三姉妹VS地竜
揺れていたはずの大地が、ほんの一瞬だけ止まる。
そして次の瞬間、先程とは比べ物にならないほどの轟音と震えが襲ってきた。
「ラナー!!トリス!!」
「お姉様!!」
「お姉ちゃん!!」
不死鳥の制御を終えたシルフォードは妹達と合流すると、すぐさま防衛ラインを下げていく。
「ラナー、罠は?」
「問題無いです。ただ........」
ラナーは自信満々に答えながらも、どこか苦い表情をした。
不審に思ったシルフォードは、直ぐに聞き返す。
何か問題があれば、仁を頼らなければならない。
「ただ?」
「地形を少し変えてしまいそうなので........団長様辺りに怒られるかと」
「........後で一緒に謝る。多分許してくれるから」
「ありがとうございます。お姉様」
仁とて話が通じない訳では無い。わざとでは無いと分かれば、許してくれるだろう。
そう思いつつも、襲いかかってくる魔物を蹴散らしながら下がっていく。
かなり大暴れしたものの、魔物の数は一向に減ったようには見えない。
流石に、一万と言う大軍を相手に8人では限界があるのだろう。
シルフォードは自分の力不足を悔しく思った。
これが仁や花音ならば、1人でも殲滅できてしまう。力の差は歴然だった。
「グゴォァァァァァァァァ!!」
撤退を開始して数分後、遂に今回の主役が現れる。
小さな山とも見間違えるほどの大きさ、その背に背負った甲羅は何者にも傷つけることは敵わずその歩みを止められる者も無し。
世界最強と名高い竜種の1つであり、空よりも地を選んだ大地の化身。
たった一体でも小国ならば滅ぼせる程の力を持ち、最上級魔物の中では最高の硬度を持つ竜。
人々が恐れる竜が姿を見せた。
「来た」
「獣人組も問題無いようですね。それじゃ、容赦なく殺らせてもらいますよ」
「レッツゴー!!」
気を引きしめるシルフォードと既に罠の起動に入るラナー、そして楽しそうに腕を振り上げるトリス。
人々が恐れる竜が姿を表そうとも、彼女達に恐れはない。
彼女達は知っている。最上級魔物よりもさらに上、絶望を撒き散らす厄災級魔物の殺気を。
あれは、人がその身に受けていいものではない。恐怖で支配されるのではない。圧倒的“死”の予感に支配される絶望。
それに比べれば、殺気を撒き散らすだけの地竜は泣きくじゃる赤子に等しい。
「では行きます。
数多くの地竜がラナーの仕掛けた罠に足を踏み入れたタイミングで、ラナーは自身の異能を起動する。
多くの地竜が地面の中へと消え、数瞬の間を置いた後大爆発を起こす。
その爆発音は魔物達が踏みしめた行進の足音よりも、大地を震わせる程の咆哮を上げた地竜より大きい。
ドッゴォォォォォォォォォォォォォン!!
