大地の虚像&深き紫煙
燦々と照りつける太陽は、干からびたはずの荒野を更に干上がらせる。
その暑さは尋常ではなく、その地に適応できない動植物、そして、魔物は全て排除されてきた。
そんな死の大地を克服してきた魔物達であったが、今、2人の獣人によって干からびた大地は血によって潤される事となる。
「姉さんは僕の援護。僕は真正面から突っ込む。もしヤバかったらちゃんと助けてよ?」
「大丈夫よ。世界にたった1人の弟を見殺しにはしないって」
1万もの魔物の大軍、常人であれば恐怖に支配されながら逃げるか、それとも死を受けてれながらも抗うか、どちらかを選択するであろう光景。
しかし、白く輝くその獣人達は、恐怖に支配されることもなければ、死を受け入れることも無い。
「........ちなみに、副団長様と僕の命、どちらかしか助けれないってなったら姉さんはどうする?」
「................................................も、もちろん弟の命よ」
「絶対嘘」
緊張感はある。
この魔物の波の後ろに控える
厄災級魔物と恐れられ、時として人々の歴史にその名と恐怖を刻んできた者達との訓練を受けてきたとはいえ、本気の最上級魔物、それも最強と名高い種族である竜種との戦いは初めてだ。
厄災級魔物は自分達の命までは狙わなかったが、今回は違う。
正真正銘の殺し合い。
勝ったものが正義であり、弱き者は淘汰される。
「な、なら、ロナは私と団長様の命どちらを選べと言ったらどうするの?!」
「それはもちろん、僕は団長様を選ぶよ?姉さんも大事だけど」
「えぇ........殺る前から萎えるわ........」
若干引き気味の姉と、どこか誇らしげな弟。
「そろそろ射程圏内だね」
「そうね」
ゆっくりと、それでいて着実に進むその歩みを魔物達は止めることができるのか?
「それじゃ、予定通り行こう。団長様と副団長様に無様な姿は見せられない」
「行きましょうかロナ。この魔物共の血を私達が敬愛するあの方々に」
答えは──────────
「
「
“否”、だ。
酷く乾いた荒野の大地に2本の巨大な土の腕が現れる。
その大きさは、空を飛び、魔物を焼き尽くす不死鳥よりも大きい。
「先ずは、挨拶がわりの一撃ぃ!!」
巨大な腕は、ロナの動きに合わせ、タイムラグ無しに動き始める。
普段の武術は使わない。
圧倒的質量は、それだけで驚異となるのだ。
ロナは両腕を振り上げて地面に叩きつけると、巨大な腕も同じく両腕を振り上げて地面に叩きつける。
ドゴォォォォォォォォン!!
魔物の行進が大地を揺らした時以上に大地が揺れ、砂埃を巻き上げる。
運悪く巨大な腕の下になってしまった魔物達は、圧倒的質量を誇るその腕によって押しつぶされ、まるで血を吸った蚊が叩き潰されたかのように大地にその血を流していく。
「ちょっとロナ!!これじゃ前が見えないでしょ?!」
「どうせ姉さんの能力で煙に覆われるじゃん!!大して変わらないよ!!」
砂埃が目に入らないように腕で視界を遮るリーシャは、後先考えない弟に呆れつつも異能を展開する。
具現化されたキセルを吸い、紫色の煙を吐き出す。
「全く、昔から手間のかかる弟だわ」
「そーれ!!もう一丁!!」
呆れながら能力を展開し始める姉には目もくれず、ロナは振り下ろした腕をもう一度振り上げて振り下ろした。
しかし、先程のような轟音が響くこともなければ、砂埃も舞い散らない。
ロナは、何があったのかをすぐさま把握した。
「........ん。腕が砕かれた」
「あら?
「........となると──────────おっと」
まだ晴れぬ砂埃の中から、鋭い棘を持った尻尾が襲ってくる。
ロナは受け止めたり受け流すようなことはせずに、大人しく後ろに引いて避けた。
ロナの何倍もあるであろうその尻尾は、荒野の地面に突き刺さる。
ロナは注意深くその尻尾を見ながら、先程言いかけた言葉を言い直した。
「となると、相手は手練、その大きい尻尾を見るに、相手はジャイアントスコーピオンかな?」
「脳筋蠍ね。ロナの腕を砕くなんてかなりのものじゃない?」
「そうだね。まぁ、僕の周りには欠伸混じりに腕を砕くメンバーの方が多かったけど........」
ロナはそう言いつつも、次の腕を準備して、姿を表したジャイアントスコーピオンの身体を殴りつける。
だが、ガン!!と、硬い甲殻に腕は阻まれ、その腕は巨体たハサミに砕かれてしまった。
「かった。これは工夫しないと無理だよ」
「援護はしてあげるから、頑張ってみなさい。そんな調子じゃ
リーシャはそう言うと、紫色の煙を操って形を作っていく。
「九尾の幻影に囚われなさい“偽装八尾”」
煙から形作られたのはリーシャそっくりな8つの分身。
その全てがリーシャであり、その全てが偽り。
分身はジャイアントスコーピオンへと走っていくと、ありえないほど揃った連携で攻撃を開始する。
「グギギギギギギピィィィィィ!!」
ジャイアントスコーピオンは分身を羽虫を払うかのようにハサミや尻尾を振り回すが、どうも実態を捕えられない。
攻撃が当たっている感触はするのだ。しかし、吹き飛んだ様子もなければ、どこかに傷を負った様子もない。
ジャイアントスコーピオンはさほど賢い魔物ではない。
本能のままに生きるが故に、その幻影に翻弄され続ける。
「これがイスちゃんや厄災級魔物なら話は違うんだろうけど、筋肉しか詰まってない脳では私の幻影からは逃れられないわよ?」
どこからともなく聞こえる声、ジャイアントスコーピオンはその声に反応して尻尾を振るうが、そこには紫色の煙がゆらゆらと佇むのみ。
そしてその隙をロナは見逃さなかった。
「
突如として現れる巨大な土の腕。
その腕は、ジャイアントスコーピオンの尻尾を掴むと勢いよく空へと放り投げる。
「前に団長様が言ってたんだ。誰もが使えて、尚且つ最強の鈍器があるって」
幾ら最上級魔物とはいえ、空を飛ぶ機能をつけていなければ宙をもがくのみ。
天へと昇ったジャイアントスコーピオンは、途中で止まると重力に従って落ちていく。
「それはね........」
落ちてきたジャイアントスコーピオン。
ロナは両腕を振り上げると、そのまま落ちてきたジャイアントスコーピオンを地面と土の腕でサンドイッチする。
「この星だよ」
ドゴォ!!ベキメキクシャァ!!
大地を揺らす轟音と、並大抵の事では壊せない甲殻の砕ける音。そして、その甲冑の中の肉が弾ける音までもが混じり合う。
人を地面に叩きつけももう少しマシな音が鳴るだろう。
さらに言えば、衝撃により周りの魔物までも巻き込んでいる。
赤と緑の血が混じりあった荒野は血で潤されていた。
「うんうん!!絶好調!!」
「少しやりすぎな気もするけど、まぁいいか」
白い猫と狐は、さらなる牙を見せて魔物を喰らう。
獲物が目の前から消えない限り、彼女達の目は捕食者だ。
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