神正世界戦争:星降る終焉①
時間は少し巻き戻り、太陽が天高く登る正午から約1時間前。
イスの異能“
「まだかな?」
「30秒に1回“まだかな?”って言うの辞めて貰えますか?慌てても時間の流れは変わりませんよ?」
「いやぁ、それは分かってるんだけどね?やっぱり楽しみだから早くして欲しいんだよ」
「気持ちはわからなくもないんですがねぇ........それと、もう少し魔力を抑えてください。モーズグズさんとガルムさんが困ってますよ」
「おっと、悪い悪い。無意識に溢れちまうねぇ。こうして暴れるのは久々なもので」
黄土色と翡翠色のV時模様と、龍にふさわしい巨大な身体をしたニーズヘッグは
“待て”ができないリンドブルムを見て小さくため息を着く。
一部の国では、神竜として崇められている白銀の竜とは到底思えない光景だった。
リンドブルムは、若干顔が引き攣っているモーズグズの視線まで身体を低くするとその鼻先で軽く小突く。リンドブルムなりの謝罪方法だ。
「悪いね。ちょいと盛り上がりすぎて。なるべく抑えてるが、多分無理だから辛かったら離れててくれ」
「い、いえ。お気になさらず。リンドブルム様とニーズヘッグ様のおもてなしが私達の仕事ですので........」
「そうかい?モーズグズ達も大変だね。イスちゃんが主人だから、命令は絶対なのか」
リンドブルムはそう言うと、モーズグズから距離を取る。
漏れだしている魔力は、以前この地にて大乱闘をした時よりも膨大で濃い。たった一歩踏み出すだけで、相当な負荷をかけなければ割れないはずの氷にヒビが入っていた。
それを見て、モーズグズとガルムは戦慄する。大乱闘にて格の違いを思い知らされたが、あれはお遊びにすらなっていなかったのだと。
リンドブルムが放つ魔力は、大乱闘で巻き起こった魔力の総量よりも大きく、最早自分達の物差しで測れるものでは無い。今ここで、リンドブルムの首を狙って襲いかかったとしても、身に纏う魔力だけで全てを押し返されてしまうだろう。
「これが、厄災級魔物........私達は随分と狭い世界で生きてきたのですね」
「バウ」
主人であるイスも、このレベルの魔力を放つことは無い。内包する魔力量を見れば、この程度の魔力は容易く放つことができるだろう。しかし、それをする意味が無いので、モーズグズ達には耐性が無かった。
世界の広さに驚きつつ、モーズグズ達は静かにリンドブルムとニーズヘッグを見つめる。
今から上の世界がどうなるのかなど、想像しなくても分かる。少し見てみたいと思いつつも、自分はこの世界の外に足を踏み出すことができないのを歯痒く思った。
「なぁ、本当にいいのか?アタシが全部やっちまって」
モーズグズから離れたリンドブルムは、冷たい氷の上で身体を下ろすニーズヘッグに最後の確認を取る。
ニーズヘッグは、この戦争においてリンドブルムと一緒に暴れるのではなく、リンドブルムが盛り上がりすぎて他国にまで被害が行かないようにサポートに回ると言ったのだ。
リンドブルムからしたら有難いことではあるが、それでも気を使ってしまう辺り彼女の優しさが見えるだろう。
ニーズヘッグは、爽やかに笑うと首を縦に振る。
「えぇ。問題ないですよ。私は
「無いな。強いて言えば皆で遊んだ時だが........あれはお遊びだからなぁ」
「ですからリンドブルムさんが独り占めしていいですよ。それに、私の場合はやり過ぎると彼が勘違いしてしまうので」
「ん?あぁ。アレか。アタシがいた頃には既に無かったやつだな」
「えぇ。まぁ、そんな訳で私はサポートに回りますよ」
ニーズヘッグは、そう言うと、身体を起こしてゆっくりと空を飛んだ。
リンドブルムの性格は知っている。恐らくサポートの方が大変なんだろうなと思いながら、彼は懐かしい盟友の顔を思い浮かべるのだった。
彼だけではない。リンドブルムも、何かを思い出すかのように霧に覆われた天を見上げる。
「いつの時代になっても、人は争うし魔物とは手をとりあえない。それでも取り合える場所がある。お前の意思は、引き継がれるんだよ.......出来れば、お前にもこの傭兵団の光景を見せたかったな。なぁ?」
思い出される懐かしき記憶は、厄災を起こす前の記憶。彼女は誰よりもこの場所を心地よく思い、誰よりも大切に思っている。過去に夢見たあの幻想郷は、今も尚存在しているのだ。
小さき少女の願いと夢は、例えいく千、いく万、いく億の犠牲を払おうとも守り抜く。それがリンドブルムが生きる理由。それが仁という男の下に付く理由の一つでもある。
「さて、そろそろかな?」
霧に覆われ始めた体を見て、リンドブルムは小さく呟いた。
未だに争うし愚かな人類。理想郷を引き継いだ彼らの居場所を守る為、リンドブルムは再び厄災と化す。
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神聖皇国聖堂騎士団第一団長であるジークフリードは、この世界における強者である。
人類という枠組みで見れば彼よりも強い人間など100もいるかいないかであり、その枠組みに魔物が入ろうとも1000は行かないだろう。
そんな絶対的強者の1人であるジークフリードも、天地がひっくりかえっても敵わない者と戦ったことが何度かある。
魔物が相手だったり、人間が相手だったりしたが、いずれも本能が“逃げろ”と告げていた事は間違いない。
そして、その霧が目の前に現れた瞬間から、脳裏に“逃げろ”との警告が鳴り響き続けていた。
「これは........不味いですね」
以前も感じとった小さな少女の違和感。それが確信に変わると共に、更なる警告が頭の中に鳴り響く。
精鋭揃いと言われる聖堂騎士団第一の騎士であろうとも、この荒れ狂う魔力を見れば気絶してしまうであろう格の違い。ジークフリードは何度か経験があったが為に、意識を保つことができた。
その魔力の主を確認しようとするが、霧に覆われているため姿が見えない。
霧を魔法でどかそうと風を起こしたが霧は鉄のように重く、風による干渉が一切できなかった。
「ハハッ、流石に冗談きついですねぇ。上級魔物?笑わせてくれる。あれは、厄災級魔物だ」
ジークフリードも仁達が魔物を仲間にしているのは知っている。しかし、その強さは知らなかった。アイリスや教皇の予想では、どれだけ高く見積っても最上級魔物が限界であり、低く見積もるなら中級魔物辺りだろう、と。
ジークフリードはその間をとって上級魔物なのでは?と予測していたが、その予測は大きく違っていた事を認識する他ない。
龍二に聞けば真実を言ってくれたかもしれないが、それでもこの目で見るまではジークフリードも信じなかっただろう。
霧が晴れて厄災達が姿を表す。
ジークフリードはあまりの大物に、空いた口が塞がらなかった。
「“流星”リンドブルム“終焉を知る者”ニーズヘッグ........」
どちらも本で見たことがある。かつてその姿を見た者達が描いた厄災達の姿。その絵よりも美しく、恐ろしい存在が目の前に現れたのだ。
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