神正世界戦争:荒野の激突①
敵陣を轟轟と燃や炎は、正しく地獄の炎。その熱波がかなり離れているはずの龍二の所にまで届き、思わず“熱い”と呟いてしまうほどだった。
離れていてこの熱さなのだ。この獄炎を間近に受けている敵兵は、肌が焼けるだけでは済まないほどの熱さを感じている事だろう。
「凄いな。これが聖魔の魔法か」
「流石は聖王国を代表する冒険者だ。あんなの食らったらひとたまりもないぞ」
茶色に染った荒野を彩るかのように紅く燃え盛る炎は衰えることを知らず、むしろ更に火の勢いが増しているようにも見えた。
これだけで戦争が終わってしまうのではないかと思ってしまうほど広範囲で、高威力の攻撃だったが、相手もそこまで弱くはない。
急に炎が拡散し、あっという間に獄炎はその姿を消してしまった。
炎を消し去った正体は、すぐに分かる。
何故なら、敵陣に巨大な盾が出現していたからだ。
「なんだあの盾」
「あれは正共和国の聖盾だな。あちらも国を代表する冒険者だ。この程度の挨拶はお互い序の口なんだろう」
「さっきの空から降ってきたクソでかい盾もか?」
「あぁ、挨拶代わりなんだろうな。空の様子を見るに、聖刻が対応したようだが」
アイリスは淡々と告げるが、龍二の顔は優れない。
既に
格が違うとはまさにこの事。
空から降ってきた盾程度なら防げるかもしれないが、それも自分とアイリスを護るので精一杯となるだろう。
獄炎の炎の様に敵軍全てを覆い尽くす程の範囲攻撃はできないし、それを防ぎ切る程の防御も無い。
街ひとつを覆うカウンター魔法はあるにはあるが、アレは普段使いできるような魔法ではなかった。
「やべぇな。ちょっと自信無くすわ」
「フッ、怖気付いたか?なら、私の後ろに隠れているといい。私が守ってやろう」
「言ってろ。怖気付いたと言えば、まぁ、その通りだが、その程度で俺は逃げねぇよ」
先程よりも気合を入れる龍二を見て、アイリスは微笑む。
自分はそういうところに惚れたのだと言いたかったが、アイリスは恥ずかしくて言えなかった。
「団長。イチャコラするのは自由ですが、時と場所を考えてください。もうほとんどの部隊が動いてますよ」
戦場に目を向ければ、100万と言う大軍が敵軍に向かって突撃をし始めていた。
お互いに魔法で牽制しながら、徐々に間合いを詰めている。
中には突破力を持ったものもおり、既に敵と肉薄している者もいた。
「そうだな。我々も動こう。とは言っても、我々は遊撃部隊だ。諸君、好きにやれ!!敵の嫌がるところから攻撃を仕掛けて叩き潰せ!!そして、生きて私の元に帰ってこい!!」
「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」
聖堂異能遊撃騎士団の面々は、アイリスの号令と共に戦場へと飛び出していく。
皆、一癖も二癖もある異能の持ち主だが、状況さえ整えばとてつもない破壊力を発揮する。数こそ少ないものの、ありとあらゆる戦場を掻き乱してくれることだろう。
散り散りになった遊撃騎士団を見送ったアイリスは、ニヤリと大きく口を歪めると全身を魔力で覆って肉体を強化する。
「シンナス。お前は私に着いてこい。敵の指揮官を潰すぞ」
「了解です。おい、バカ弟子。お前は好きにしていいぞ。私の異能だと周りを巻き込むからな」
「わかった。師匠も気をつけてな」
「誰に物言ってんだ。私はそう易々と死なねぇよ」
ニーナは師の笑った顔を見てから、その場を後にする。6年間、彼女の元で鍛え上げられたその力が、今この時開放される事だろう。
「龍二は着いてこい。私の背中を守ってくれるんだろ?」
「言われずもがな。守ってやるから、前だけ見てろ」
「頼もしいな。では行くぞ、まずは左翼に展開する連中の指揮官を潰す。相手は雑魚ばかりだ。任せたぞシンナス」
「はい。おまかせを」
シンナスは己の肉体を強化すると、武器を持って走る兵士たちの間をスルスルと通り抜けていく。
あまりの速さに、目の前を通り過ぎられた兵士が一瞬足を止めて周りを確認するという事態に陥ったが、特になにかあった訳では無いので彼らは首を傾げたあと再び走り出した。
