歯ァ食いしばれ

 無事、スタンピードを抑えた俺達は拠点へと戻ってきていた。


 窓ガラスを壊すという被害こそあれど、人的被害も出していなれば街に大きな被害もない。


 街の外の地形は多少変わってしまったが、満点に近い対応だっただろう。


 「で?何か言うことは?」


 さて、そんなスタンピードを引き起こした張本人であるファフニールには話を聞かなければならない。


 大体の経緯は聞いてはいるが、こう言うのは本人の口からしっかりと聞くべきだ。


 俺の前で申し訳なさそうに頭を下げているファフニールは、小さな声でつぶやく。


 「その、油断してました........」


 流石のファフニールも、今回は反省しているのか敬語を使っている。


 普段なら“油断しておったわい”とか言いそうなのに。


 「何をどう油断してたんだ?」

 「地竜アースドラゴンの気配は感じていました。でも、そのオアシスが地竜の縄張りだとは気づかず........」

 「水分補給の為に降りて巣を荒らした、と?」

 「はい........」


 普段の威厳のある態度はどこへやら。ファフニールは消えそうになるぐらい小さな声で、申し訳なさ全開だ。


 三年半以上の付き合いがあるファフニールだが、こんな姿は初めて見るな。


 普段のファフニールを知る厄災級魔物達や三姉妹達も、あまりのファフニールの豹変ぶりにびっくりしてる。


 こんなにキャラ画変わってたらそりゃ驚くわな。


 「まぁ、ミスは誰にでもある。それはしょうが無い。直ぐに俺達に報告を入れたのもいい判断だった。で、次からはどうする?」

 「暫くは、戦争が始まるまではここで大人しくしていようと思います........ほんと、ゴメンなさい」


 こんなに申し訳なさそうにされると、さすがに怒りづらい。


 全身から申し訳ないオーラが溢れ出ており、団員達がファフニールを見る目も何処か同情的だ。


 「どうするの?」


 花音が可愛らしく首を傾げながら俺に話しかける。


 団員達の中で、唯一ファフニールを責めるような支線を向けている花音は、このままケジメもなしに終わらせるのをよしとはしないだろう。


 「どうするって言ってもなぁ........ここまで反省されると流石に怒りづらい」

 「ふーん。仁は相変わらず優しいね。なら、私がケジメを取らせてあげるよ」

 「........やり過ぎるなよ?」

 「大丈夫、大丈夫。一発殴るだけだから」


 花音はそう言うと、頭を下げているファフニールの目の前まで歩いて行く。


 その握りしめられた拳には、かなりの魔力が籠っていることがよく分かった。


 「ファフニール」


 花音がファフニールの名前を呼ぶと、ファフニールはビクッと肩を震わせる。


 かつて人々を恐怖に陥れた伝説の竜が、たった1人の女の子にビクビク怯えているのだ。


 揺レ動ク者グングニルで1番怒らせては行けないのは、副団長である花音と言われているが、どれだけ恐れられてるんだよ。


 アンスールやシルフォード曰く“カノンの殺気は別次元”らしいが、俺にはよく分からない。


 「は、はい」


 ファフニールが、子犬のように縮こまりながら返事をする。


 尻尾を又に挟んでいるのを見るに、ガチで怯えているのがわかる。


 「仁は優しいからお咎めなしで許してくれるみたいだけど、ケジメは必要だよね?」

 「は、はい」

 「うんうん。じゃ、歯ァ食いしばれ」


 ドガァァァァァァァン!!


 大地を揺らす衝撃音と共に、ファフニールの頭が地面へとめり込む。


 ゆっくりと殴られた為、ファフニールも避けることは出来ただろうが、今回ばかりは自分に非があることを分かっていたので大人しく殴られたようだ。


 かなりの威力があるように見えるが、ファフニールからすれば軽くゲンコツを食らった程度だろう。


 それでも、人に殴ろうものなら何時ぞやのゴブリンみたく弾け飛ぶだろうが。


 「全く........これに懲りたら好き勝手しすぎないことだね」

 「肝に命じておく........」


 のそりと地面から顔を出したファフニールが、申し訳なさそうに呟いた。


 ってか地面にめり込んだというのに、全くダメージを受けたように見えない。


 花音も多少手加減したのだろうが、だとしても無傷はすげぇな。


 「あらあら、子犬みたいなファフニールは初めて見たわねぇ」

 「アッハッハッハッハッ!!やっぱり団長は面白いな!!まともに生きてたらこんなにファフニールは見れないぞ!!」

 「ファフニールさんが怒られてるところなんて初めて見た!!ヤバすぎだね!!ウロちゃんもそう思うでしょ?」

 「そうだな。長年生きてきた中で一番驚いておるわい。今日ほどあの島を出て良かったと思った日はないぞ」

 「Yah!!ファフニールが怒られるなんて想像できませんでシタ!!やはり団長サンは面白いですネ!!」

 「終焉を知る者と呼ばれる私でも、この未来は見えませんでしたねぇ。いやはや、これは面白い」

 「ファフニールが、怒られるの、初めて見た」

 「ガルゥ!!」

 「グルゥ........グルッ」

 「ゴルゥ!!」

 「フェンリル達も楽しそうですネ。かく言うワタシもコレはちょっと笑えますガ」


 今回ファフニールがやらかしたことについては、全ての団員に通達されている。


 普段はあちこち飛び回ってどこかへ行っている厄災級魔物達は、ファフニールが俺に怒られる事を聞きつけてその様子を見に来たようだ。


 あの島では、厄災級魔物のまとめ役みたいな立ち位置だった為か、皆ファフニールが怒られている様子に興味津々らしい。


 いい性格してるよホント。


 楽しそうにファフニールを見つめる厄災級魔物達は、ファフニールをおちょくりながらゲラゲラと笑う。


 ファフニールも少しイラッとしてはいるものの、自分が悪いことは分かっているため何も言い返すことは無かった。


 そんな厄災級魔物達を微笑ましく思いながら、どこかスッキリとした表情をする花音に話しかける。


 「悪かったな。嫌われ役をやらせちまって」

 「いーのいーの。ファフちゃんが悪いんだからこのぐらいは問題ないよ」

 「そうか?」

 「そうだよ。それにしても良かったねェ。スタンピードも何も問題なく終わって」

 「そうだな。戦争に大きな影響が残ることは無いだろうな」

 「うんうん。良かったよ。もし戦争がおじゃんになるような事があれば、ファフニールを殺してたかもしれないしね」


 サラッと恐ろしいことを言う花音だが、その顔はにっこりと笑っている。


 さっきも感じないし、冗談と受け取っていいだろう。


 「ファフニールに勝てるのか?」

 「勝てない相手ではないと思うよ。相手が魂を持った生物である限りね」


 花音はそう言うと、俺の後ろに回って抱きついてくる。


 背中に柔らかい何かを感じるが、俺はなるべく反応しないように務めた。


 「んー仁はいい匂いがするなー」

 「なんだよ急に」

 「仁は優しいって事だよ」

 「なんとそりゃ」


 何気ない会話をしながら俺は厄災級魔物達を見つめる。


 戦争が始まるまで残り約8ヶ月。


 その第1歩を踏み出す時は近い。


 「さぁ、復讐を始めよう」





これにて第三部2章は終わりです。次からようやく復讐パート!!とは言っても全てスッキリするのはまだ先........頑張るぞい

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