特別講師終了

 赤腕の盾レッドブクーリエの特別講師として傭兵たちに戦い方を教える日々が続き、1ヶ月。


 当初予定していた契約期間の最終日になった。


 「あっという間だったな」

 「おう。俺達も学べるものが多かったぞ。他の団員も随分と動きが良くなってる」


 最後の授業という事で、今回は揺レ動ク者グングニル総出だ。


 もちろん、表に出せない厄災級厄介者達は連れてきていない。


 あぁ、例外として吸血鬼夫婦は連れてきてるけど。


 アッガスと並んで見るその先には、フルボッコにされる赤腕の盾の団員達がいた。


 今回は教えとして戦うのではなく、力を見せつけるように戦えと言ってある。


 殺してはないが、容赦がなかった。


 「しかし、全員ここまで強いとは思って無かったぞ。見ろよスンダルさんとか動きが人間じゃねぇよ」


 アッガスの視線の先では、とてつもない速さで鎌を振り回しながら赤腕の盾の団員を叩きのめすスンダルの姿が映っている。


 力任せに振り回しているのではない。


 力の流れを理解し、その流れに沿って動かされる鎌はまるで生きているかのようにスンダルと共に動く。


 相手の剣を絡め取り、放たれる矢を切り裂き、魔法や異能までもが無力と化す。


 流石に“黒薔薇の刻印ブラックローズ・イングレイヴ”は使っていないが。


 あれ、刻まれた黒薔薇の本数によって対象に何らかの効果を与える能力なんだけど、17本目の“絶望的な愛ディスペア・ラヴ”は魂を侵食して即死させるんだよなぁ。


 俺や花音程の魔力量があれば抵抗できるらしいが、死ぬ前にこの黒薔薇を解除しなければ意味が無い。


 ちなみに、解除方法はスンダルを殺す以外にないそうだ。


 強すぎ。


 俺は、「まぁ、人間じゃないからな」とは言う訳にも行かず、とりあえず黙っておいた。


 「他にも、ストリゴイさんとかもエグイな。あれ、どうやって突破するんだ?」


 チラリとスンダルの横を見れば、ふはは!!と笑いながらその能力で団員たちを蹂躙するストリゴイ。


 彼の異能“黒血の海ブラッド・メーア”は自身を中心として血の海を創り出し、それを自由に操ることが出来る異能だ。


 本気で異能を行使すれば、バルサルの街一つ程度は軽く覆えるらしい。


 範囲広すぎやろとは思わなくもないが、中には世界を一つつくる様な異能すらもあると考えるとまだ優しいのかもしれない。


 ........いや、冷静に考えて都市1つを飲み込めるのはやべーわ。


 流石は厄災級魔物。格が違う。


 「まぁ、俺の部下だからな。強いに決まってるだろ?」

 「ちなみにだが、ジンとあの二人、本気でやったらどっちが強い?」

 「タイマンなら俺、二対一なら1:9ってところか?」

 「........え?ジンが9?」

 「俺が9だな。タイマンならまず負けねぇよ。俺の異能は大抵の相手なら有利になるし」


 ........俺の異能、使い方次第でこの星消せるんだよ。


 あの島にいた頃に必殺技を考えて作ったら、想像以上の威力で小さな山が一つ消し飛んだ。


 あの時ばかりは、出力を最小に抑えてよかったと思っている。


 “そんな馬鹿な”と言いたげなアッガス。


 しかし、お互いが本気で手加減一切無しならまず間違いなく負けない。


 まぁ、この星に被害を出さないという縛りが入れば少し苦戦するだろうが。


 「お前、そんなに強いのか?」


 実際にスンダルとストリゴイの強さが身に染みている故の言葉だろう。


 だが、俺はお前以上にあの二人を知っているのだ。


 あの二人の強さと弱さを。


 「仮にも団長だぞ?その気になれば、全員を相手にしても勝てるね」


 この世界が滅ぶからやらんけど。


 「ジン、お前実はすごい奴凄いんだな」


 “実は”ってなんだよ“実は”って。


 俺は心の中で、今度アッガスと手合わせする日が来たら思いっきりシバキ回してやろうと心に決める。


 泣いても許さんからな?


 俺がそんなことを思っているとは露知らず、アッガスは他の団員を見渡して静かにため息をついた。


 「イスちゃんも想像以上に強いし、カノンに至っては何故か“姐さん”だし、シルフォードさんは炎の扱いがとても上手いし、ラナーさんはえげつない戦い方だし、トリスちゃんは普通に強いし、獣人達も個性的で強い........この傭兵団この国で1番強くね?」

 「ようやく気づいたか。数じゃどうにもならない強さってのがあるんだよ。多分、この人数だけでもアゼル共和国程度なら落とせるぞ」


 俺が冗談を言うと、アッガスは少し青い顔をしながら苦笑いする。


 「あっはっは。頼むからやめてくれよ?お前達と本気でやり合って勝てるわけないからな」


 多分、滅ぼすだけならシルフォードだけでもできるのではないだろうか。


 地形すら変える精霊の炎。


 青く揺らめく精霊の業火は、その国を飲み込んで死を招く事すら可能だろう。


 イスも余裕でできるな。魔力量次第だが、この国を氷の彫像にできる。


 俺は言わずもがな。


 スンダルとストリゴイも単純な力押しでできるだろう。


 花音は........分からん。異能次第な所はあるが、俺も花音の異能を正確には把握出来ていない。多分、なにか隠してるだろうし。


 ロナは無理だろうな。異能の使い方次第かもしれないが、国一個を相手するだけの継戦能力が無い。


 同じ理由からゼリス、プラン、エドストルも無理だろ。


 獣人の中で、唯一アゼル共和国を単独で落とせる可能性があるのはリーシャだな。


 あの煙を吸い込んだ相手を問答無用で死に追いやる様な技があれば、行けるかもしれない。


 どうも、“深き紫煙Deep・Purple”は消費魔力が少ないようだし。


 「おーい。何やってんだ?」


 俺の冗談に顔を青くしていたアッガスの肩を叩きながら、笑顔でやってきたバラガス。


 あちこちに土が着いているのを見るに、誰かに挑んで転がされたのだろう。


 顔を青くしていたアッガスは、団長が来たことに気づくと直ぐに顔色を直す。


 「いえ、ジンがこの国程度なら余裕で落とせると言う話をしてました」

 「あっはっは!!できるだろうなぁ。なんせ、全員が灰輝級ミスリル冒険者並に強い。少なくとも、俺達100人ちょっとが纏めてかかっても、次の瞬間にはあの世生きよ!!」


 豪快に笑いながら、アッガスの背中をバシバシと叩くバラガス。


 アッガスはどこか困った顔をしながら、話を続ける。


 「団長はどうでした?今回の演習は」

 「良かったぞ!!お前が面白い奴がいると聞いて半信半疑だったが、呼んで良かったな!!強いし、教え方は上手いし、何より人がいい!!以前呼んだ宮廷魔導師とかこっちを見下しまくってたからな........」

 「あーあれは酷かったですね。なんで呼んだのか不思議なぐらい」

 「まぁ........色々あったんだよ。国を代表する傭兵団ともなると、色んなしがらみが多くてなぁ」


 詳しくは聞かないが、以前来た特別講師は酷かったようだ。


 宮廷魔導師と言っていたが........どこの国だろうか?


 この国には宮廷魔導師と言う役職は存在しない。


 アゼル共和国だと魔導師団って名前だし。


 うーん、もしかしなくても俺たちが目立ちすぎるとその厄介事が舞い込んできそうだ。


 出来れば遠慮したい。


 アレだな。最悪あのジジィに何とかしてもらうか。


 「ジンも気をつけろよ。いくら強くとも、国家権力には勝てねぇからな」

 「ぷはは!!それは国の暴力の方が強い場合だろ?安心しろ。国家権力如きに負けるほど俺達は弱くねぇからな」


 まりと真面目に答えたつもりだったのだが、どうやらバラガスは冗談だと思ったようで“あっはっは!!その通りだな!!”と軽く流した。


 本当なんだけどなぁ........

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