もちろん、アイリスと龍二もその後ろを着いて行く。
しばらく走ると、まだ接敵していない左翼に展開する部隊を発見。シンナスは止まることなくその部隊に突撃した。
「“
シンナスは異能を発動。
半径50m程の半円がシンナスの周りに展開され、アイリスと龍二はその領域から素早く撤退する。
その領域内にいると、自分たちも被害を食らうためだ。
「死ね」
短く告げられた死の宣告の後、シンナスは1番近くにいた兵士の腹を殴る。
あまりにも強すぎたその拳は兵士の腹をいとも容易く貫通し、鮮血を撒き散らした。
そして、それに連動するかのように、半円に入っていた兵士たちの腹にぽっかりと穴が空く。
「っな」
誰もが驚き、驚いた数秒後に糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
たった一撃で、シンナスは荒野の一部を赤い血によって染め上げてしまった。
「一対多に関しては相変わらず強いな。仲間がいると使えないのが問題だが、その問題をクリア出来れば滅茶苦茶強い」
「範囲内の敵に同時攻撃。初めて俺がシンナス副団長の能力を見た時は、ちょっと羨ましかったな」
「なぜだ?」
「ほら、“
「........」
稀に少年心を覗かせる龍二の反応には、アイリスもなんと反応していいか少し困る。
アイリスが異能を初めて見せた時も、最初の感想が“カッケェ”だったのを思い出し、少し笑ってしまったが彼女は警戒を怠ることはなかった。
「見えてないとでも思ったのか?」
ゴキィと、骨がへし折れる音がすると共に、アイリスの後ろで1人の兵士が崩れ落ちる。
肉体を強化した後ろ蹴りは正確に相手の顎を捉え、その負荷に耐えきれなくなった首がへし折れたのだ。
彼は運良くシンナスの領域外に逃げれた兵士だったが、運だけではアイリス達を殺すことは出来ない。
仲間が一瞬で殺されているにもかかわらず、自分の役目を理解してアイリスに斬りかかった点は褒められるべきだが、彼は相手の実力を見誤っていた。
「お、シンナス副団長の攻撃に耐えてるやつがいるぞ」
「ほう、それは不幸だな。主に相手が」
後ろからの奇襲に全く動じなかった2人は、シンナスの攻撃を耐えた猛者に視線を向ける。
不意打ちにも近い一撃が応えたのか、彼は膝を着いて肺に懸命に空気を送り込んでいた。
「耐久力はあるみたいだな。丁度いい。私のサンドバッグになってもらうとしよう。まぁ、一撃で終わるがな」
シンナスはそう言うと、膝を着いた兵士を無理やり立たせて敵兵の中に放り込む。
そして、自分もそれと同時に敵兵の中に飛び込んで放り投げた兵士の頭に思いっきり踵落としを食らわせた。
ズン
地面が揺れるほどの踵落としは、踵と地面にサンドされた敵兵の頭を容易に潰し、また範囲内にいた敵兵達も地面に叩きつけられて頭が破裂する。
その地面はどれも凹んだ痕があり、彼らが食らった踵落としの威力を物語っていた。
「さて、次に行くか」
返り血によって白い戦闘衣は所々紅く染まり、顔にまで飛んだ血はシンナスを見たものに恐怖を感じさせるのだった。
能力解説
【
領域系の異能。
自身を中心に半径50mの球を作り出し、その中にいる者全てに攻撃を与える能力。
自身が移動すると領域も移動する。
消費魔力が少なく、その分身体強化などに回せるため強い部類の異能にはなるのだが、使い勝手はあまり良くない。
敵味方関係なく巻き込んでしまう事と、同種族でない場合は能力が発動しない(人間を殴っても、ワイバーンなどには攻撃が行かない)。
人種には様々な種族がいるが、それら全ては“人種”という括りで入っているので今回のような戦争ではかなりの驚異となる。
また、無機物にもこの能力は適応されるため、レンガを壊すと領域内の他のレンガも壊れてしまう。
尚、能力使用者はこの異能の影響を受けることは無い。
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