亜人連合国の現状①
作者の都合により、更新時間を変更させていただきます。昼の12時から、夜の12時(0時)に移動します。
次の更新は18日の0時です。
よろしくお願いしますm(_ _)m
大帝国から更に東、大エルフ国から北北東に位置する亜人連合国。
ドラゴニュート、リザードマン、マーマン、ハーピィ、ラミア、インゼクト、ケンタウロス、鬼人等など、様々な種族が集まってできたのが亜人連合国だ。
その種族の種類はかなり細かく、数えればキリがないと言われている。
そんな亜人連合国は基本的にその種族ごとに集落を作って暮らしており、他種族との関わりは薄い。
しかし、他種族の持つ技術などは積極的に交換したりするので、文明レベルは人間とさほど変わりはなかった。
そして、亜人連合国はその様々な種族を代表する者達によって運営されている。
亜人の種族は多い。だから、その中でも数が多い種族の幾つかが代表となっているのだ。
「........他の奴らはまだか?」
そんな代表の1人であるドラゴニュートのシンバルは、誰もいない部屋で椅子に座り腕を組む。
彼はドラゴニュートの中でも赤竜と呼ばれる種族の者であり、他種族のドラゴニュートを纏めている。
ドラゴニュートは基本的にプライドが高く、他種族の下に付くことを嫌う彼らだが、決闘に負けた場合は従わなくてはならない。
シンバルはそんな決闘を勝ち抜いてきた猛者だ。その肉体には、歴戦の傷があちこちに残っている。
中でも目を引くのは、その左目に大きく傷ついた跡だろう。
目を跨ぐようにつけられたその傷は、見ているだけでもその戦いの激しさを物語っている。
そして、そんな傷を負った目はとても不機嫌そうだった。
「えぇ。まぁ、こればかりはしょうがないかと。この亜人の杜は我らが1番近いですからね」
シンバルの後ろに控えていたドラゴニュートの青年は、どこか嫌そうな雰囲気を出しつつも答える。
それもそのはず、ドラゴニュートのみならず亜人はとにかくプライドが高い。
人間の世界を体験したことのある亜人は別だが、基本的に身内で世界を完結させている彼らは他種族を見下す癖があった。
かつて、人間に魔物として排除されてきた歴史もその要因の1つだろう。
2500年ほど前にその差別はなくなり始めたが、彼らの恨みが消えた訳では無い。
そして、そんなプライドの高いもの達が集まればどうなるか。
答えは火を見るよりも明らかである。
部屋の扉が開き、ドラゴニュートに似た姿をした亜人が部屋に入る。
自分が2番目だと知り、自分達よりも前に来ていたドラゴニュートを見て鼻で笑いつつ挨拶をした。
「シンバル殿お久しゅうございます。流石は、最近会合に呼ばれるようになったドラゴニュートは、随分と早いようで」
挨拶という名の皮肉が飛んできたが、シンバルは眉を1つも動かすことなく挨拶に応えた。
「リベル殿か。相変わらず数が多いようだが........陸路は大丈夫だったか?疲れているように見える」
リベルと呼ばれたリザードマンは、少しだけ歯ぎしりをした後、できるだけ平静を装って応えた。
「問題ありませんよ。それよりも御自身の心配をしては?空路も危ないでしょう?ドラゴニュートの象徴である翼が折れているところなど私は見たくありませんのでね」
「ご忠告感謝しよう。リベル殿たちも気をつけるといい。その立派な爪が折れているところは我も見たくないのでな」
ピリピリとした空気が部屋を満たす。
ドラゴニュートとリザードマン。
彼らは姿こそ似ているが、大きな違いが幾つかある。
1つは繁殖力。
ドラゴニュートは繁殖力が低く、つい最近までこの会合に呼ばれない程しか数がいなかった。
その一方で、リザードマンは繁殖力が高く、古くからこの会合に参加している。
また、一般的にドラゴニュートのほうが強いと言われておりリザードマンはその弱さを数で補っていると言われている。
