅させられる。


 過去にこの惨状を見て、運良く生き残った者が綴った“厄災”。文字だけで見れば、誇張された話だろうと思ってしまっても無理はないが、現実は文字以上の“厄災”を振りまいた。


 首都だけではない。


 ふと視線を山の方に向けると、山の麓に青々と広がっていた森は全て無くなっており、そこにあったはずの生態系は全て無くなっている。森に生息していた動物や魔物の気配というのは、どれだけ凝らしても感じられなくなってしまった。


 その山も、綺麗に半分だけが消し飛んでおり、何年にも積み上がった断層がこちらを見ている。まるで、“何してくれてんだ”と訴えているかのようにも見えるが、俺の気の所為なのかもしれない。


 首都の近くに流れていた大きな川も吹き飛ばされ、生命が生きるのに必要な水というモノか完全になくなってしまっている。星が落ちてくる時に放っていた灼熱にも近い高温で干上がったのだ。


 国の全体を見渡せば、月にあるクレーターよりも酷いボコボコ具合であり、平らな地面を探す方が困難であると錯覚させられる。もちろん、国中全ての場所を見てはいないので分からないが、少なくとも視界に入っている土地には平らな地面が無かった。


 正に厄災。正に滅び。


 世界の終焉と言っても過言では無い光景が、俺たちの前に広がっている。


 「凄いな。ベオークが国を滅ぼした時も思ったが、やっぱり厄災級魔物って規格外すぎるだろ」

『ワタシ、厄災級魔物じゃない』

 「んなこたぁ分かってるよ。種族的には最上級魔物だが、強さは厄災級だろ?」


 ずっと影に潜んでいたベオークを褒めると、ベオークは少し照れながら影の中からひょっこりと顔を出す。


 ベオークも厄災級魔物が暴れる様子を見たかったようで、勝手に着いてきたのだ。


 ジークフリードがいる中で、バレるかもしれないとヒヤヒヤしていたが、この地獄を見て固まっている今なら少し話しても気づかれることは無いだろう。


『強さは厄災級ねぇ........ワタシは国ひとつ滅ぼした後とても疲れてたけど、アレを見るに元気そう』

 「それは確かにそうだな。国1つを多くほどの広範囲の異能を使ったにも関わらず、随分と元気そうだ。むしろ、ニー........じゃなくてダエグの方が疲れてんな」


 再び顔を出した太陽の方に視線を向けると、元気そうに翼をはためかせるリンドブルムとどこか疲れたような顔をするニーズヘッグがいた。


 ニーズヘッグは、他国に被害が行かないように結界を張っていたらしい。もしかしたら、リンドブルムの攻撃が強すぎて結界の維持に相当な労力を使ったのかもしれない。


 山が綺麗に真っ二つになっている理由も、リンドブルムが完璧な加減をしていた訳ではなくニーズヘッグが被害を抑えていてくれたからだ。


 もし、ニーズヘッグのサポートが無かった場合はどこまで被害が行っていたのか、想像しただけでも恐ろしい。


『やっぱり、厄災級の強さと言ってもワタシは下の下。中の上ぐらいの強さがある厄災級魔物とは、比較になれない』

 「そんなことは無いぞ........って言ってやりたいが、リンドブルムが元気そうなのを見るにそう言わざるを得ないかなぁ。残りの保有魔力を見るに、あの夜は乱発しても問題なさそうだ」


 以前遊びでやった大乱闘とかで使ったら、リンドブルムが勝てたかもしれないのに。あ、でも広範囲すぎて審判まで巻き込むとなると使えないか。


 元気良さそうに翼をはためかせるリンドブルムは、大技の余韻に浸り切ったのか笑顔で俺達のところにやって来た。興奮が冷めていないのか、彼女の周囲はとてつもない量の魔力が渦巻いている。


 「どうだ団長さん。アタシのとっておきは」

 「凄かったぞ。見ろよ。神聖皇国からのお客さんは、固まって動かなくなっちまった」

 「アッハッハッハッハッ!!流石はアタシだねぇ!!」

 「ですが、イング。貴方の攻撃、団長さん達の方まで行っていましたよ?やり過ぎです」

 「無茶言うな。団長さん達を巻き込まない攻撃なんてしたら、国を滅ぼせないじゃないか。悪いとは思ってるけど........もしかして、罰とかある?」


 なんだろう。見た目は竜なのだが、そうやって上目遣いされると少しクる物がある。アレ?リンドブルムってこんなに可愛いドラゴンだったっけ?


 俺は少し目を潤わせているリンドブルムの頭を軽く撫でてやると、ゆっくりと首を横に振った。


 「罰なんてないさ。これだけ盛大にやってくれたんだからな。まぁ、でも、事前に言っておくぐらいのことはして欲しかったが」

 「う、すまない。昔は1人だけだったから、味方の被害なんて考えもしなかったよ。次からは気をつける」

 「是非ともそうしてくれ。ダエグも結界の維持、ご苦労だったな」

 「いえいえ。私はちょこっとサポートしただけですよ。全てはイングさんの手柄です」

 「そんなこと言うなよダエグ。アタシが制御なんて考えずに暴れられたのは、お前のおかげだぞ?」


 リンドブルムはそう言うと、その白銀に輝く翼でニーズヘッグの背中を軽く叩いた。


 今の背中を叩く動作だけでも普通の人間が喰らったらミンチになるんだろうなと、少し場違いなことを思いつつ二人をイスの異能の中に仕舞う。


 霧に包まれる前の二人の顔は、どこか誇らしげだった。


 「さて、帰るか。ジークフリードさーん。戻ってきてー」

 「──────────っは!!........あまりに非現実的な光景すぎて、思わず固まってしまいました」

 「あはははは!!ジークフリードさんでもそういうことはあるんだな」

 「ジン君は僕の事をなんだと思ってるんですか。僕は普通の人間ですよ」

 「悪魔を瞬殺した人がよく言うよ。その気になれば、この星の雨も凌げるくせに」


 この日、ラヴァルラント教会国は滅んだ。


 隣国であったカランドウ国はこの出来事を書物に残し、その書物を読みといた生き残りは神正世界戦争の序章にこう綴った。


 “正午を超え少しした時、音もなく全てが静かになった。鳥のさえずりも、森のさざめきも聞こえず、山を超したところにいるであろう敵兵の息遣いすらも聞こえない。あまりに静かすぎたので、不審に思った現場の指揮官が偵察兵を送るとそこに国は存在していなかった。何が起こったのかすら分からない。もしかしたら、伝説に謳われる“厄災”が訪れたのか。それとも、女神イージスの名を騙る悪に女神自身が天罰を下したのか。生き残りが一人もいないその国の真相を知る者は誰もいないだろう。私の主観としては、女神イージスの天罰だと思っている。本当の“厄災”はこんなものではないからだ。”──────────神正世界戦争“序章:天罰”

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