獣人組VS地竜
三姉妹が地竜と対峙していた頃、獣人組も地竜と対峙していた。
「よし、間に合ったな」
「貴方、この中では1番足遅いものねぇ。間に合ってよかったわ」
「ゼリスさん!!プランさん!!」
「おや?私が最後でしたか」
「エドストル君、アウトー」
緊張感の無い会話だが、そこにはピリついた空気が流れている。
誰しもが周囲を警戒し、何かあればすぐさま動けるように構えていた。
「アレが
後方にあるエートの街の城壁よりも巨大なその体格は、圧巻の一言では片付けきれない程の威圧感を放っている。
彼らは元々、ファフニールという強大な者から逃げてきているのだ。
そこにいては死んでしまうと察して、命からがら逃げてきている。
目の前に立ち塞がるもの、は何者であっても踏み潰すつもりだ。
「でも、アスピドケロンさんよりは小さいね。あれば見上げても上が見えないもん」
「“浮島”の名を冠する者と比べてもしょうがないでしょうに。アレは規格外も規格外。地竜と比べるのはお門違いよ」
「一回アスピさんの上に登ったことあったけど、滅茶苦茶大変だった覚えがあるなぁ........上の方には雪が積もってたし、何より空気が薄い」
「え、ロナは登ったことあるのか」
「あるよ。凄く大変だった。アスピさんの山に住み着いている魔物とかも多いから、登ってる途中で襲われるんだよね」
何かを思い出したのか、げんなりとするロナ。
ゼリスにとって厄災級魔物とは敬意を払う相手であり、畏怖の対象である。
そんな化け物の背中に登るという命知らずな行為に、思わず顔をひきつらせた。
「いい加減、ゼリスさんも厄災級魔物に慣れたら?いい人ばかりだし、大抵のことは許してくれるよ?」
「無理言うな。あの御方たちを怒らせたらと思うとゾッとするね」
「団長様だって似たような力を持ってるじゃん。団長様は恐れないの?」
「主人だからな」
ゼリスの線引きに首を傾げるロナだったが、和やかなお喋りは大地を揺るがす轟音によって中断される。
先程まで遠足気分な雰囲気だった獣人組の全員が、臨戦態勢へと移った。
「ラナー殿の能力が発動したな。手筈通りに行くぞ。前衛は俺とエドストル。後衛はプランとリーシャだ。ロナは遊撃。好きなようにやれ」
「「「「了解」」」」
ここに来る前に軽く打ち合わせした陣形を組むと、プランが素早く矢を放つ。
かなりの砂埃によって視界が取れていないが、その隠す気も無い膨大な魔力の気配を目印に矢を次々に放っていく。
「速射はあまり得意じゃないんだけどね!!」
3秒間に50本も放たれた矢は的確に地竜へと向かっていくが、その硬い甲羅を貫けるだけの威力は無かった。
しかし、それでもラナーの攻撃によって傷ついた状態の地竜には有効であり、運悪く傷跡に追加攻撃を受けた地竜は悲鳴を上げる。
「三本当たり。その傷、記憶したよ?」
ニヤリと笑ったプランは、再び弓を構える。
先程の矢とは違い、攻撃力重視の矢を作り出すとギリギリと嫌な音を立てながら弓を引き絞る。
「天高く昇は流星の矢。落ちるは記憶、その身は貫かれ死に至れ!!“天流落死”!!」
短い詠唱共に、空に向けて放たれた矢はぐんぐんと空を昇り、遂には雲を超えて大気圏ギリギリにまで到達。
「リンドブルムさんの流星を見た後だと、流星とは言い難いわね」
プランはそう呟くと同時に、矢は進路を変えて大地を穿つ為に落ちてくる。
元々の矢の速さとそれに加わる重力。
更なる加速を得た矢は、的確に傷を負った地竜を貫く。
「グオォォォォォォォ!!」
しかし、相手は地竜。身体を貫通するには至らない。
「あら、体内で止まったみたいね。なら──────────私の勝ちよ」
パチンと指を鳴らすと、地竜の体内で止まっていた矢は急速に魔力を凝縮して爆ぜる。
幾ら地竜と言えとも、体内は他の魔物と変わらない。
かなりの魔力を込められた矢の爆発を、地竜が体内で受け止めきるには至らなかった。
「ノルマ達成ー。みんなも頑張ってね」
気の抜ける声で声援を送る。
次に動いたのはリーシャだ。
「体内からならや利用はあるね。
九尾の口から溢れる紫色の煙は、地竜達を覆っていく。
「地竜でも呼吸は必要だよねぇ?息吸ったら最後だよ?」
何体かが煙を吸い込んだ。
そして次の瞬間、首は落ち、全身から力が抜けて死に至る。
ダラダラと流れる血が、落とし穴に流れ血の湖を作り出す。
「余裕」
「........強すぎない?」
「息吸わなきゃ問題ないよ。それか、煙を吹き飛ばすか」
「いや、息吸わなきゃ死ぬじゃん。実質選択肢1つじゃん」
軽く引き気味のプランは、そう言いつつも矢を放ち地竜を牽制する。
相手を倒すと言うよりは、行動を制限するための攻撃だ。
なるべく位置を掴ませないように、矢を操って様々な方向から攻撃を加える。
しかし、地竜達とてやられっぱなしでは無い。
「........っ?!ブレス!!」
急激に高まる魔力。その反応を感じ取った瞬間にはゼリスは盾を構えて前に出る。
その強大な魔力を圧縮し、口から吐き出すように放つ“ブレス”。
竜種が最強と言われる所以であり、竜の切り札だ。
たった一撃で街は吹き飛び、その場に残った魔力はあまりの濃さによって一般人には毒となる。
そんな街を崩壊させるブレスの気配を感じとったゼリスは、正面に立つ。
放たれる閃光。
膨大な魔力を圧縮された光線は真っ直ぐゼリスに向かう。
流石のゼリスも、これを詠唱無しに受けるつもりはない。
「我は不変不動!!動かざるは不転!!その意志によって我は動かざる盾となる!!」
ゼリスが盾の底を地面に叩きつけると、盾は地面へと楔を打つ。
茶色を基調としていた盾だったが、その色は黒へと変わる。
「不転盾:黒!!」
盾が黒く染まり切ると同時にブレスが盾に直撃する。
後ろへは逸らさない。彼の後ろにはエートの街があるからだ。
「んぐぅ!!」
吹き飛ばされそうになるほどの衝撃がゼリスを襲うが、ゼリスは気合いで耐える。
ブレスを受け止めた余波が周囲の地面を抉り、ゼリスを頂点に広がっていく。
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」
5秒という短い時間。しかし、永遠とも感じるその時間をゼリスは耐えきった。
そして、不転の盾はその意志によって反撃する。
ところどころ焦げた盾を構えるゼリスは、にやりと笑うとブレスを吐いた地竜に向かって聞こえない声を呟く。
「竜の咆哮を知ってるか?!お返しだ、オラァ!!」
黒く染まった盾は急速に光ると同時に、竜のブレスを吐き出す。
地竜は慌てて逃げようとするも、その足は土によって形成された手に止められた。
「逃がすわけないでしょ」
「グッドだロナ」
街を崩壊させるブレスは、地竜を滅ぼす牙となって帰って来る。
ブレスは容易に地竜の盾を破ると、その中までもを焼き尽くす。
あまりの威力に、跳ね返した本人のゼリスですら目を見開いた。
「やべぇな。多少威力は上がってるが、ここまでとは」
「流石ですね。これで全員ノルマ達成です。あとは好き勝手に暴れましょう。取り残しは団長さんが何とかしてくれます」
「おう!!........あれ?エドストルとロナって地竜倒したのか?」
「もう既に殺ってます。私の異能も使い方次第ですね」
「星は鈍器」
「お、おう........」
何を言っているのか少しわからなかったゼリスは、とりあえず適当に頷くだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます