亜人連合国の現状②

更新時間変えると言っておきながら、作者が忘れてました。ほんっとすいません。ごめんなさい。




 


リザードマンとハーピィが殺気を向けあっていると、再び扉が開かれた。


 「あら?随分と不穏な空気ですなぁ?。やはり本能のままに生きる鳥と爬虫類は相変わらずですやわぁ」

 「あ?もっぺん言ってみろやクソ蛇。地を這うことしか出来ない“腹這い”が調子に乗るなよ?」

 「爬虫類は貴様だろうが!!足も無い腹這いがほざくな!!」

 「........爬虫類はやめてもらいたい」


 現れたのはラミアと呼ばれる種族。


 不健康そうな真っ白な肌をした人型の上半身と、蛇の体をした下半身。


 何も知らない者が見れば、人類を滅びに導きその世界を石に変える厄災“蛇の女王”メデゥーサにも見えるだろう。


 事実、かつてメデゥーサに滅ぼされたり被害を被った歴史を持つ国では、ラミア種の亜人は厄災を振りまくものとして魔物と認定されていたりする。


 しかし、メデゥーサとラミア、この2つには明確な違いがある。


 それは、魔石を体内に所持しているか否かだ。


 魔石を所持していれば魔物として扱われ、魔石がなければ魔物ではない。


 それが、この世界の認識である。


 正確には、学問上における区分がそうなっているだけであって、今でもラミア種を魔物として扱う国は多い。


 どこぞのお気楽な厄災の被害を受けていた。


 そんな少し可哀想なラミアは、ハーピィと仲が悪い。


 その昔、それこそ2500年以上も前にラミアとハーピィは大きな戦争をしている過去がある。


 結局、その戦争は大魔王の出現によって強制的に引き分けとなった訳だが、恨みが消えることは無かった。


 そして、今の代でもその負の遺産は脈々と受け継がれている。


 そんなラミア達は、足がないという事を気にしており、地面を這うように移動する事から名付けられた“腹這い”という言葉をとにかく嫌う。


 もちろん、それを分かっている上でリザードマンとハーピィはその言葉を浴びせていた。


 ラミアの長であるミストは、ほんの少しだけイラッとした表情を作ったものの、すぐさま笑顔に戻る。


 「ふふふ。鳥頭と翼の無いモドキがよく吠えますなぁ?それに比べて、新入りは分かっておりますなぁ。シンバル殿。確かに爬虫類はわて達にも当てはまりますさかい。申し訳ないですわ」

 「一応、講義はしたがさほど気にしていない。謝罪は受け入れよう」


 まさか謝られるとは思わなかったシンバルは、少し驚きつつも素直に謝罪を受け入れる。


 新参者である彼は、まだ距離感を掴みかねていた。


 そして、その謝罪を見て待ったをかけたのがハーピィの長シレスである。


 その翼を大きく羽ばたかせながら、キンキンと頭に響く声で叫んだ。


 「ちょ!!なんでトカゲモドキには謝罪して、私には謝罪がないよのよ!!空も飛べなければ足もない“腹這い”なんだからハーピィ族にも頭を下げるべきでしょ?!」

 「やはり、本能でしか話せない鳥は頭が悪くて困りますなぁ?その小さいおつむにすら脳みそが入っていないんとちゃいますか?あぁ、おつむどころか、胸もないですなぁ」

 「はぁぁぁぁぁ?!あんたみたいな脂肪の塊を付けて飛べるわけないでしょ?!それどころか、歩くことすら出来ないじゃない!!........あぁ、そっか。だから足がないのね?その胸の重みで歩くことすらままならないから、地を這うのね?」

 「頭も胸も空っぽだから空を飛べるのかしらねぇ?羨ましいわぁ。何も考えなくて生きれるって。わては考えながらしか生きれませんのでなぁ」


 ヒートアップする言い合いは、次第に種族を貶すのでは無く個人を貶すようになっていく。


 キリキリと叫ぶシレスとのらりくらりと嫌味を言うミスト。


 そして、あまりに熱くなりすぎた言い合いは、それまで熱くさせていた者を冷静にさせる。


 「........コイツらと同じ土俵で言い合うのが馬鹿らしくなってきたわ」


 リザードマンの長であるリベルは冷静さを取り戻し、どこか呆れた目で言い争うハーピィとラミアを見るが、ハーピィと言い合っていた時点で既に自分も同じだと気づいていない。


 大人しく椅子に座り直したリベルを見て、シンバルは指摘してやろうかと思ったがこれ以上の面倒ごとはゴメンだったので大人しく腕を組んで残りの2種族を待つ。


 ハーピィとラミアの言い争いを聞くこと10分程たった頃、扉が開かれた。


 「相変わらずうるさいな。外まで声が漏れていたぞ」


 現れたのは鬼人と呼ばれる1番人に近い亜人種だ。


 人とさほど変わらない見た目に、額から伸びた立派な角。


 その立派な体格とは裏腹に、どこか優しそうな雰囲気を纏った鬼人の男“阿修羅”は、言い争うハーピィとラミアを楽しそうに見る。


 「........そう思うのなら止めて欲しいがな?」

 「ん?おぉ、シンバルか。いいか、覚えておけ。女の争いに首を突っ込むと、ろくなことにならんぞ」

 「........」


 シンバルは、それ以上何も言わなかった。


 鬼人。


 見た目が人に近い彼らだが、その角は魔力制御や魔力貯蓄の性能が備わっており、かつてはその角を狙って狩る者が多かった。


 中には見た目がいい鬼人も多くいた為、奴隷として扱われていた歴史もある。


 一般の人間よりも優れた魔力操作と、比較にならないほどの魔力量があったものの、繁殖力が低く数の多さで負けてしまった。


 しかし、大魔王が出現した時期に彼らは人間の手を離れ、大魔王が封印された後に戦争を起こした。


 当時まだ魔物扱いされていたラミアやリザードマン達をまとめ上げ、大帝国と大エルフ国に挑んだのが初代“天聖”である。


 今から約2350年程前の話だ。


 その後、イージス教の教えにより和解を申し出た大帝国とは不可侵条約を結んでいる。


 しかし、大エルフ国とは和解も一切なく、戦争中に流行った病によりなぁなぁで戦争が終わっている。


 そのため、いつか戦争が再開されると亜人連合国も大エルフ国も思っていた。


 そのような歴史があるため、鬼人族は他種族よりも数が少なくともこの会合に呼ばれている。


 「“天聖”はどうした?」


 自分の席に着いた阿修羅は、隣にいたリベルに話しかける。


 鬼人は、基本的にどの種族にも友好的な態度をとる。


 プライドは高いが、相手も尊重できるだけの良識はあった。


 「俺が知るわけないだろ。本人に聞いてこい」

 「いや、その本人がいないから聞いてるんだけどね?」


 ぶっきらぼうに答えるリベルだが、その態度はどこか柔らかい。


 リベルも自分たちを見下さない鬼人達には優しい。


 争いは同じレベルでしか起きないわけだ。


 「そういえば聞いたかい?どうも最近、神聖皇国の動きがきな臭いらしいんだ。もしかしたら戦争が起こるかもって家の有識者が言っていてね」

 「ほう。阿修羅殿もその事を掴んでいたのか。我らも同じような情報を掴んでいる。そして、同じ見解だ」

 「へぇ?やっぱり情報は手に入れてるんだねぇ。それで、どう思う?」

 「どう思うとは、随分とざっくりした質問だな?もう少し絞れ」

 「神聖皇国がドンパチかますと言えば、大方相手は正教会だろう?俺達もしても正教会国は邪魔だ。上手くやれば神聖皇国に恩を売れるんじゃないか?」

 「人間に手を貸せと?」

 「そうさ。神聖皇国の教えはまともだからね。大エルフ国はともかく、大帝国とは手打ちが済んでいるし、手を貸すのはありだとも思う」


 人間と共闘する。


 人間に排斥されてきた歴史がある亜人からすれば、不愉快でたまらない話だ。


 リベルとしては手を貸したくないが、国のことを考えればありかもしれない。


 「........“天聖”を待つとしよう。俺としては嫌だな」

 「そっかー」


 未だに言い合いを辞めないハーピィとラミアを見ながら、阿修羅とリベルは静かにまだ来ないその者を待つのだった。

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