神正世界戦争:星降る終焉②
前日に、ラヴァルラント教会国の下見をしており大まかな計画は練ってあったので、今更どうしようかと相談することも無い。
普段計画性のない彼らが、大まかであっても計画をしっかり建てている辺り、成長が伺えるだろう。
リンドブルムは、その白銀に輝く翼を大きく広げ、太陽の真下へと羽ばたく。
ニーズヘッグもリンドブルムの後について行き、すぐ後ろに控えた。
リンドブルムは直ぐに攻撃に移ることはなく、今にも気絶しそうなジークフリードに視線を向ける。
その目には好奇心などと言うものは宿っておらず、ただただ見つめているだけだった。
「あの人間、顔が引きつってるな。大丈夫か?」
「大丈夫........では無いでしょうね。恐らく、私達がこの国を滅ぼす事を知らなかったのでは?」
「ふーん。まぁいいや。アレは殺しちゃダメなんだろ?」
「えぇ。団長さんを雇っている国の騎士らしいので、ダメですね。なんでも、国の中では1番を争うほどの強さらしいですよ」
「へぇ。確かに強そうだけど、団長さんやカノンに比べたら劣るな。内包している魔力量が違いすぎる」
「団長さん達と比べるのは可愛そうですよ。既に人間という種族を逸脱している二人なんですから」
「それもそうだな。あの二人がおかしいだけか」
リンドブルムはそう言うと、ラヴァルラント教会国の首都を見下ろして凶悪な笑みを見せる。その鋭いアギトが姿を見せ、竜と言う絶対的強者としての圧が放たれた。
大きく歪んだその顔を見たジークフリードは、思わず小さな悲鳴を上げてしまったが既に二体の眼中には無い。
(時代が早かったな。この時期にアイツに会えたら、もっと楽しかっただろうに)
「行くぞ。準備はいいな?」
「えぇ、いつでも」
リンドブルムが放つ荒れ狂う魔力はいつの間にか静かな小波となり、嵐の前の静けさとなる。
首都の様子を見れば、一時的に消えた太陽を不思議に思って空を見上げる人々がいた。
しかし、あまりにつよい日光と、太陽の光を跳ね返す白銀の翼によってその姿を市民が捉えることは出来ない。肉眼で正確に視認できる程の高さよりも、さらに高い場所を飛んでいたのも原因だろう。
「団長さんには、派手な奴で頼むって言われたからな。綺麗な流星を見せてやろう」
リンドブルムは大きく翼を広げると、静まっていた魔力を一気に解放した。
再び荒れ狂った魔力は、先程とは比べ物にならない。
最早その魔力だけでも、街一つぐらいなら容易く更地に変えてしまえるであろう。そんな荒波の中で、星降る夜は訪れる。
「“夜は亡き友への鎮魂歌。星降る夜は貴方の願った世界を潰した者への裁き。今ここで奏でよう。これはアタシが友へ送る答え”
「終焉結界。起動」
刹那、ラヴァルラント教会国には夜が訪れた。
先程まで地上を照らしていた太陽は姿を隠し、満点の星空が天を支配する。
幻想的であり、宝石箱をひっくり返しても尚たどり着けないその光景は、人々の足を止め言葉すらも出ない沈黙を作り出す。
誰もが何が起こったのか理解出来ず、誰もがその美しい光景に目を奪われる。
珍しいと言われる流れ星が当たり前のように落ち、流星群となる。
人々は、太陽が隠れたという事実を忘れて星空を楽しんだ。
徐々に多くなる流星。いつの間にか、夜空の1部を彩るまでになった流れる星。
しかし、流れる星はこの地に落ちる。それが運命であり、それがこの“異能”だ。創り出された幻想は、認識した者の数で何倍にも膨れ上がった流星となってその者に降り注ぐ。
そして、星は落ちた。
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ジークフリードは何が起きたのか分からなかった。荒れ狂った魔力が収まったと思った次の瞬間には、再び魔力は荒れ狂い、瞬きの間に空は夜へと変わっていた。
「おー、これは初めて見るやつだな。普通に具現化した星を落とすのかと思ってた」
「仁が“派手なヤツでよろしく”って言ったからこうしたんじゃない?それにしても綺麗だねぇ」
「凄いの!!お星様いっぱいなの!!」
混乱するジークフリードの横では、のんびりと空を見上げる仁達。アレだけの魔力を見て、何も思わないのか。ジークフリードは不思議でならなかった。