大気を揺らし、爆風を撒き散らすその爆発は何体かの地竜の息の根を止めるに至った。
それだけではない。
可燃性を持たない毒ガスは落とし穴から漏れ出すと、周りにいた魔物達の息の根を止めていく。
ラナーが作れる毒ガスの中でも最高峰の致死性を持つ毒だ。
多少耐性がある程度ではどうしようもない。
ある魔物は急激に顔を青くして倒れ、ある魔物は苦しみもがいて死に至る。
罠が発動すると同時に攻撃を仕掛けるはずだった三姉妹は、想像以上に想像以上な結果と光景に思わず足を止めてしまった。
「すっご........」
「全力で異能を使ったのは初めてでしたが、ここまで火力が出るんですね。消費魔力に目を瞑ればかなりのものですね」
「これ大丈夫?毒ガスの処理とか」
「問題ないですよ。私の意思で消せます」
「便利だねぇ。それじゃ、爆風の衝撃と轟音の振動で割れた窓ガラスも直せるのかな?」
「........え?」
得意げに自分の異能を分析していたラナーの顔が固まる。
彼女は、地形を変えるだけではなく街に被害を出したのだ。
「ま、マジでさが?」
焦りすぎて思わず言葉が変になってしまう。
それだけではない。呂律が上手く回らず、次の言葉が紡げなかった。
「マジマジ。ラナーお姉ちゃん、落ち着こう、顔が真っ青だよ?」
「だ、だってぇ........だってぇ!!」
ラナーは目尻に涙を溜め、今にも泣きそうになりながらあたふたと右往左往する。
ただでさえ地形を変えてしまっているのだ。それに加えて街の一部を破壊したとなれば叱責は免れない。
ラナーだけが怒られるならばそれでいいが、このままだと一緒に謝るシルフォードも巻き添えになってしまう。
「ラナー」
オロオロとするラナーの様子を見て、シルフォードは硬い口調で名前を呼ぶ。
「は、はい」
「今やるべきことは地竜の討伐。これが出来ないと更に怒られる。私は貴方の姉。妹の失態は私が拭う。気にしない」
「で、でも!!」
「でもじゃない」
「?!」
その目に込められた魔力は強引にラナーを黙らせた。
ラナーはこの目に見覚えがあった。
ラナーの祖父が大切にしていた壺を割ってしまった時、怒られるのが怖くて何とか隠そうとしていたのがシルフォードにバレた。
シルフォードは一緒に謝ろうとしたが、ラナーはそれを拒否。何とか隠し通そうとした時に見せた時のメニューそっくりだった。
「今試されるのは冷静さ。完璧を目指すのが悪いとは言わない。でも、失敗はある。団長だってそれは分かってる。次はやらないように誠心誠意謝れば分かってくれる。そして、それは今やるべき事じゃない。わかる?」
「う、うん」
「今やるべき事は?」
「地竜を倒す事........」
ラナーがそう言うと、シルフォードは優しい笑みを浮かべてラナーの頭を撫でる。
その手の優しさは、パニックに陥っていたラナーの心を癒していった。
「そう。ならやらなきゃ。大丈夫。私がいるから」
シルフォードはそう言うと、生き残った地竜に向かって魔法を放つ。
詠唱も無いただの火球だ。
精霊と契約していなくとも、この程度ならば火属性の魔力を持った者ならば再現できるだろう。
展開されてる魔法の数に目を瞑れば、だが。
「私の妹を泣かせた罪は重い。死を持って償え」
魔物たちからすれば完全に八つ当たりだが、シルフォードの知ったことでは無い。
火の雨が大地へと降り注ぎ、罠に巻き込まれたものの運良く生きていた魔物達は燃やされていく。
地竜もそうだ。
彼らが鉄壁の防御を誇るのは、その甲羅があるからであり、体内まで鉄壁を誇っている訳では無い。
一発一発は強くない。しかし、傷ついた状態で幾百幾千もの魔法を喰らえば傷は更に広がっていく。
「私も!!」
雨のように降り注ぐ魔法に一瞬目を奪われたトリスだが、自分のやるべきことを思い出して魔法を発動させる。
「千針山!!」
威力よりも範囲を優先した魔法。
土のトゲが魔物へと襲いかかり、その肉をえぐっていく。
だが、地竜を倒すまでには至らない。そもそも魔法が当たる寸前に魔法を相殺されていた。
「同じ属性魔法を使った場合は、練度と魔力量勝負かぁ。こればかりは年季の差だね」
トリスは少し残念そうに呟くが、目的は達成している。
地竜に魔力を使わせることには成功したのだ。
さらに言えば、運よく地竜を一体仕留めている。
「運よく一体は倒せたし、あとはお姉ちゃんに任せようかな。ほら、ラナお姉ちゃんもシルフォードお姉ちゃんの援護に行くよ」
「分かったわ」
調子を取り戻したラナーを見て、トリスはにっこりと笑うのだった。
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