冷徹な罠&断頭台
燃え盛る不死鳥が道を切り開く中、その道を辿りながらラナーは自身の異能を使って罠をしかけていく。
「護衛は任せましたよ。トリス」
「大丈夫。この程度なら負けないよ」
“
本来の罠とは違い、込めた魔力量に応じて手加減すらもできるその能力でラナーは地雷原を作り始めた。
もちろん、そうしている間にも魔物の波が襲ってくるが、妹のトリスが守ってくれている。
「ラナーお姉ちゃんに群らがるな!!魔物共が!!」
襲ってくるゴブリンを右の拳で吹き飛ばし、その後ろにいたオークまでも巻き込む。
しかし、それだけでは周りの魔物全てを退けるまでには至らない。
トリスは右腕に魔力を込めると、地面に拳を打ち付けた。
「はぁ!!」
地面に浸透した魔力は、トリスの武器となる。
「千針山!!」
魔力によって操られた地面は、幾千ものトゲとなって魔物の群れに襲いかかる。
ラナーとトリスを中心として、外に向かって放たれた土の棘は容易に魔物を貫いた。
それだけでは終わらない。
久々の実践、命のやり取りの中で若干ボルテージが上がったトリスが吠える。
「まだまだァァァァァァ!!其の大地は裁きの鉄槌!!判決!!お前らは死刑だ!!」
魔物達を貫いた土のトゲはその形を変える。
かつてフランスで使われた人道的処刑法であるギロチンが姿を表し、その煌めく刃は愚者を捕らえる。
「グゴォ?!」
「ピギィィィ!!」
狙われたのは上級魔物達だ。
いつも間にかその足は抑えられ、気づけば断頭台の上へと登っている。
右手を振り上げたトリスは、狙った魔物全てが捕まえられていることを確認するとその右腕を振り下ろした。
「処刑!!
処刑は一斉に行われ、魔物の首は面白いように吹き飛んでいく。
オーク種の魔物はその断頭に耐えれる訳もなく、スコーピオン系の魔物はその硬い甲殻で斬首そこ逃れたものの、トン単位の重さに耐えることが出来ずに潰れていく。
血なまぐさい臭いと、昆虫の体液が混ざりあった悪臭が周囲に溢れるが、戦闘に集中しているラナーとトリスの鼻にはあまりその悪臭が入ることは無かった。
ラナーは成長したトリスを見ながら罠を仕掛けていく。
ラナーの異能によって作られら罠は特殊だ。
対象指定から、重さによる判別、更にやろうと思えば不可視にすることすらできる。
どこぞのイカれた団長や副団長のように、真正面から罠が相手を感知して作動するまでの間に走り抜けられたりしなければ、問題ない。
「対象指定、
次々と罠に設定をしていくラナー。
既に並の魔物がその罠に足を踏み入れれば、その肉片を周囲に撒き散らして死ぬ事になるほどの火力がある。
しかし、その火力で
確実に仕留められるように、ラナーは自身の考えうる最強の罠を張る。
「毒ガスも入れておきましょう。ついでに水没トラップも作っておきますか........全く、もう少し準備の時間があればもっと楽なんですがねぇ」
エドストルがシルフォードに戦争に参加したい事を相談していたのは知っている。
初めは団長の決定に不服があるのかと怒りさえしたが、それが親の敵討ちと言われるとラナーも何も言えない。
家族を失ったものとしての苦しみは分かっている。
いつかは相談しなければとは思ったし、大軍との戦いを身につける必要もあったが、いくらなんでも急すぎる。
初めて会った時から自由奔放で、ダークエルフと知りながら快く自分達を受け入れてくれた団長らしいと言えばらしいが、振り回される気持ちを考えて欲しいとは思う。
「トリスも随分と楽しそうね?........テンション上がりすぎて滅茶苦茶じゃない」
トラップを設置し終えたラナーは、周囲を見渡すとそのは地獄絵図だった。
首を切り捨てられたオークや、正方形の土に潰され、肉片が飛び散るゴブリン、頭を潰されても尚、その溢れる生命力で尻尾だけを動かすスコーピオン。
耐性がないものが見れば、間違いなく吐くであろう光景に思わずラナーも顔を顰める。
「お?お姉ちゃん、仕込みは終わったの?」
魔物の返り血を一切浴びていないトリスは、輝く笑顔をラナーに見せながら未だ途絶えることない魔物の波に向かって魔法を放つ。
土によって作られた杭が、魔物の体内を抉り、勢いが落ちると、トリスが手をグッと握りしめ、その杭を破裂させる。
飛び散った破片は、下級魔物のゴブリンや中級魔物のオークに突き刺さり、死ぬには至らないもののダメージを与えた。
そして、魔物の波は弱き魔物を飲み込む。
痛みに怯んだ魔物は、後ろからやって来る魔物に踏み潰され、無惨な死を遂げるのだ。
「普段の組手だと使えない危険な魔法も使えるから楽しいね。魔物相手だから容赦なく魔法を使えるよ」
「それが目的ですからね。お姉様に至っては、普段かなり火力を抑えてますし。まぁ、今も抑えてますが........」
チラリと横を見ると、燃え盛る不死鳥が魔物の群れを焼き尽くしている。
最初、放った時よりも少し小さくなっている気もするが、ラナーには関係の無いことだ、
「罠はどのぐらい仕掛けたの?」
「かなり本気で仕掛けました。
「全部殺っちゃダメだよ?ちゃんとみんなの分を残さないと」
「わかってますし、流石に150匹の地竜を殺せるほどの範囲と火力は出せませんよ。そもそも、私戦闘には向いてないタイプですし」
「団長さんとかなら嬉々として殴り込みに行くんだろうけどねぇ。しかも、普通に勝てそう」
「アレは私達の常識で測っていい人物ではないですよ。団長様、頭のネジが何本か外れている上に、全てのネジが緩んでますから」
「あははっ!!ひっどい言われようだねぇ」
「事実ですから。普通、私の罠が自分に効くのか?とか言って最大火力の罠を自分に仕掛けるように言う人とかいませんからね?」
今思い返してもゾッとする話だ。
面白そうだから、気になったからと言って、自分の命を軽々ベットするような真似をする人間をラナーは彼以外に知らない。
もちろん、勝算は高いのだろうが、思いついても普通やるか?
「ほんと、変わり者に拾われましたね」
「そのおかげで、こうして顔は隠せるようになったし、人の街にも行けるようになったんだけどね」
「そこは感謝ですかね。まぁ、その他が酷すぎてプラスマイナスゼロですが」
ラナーはそう言うと、普段のお淑やかな雰囲気ではなく、凶暴な捕食者の雰囲気を醸し出す。
目の瞳孔は開き、その目はまるで獲物を見つけたライオンだ。
「さて、お目当てが出てくるまでは、私も暴れましょうかね。既に何体も後ろに流していますし、お姉様の負担は少ない方がいいですから」
「蹂躙じゃー!!」
かつては魔王共に人類の敵となったダークエルフ。
しかし、長い世代を超え、今は人々を守る英雄になり始めている事に彼女達は気づかない。
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