そもそも生物として格が違いすぎる竜という種族は、無意識に放つ魔力ですら人間にとって毒となる。ジークフリードはかなり鍛え上げているため耐えることが出来るが、一般人ならばその魔力の圧だけで死んでしまう可能性もあるのだ。
(戦力を見誤った所じゃないですね。あの2体だけで、神聖皇国は滅びますよ)
何らかの間違いで敵対しようものなら、神聖皇国は滅ぶだろう。自分だけならば逃げ切れるかもしれないが、国としての形を保つことは不可能である。
「あり?なんか俺たちの方にも落ちてきてね?」
「ほんとだ。これ、対象を選ばない範囲攻撃だったのかな?」
「勘弁してくれよ」
ジークフリードがそんな事を考えていると、四つの星がそれぞれの脳天を目掛けて落ちてきていた。
どれもが直径数百メートル近くあり、人の上に落ちればどうなるかは想像にかたくない。
落ちてくる速度から見て、まだ余裕があるなと思ったジークフリードは、仁に話しかけた。
「ジン君。これは?」
「あー、多分ウチの団員が張り切りすぎてコッチの被害を考えてなかったな。俺が守るから、こっちに寄ってくれ」
仁はバツが悪そうに頬をかくと、ジークフリードを手招きする。
ジークフリードとて、このぐらいの星ならば捌くことは出来る。しかし、守ってもらえるのであればその言葉に甘える。ジークフリードはこの後も仕事があるので、なるべく疲れるようなことはしたくなった。
「ほい、
仁は星が落ちる前に異能を展開。漆黒の盾は、容易に星を受け止めた。
受け止められた星はその衝撃によって破裂し、小さな星となって地面に降り注ぐ。
仁達には、一切の被害が出なかった。
「凄いですね。あれ程にまで魔力が籠った攻撃をいとも容易く受け止めるなんて」
「このぐらいジークフリードさんも出来るでしょ?お世辞はいいよ。それより、少し離れよう。どうやらこっちの都合を考えて暴れてないようだからね」
ふと、視線を地上へ向けると、いく千もの星が首都へと降り注いでいた。
国を象徴するであろう立派な教会は潰れ、民家は吹き飛び人々は逃げ惑う。しかし、いく千にもなって降り注ぐ星から逃げる術はなく、星に潰され殺されていく。
首都だけではない。見渡す限りの場所に星が降り注ぎ、その地に大きな穴を開けていく。その衝撃によって飛び散った星の破片はさらなる被害を生み出し、この国の生態系を完全に終わらせていくのだ。
(これが........厄災。かつて国を滅ぼした厄災の竜の力........)
もしも自分が被害者の立場に立たされようものなら、抵抗しきれるだろうか。仁の言い方からして、まだ手札を多く残しているように見える。
更には、本体だけでも十分に強い竜種だ。その星空の一部に同化して白銀に輝く鱗は、生半可な攻撃を一切遮断する。
「はははっ........無理ですねぇ。これはさすがに」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ、何も」
思わず漏れた乾いた笑い。結局、ラヴァルラント教会国がその原型を無くし、クレーターだらけの地になるまでジークフリードは死んだ魚のような目で厄災の光景を焼き付けるのだった。
能力解説
【
特殊系具現化型の異能。
星を具現化させる能力であり、隕石としての攻撃は能力の応用だったりする。
特に制限などはなく、無限に魔力があれば新たな星を創造することすら可能。しかし、消費魔力が多すぎて死ぬので現実的ではない。
星はあくまで魔力から具現化された物なので、空気中に魔力が霧散して最終的には消えてしまう(それでも数百年単位かかるが)。
格上、格下関係なく叩けるので使いやすい能力になっている。
【
能力を応用した攻撃方法の一つ。
星空を出現させ、その星空を見た者全てに隕石が降ってくる。
本来は細かいコントロールが効かず、効果範囲もまちまちだったこの能力をニーズヘッグのサポートにより一国だけに絞っていた(絞らなかったらもう2ヶ国ほど巻き込んでる)。
リンドブルムにとって、この技は特別であり滅多に発動することは無い。
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