そして、リザードマンはその事を気にしている者が多い。
最初の皮肉の籠った挨拶は、その事を言っているのだ。
そして、もう1つ大きな違いがある。
ドラゴニュートには翼があり、リザードマンには爪があるという事だ。
正確には、ドラゴニュートにも爪はあるのだが、竜の様な立派な物は持っていない。
せいぜい猫の爪程度だった。
ドラゴニュートは竜のような爪が無い事をリザードマンは竜のような翼がないことを妬んでおり、お互いの仲は険悪と言って差支えがない程だ。
だからこそ、暗に“折れちまえ”と言い合っている。
亜人連合国と言う括りがあるからこそ彼らは戦争などを起こしたりしないが、もしも国という縛りがなければ今すぐにでも争っているだろう。
それほどにまで仲は悪い。
良くもまぁ、この関係で技術交換できるものだと思うが、技術の大切さは2500年以上も前から身に染みてわかっている彼らは先代の言葉を守っている。
かつて魔物として排除されてきた彼らは、己を守るためには憎い相手でも手を取り合う大切さを知っていた。
「........」
「........」
皮肉を言い合ってからお互いに何も話さない彼らは、重い空気の中ただひたすらに残りの代表が来るのを待つ。
シンバルの後ろに控えるドラゴニュートの青年は、この時間が苦痛で仕方がなかった。
ドラゴニュートとしては大分リザードマンに対して友好的な彼は、このギスギスとした空気が嫌いだった。
もっと言えば、他種族とのやり取りもこの様な感じなので、それもいやだった。
(なんで仲良くできないんだろう?同じ亜人種として、手を取り合うことが出来ればもっとこの国を豊かにできるだろうに)
もちろん彼はそう思っても口には出さない。
そんなことをすればシンバルに殴られてしまう。
(はぁ、早く終わってくれないかなぁ)
まだ始まってもいない会合だったが、青年は早くも帰りたかった。
地獄とも思える時間を過ごすこと15分。
ようやくその空気を壊すものが現れる。
両手が翼になっている亜人種、ハーピィだ。
雌の方が強い亜人種であり、種族をまとめる長ももちろん雌である。
「いやー!!遅れてごめんねっ?........ってあれ?トカゲモドキ達しかいないの?」
「誰がトカゲモドキだ!!この落鳥が!!」
「そうだな。トカゲモドキはやめてもらいたい」
入ってきていきなり禁句を言うハーピィの代表に対して、同じく禁句で返すリザードマンと軽く殺気を飛ばすドラゴニュート。
ドラゴンの末裔と考えられている彼らにとって、トカゲモドキは正しく禁句だ。
そもそもドラゴンを侮辱する言葉がトカゲであり、それにすらなれていない“
ドラゴンの末裔を誇りに思っている彼らに、間違っても言ってはいけない言葉である。
そして、“落鳥”はハーピィを侮辱する言葉だ。
空を自由自在に飛ぶハーピィにとって、地に落ちるという言葉は不吉の象徴だ。
ましてや、自分達を表す“鳥”に合わせて使われるのは許されない。
ドラゴニュートの代表であるシンバルは、まだ新参者ということもありなるべく相手を侮辱する言葉を使わないように心がけていた。
そのため、彼は殺気を向けられずに済むことになる。
「殺すぞ。空も飛べない地を這うトカゲモドキがァ」
「やってみろ。空を飛ぶことしかできない鳥頭が。その脳みそに記憶媒体はあるのか?3歩歩いても忘れられないだけの脳があるといいな?」
部屋の中に魔力が渦巻き、お互いに殺気を当て合う。
しかし、手を出すことは決してない。
それをしてしまったら最後。法の元に争いを起こした二種族は滅びることになる。
次第に軋み始める部屋の中で、ドラゴニュートの青年は心の底からこう思った。
(帰りてぇ)
まだ三種族程来ていない。彼が帰れるのはまだまだ先になるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます