仁VSバラガス①
「こんな場所があったんだな」
「あぁ、このならどれだけ思いっきりやっても迷惑にはならねぇ。稀に魔物が襲ってくることもあるが、ハグれたゴブリン程度だからな。俺たちで対処可能なんだよ」
「へぇ」
アッガスに案内された先は、街から少し外れた平野だ。
普段は誰もいないはずのその平野には、赤腕の盾の面々が揃っており、各々が体を温めている。
この平野は、傭兵や冒険者達によく使われており、街からある程度離れているので思いっきり暴れても問題ない。
高位の冒険者や実力がある傭兵は軽く剣を振るだけで街を壊すなんてこともあるから、街の外でないとあちこちに被害が出てしまうのだろう。
俺も、リーゼンお嬢様がある程度の実力になったら来るつもりだった。
アッガスには知らないふりをしておいたが。
「お?アッガスとジン先生御一行か。いい朝だな。おはよう」
アッガスと俺達が来たことを察したバラガスは、振っていたその剣を地面に突き刺して軽く片手を上げて挨拶をする。
今日は雲ひとつない快晴であり、バラガスの言う通りいい朝と言えるだろう。
俺も、バラガスと同じように片手を上げて挨拶した。
「おはようバラガス。随分と気合が入っているように見えるな」
「あったりまえさ!!あの“双槍”バカラムを倒した奴と戦えるんだぞ?!気合いのひとつでも入るってもんよ!!」
ガハハと笑うバラガスを見ていると、隣にいたアッガスが俺の耳元で呟いた。
「団長、過去にバカラムとやり合って負けてるんだ。そこで、バカラムに勝ったお前を倒せば、自分はバカラムの上になると思ってるんだよ」
「何その理論。能力や魔法の相性差を考えろよ。俺がもし、バカラムに有利で、バラガスに不利な能力だったらどうするつもりなんだ?」
「さぁ?俺に聞くなよ。まぁ、ジンの実力をある程度知ってる俺からすると、随分と無謀な挑戦だなと思うがな」
アッガスは、どこか諦めたかのようにバラガスを見つめる。
どことなく自由人の香りがする彼に、アッガスは振り回されていたのだろう。
大変そうだな。
そう思い、バラガスを見つめていると、ガハガハ笑っていたバラガスは正気に戻って話しかけてくる。
「さて、雑談はこの位にして、早速お手わせ願いたい。準備運動などを済ませたら、俺に声をかけてくれないか?」
「いいぞ。俺は既に準備万端だ」
「........ほう?俺は手加減しないぞ?“準備運動して無かったから今のナシー”とか泣き言をほざくなよ?」
「安心しろ。俺達は、何時でも最高のパフォーマンスができるように鍛えているからな。寧ろ、そっちこそ大丈夫か?しっかり準備したのに、ズタボロに負けても泣くなよ?」
「上等!!」
ニヤリと笑ったバラガスは、自分よりも大きい大剣を担ぐとあちこちで準備運動していた団員に声をかけて辞めさせる。
そして、1箇所に集めると俺に向き直ってその剣を向けた。
「それじゃ、やろうか。お互いに致命傷になり得る攻撃は無し。それと、周りを吹っ飛ばすような大規模な攻撃も無しで頼むぞ」
「そのぐらいは、分かってるつもりだ。どこからでもかかってこい」
いつの間にか花音達はアッガスに連れられて、他の団員達が集まっている場所に移動している。
君たち仮にも団長の俺に“頑張れ”も無しですか........
俺はすこし凹みながらも、その向けられた大剣を見る。
おそらく、魔鉄と呼ばれる魔力が混ざった鉄を基盤に作られた特注の大剣だ。
この世界で一番貴重で硬いミスリルの下位互換と言われる鉱石で、それなりの値段がするはずだ。
さらに言えば、所々にミスリルが混ざっているようにも見える。
この大剣、一体幾らしたのだろうか........
材料費だけでも金貨数枚、下手したら大金貨レベルだろう。
この大剣をへし折ることはルール違反ではないが、さすがに値段が値段なのでやめておこう。
「ふむ........こうして剣を向けられても顔色ひとつ変えない辺り、流石だな。では、行かせてもらうぞ!!」
俺が大剣の価値を測っていると、何かを勘違いしたバラガスがその大剣を担いで距離を詰めてくる。
身体強化も使っているようで、相当な速さだ。
さて、どうするかな。俺としては、インパクトのある勝ち方をするべきだろう。
昨日、派手に暴れたとはいえ、俺の実力を疑う者も多いだろう。
このまま、バラガスの大剣に斬られてしまえと思っている奴がいるのは間違いない。
となると、大剣を避けるのはナンセンスだ。
インパクトのある勝ち方をするならば、その大剣を受け止めるぐらいはした方がいい。
「オラァ!!」
大きく振りかぶって振り下ろされた大剣。
その威力は、人1人程度は容易に切り裂くだろう。
振り下ろした勢いと、大剣の重みでとてつもない威力になっているはずだ。
しかし、厄災級魔物を相手にしてきた俺にとって、この程度の攻撃は欠伸が出るほど遅いし弱い。
俺は振り下ろされる大剣の道筋に手を置くと、そのまま大剣を摘んだ。
ドォォォォォン!!
俺が大剣を摘んだことにより、その衝撃が俺を伝って地面へと流れ込む。
一切威力を受け流していないその衝撃は、なんと、俺が立っていた場所を軽く凹ませていた。
地面が凹む反動で、砂埃が巻き上がる。
中々の威力だ。人間が振るう剣にしてはと言う枕詞がつくが。
「おぉ、いい一撃だ」
「........マジかよ。避けるぐらいはすると思ったんだがなぁ?」
「避けても良かったが........それだとインパクトに欠けるだろ?」
「ケッ!!舐めやがって。でも、これなら容赦なくやれるなァァァァァ!!」
バラガスは吠えると、そのまま大剣を持つ手に力を込める。
大剣を摘む俺の右手に、かなりの重みがのしかかるが、この程度では強引に切り裂くことなどできない。
っていうか、このまま俺が押しつぶされたらどうするつもりなんだ?明らかに致命傷になるだろコレ。
おれがバカラムを倒した辛信頼しているのか、ただ単についさっき言った事を忘れているのか。
俺が力比べに応じていると、バラガスは急に力を抜いて、今度は俺ごと持ち上げようと大剣を振り上げた。
「うをぉ?!」
コレが鈍い相手なら力の切り替えが出来ずに大剣ごと持ち上げられたかもしれないが、生憎俺の反応速度は相当早い。
俺は、大剣の向く力の方向が変わった瞬間に手を離す。
多少の抵抗があると思っていたバラガスは、すんなりと振りあがった大剣を制御しきれずに二歩ほど後ずさった。
そして、その隙を見逃すほど俺は優しくない。
「ほい」
「──────────っ!!」
バラガスが体制を立て直すよりも早く、俺は懐に入り込むとそのまま鳩尾に掌底を叩き込む。
相手を殺す気満々でやるなら、内蔵にダメージが行くように力を集中させて撃ち込むのだが、これはあくまで模擬戦。
力が分散するように衝撃を与えた。
「ゴホッゴホッ!!ゴホッ」
力が分散するように衝撃を与えたからと言って、鳩尾への攻撃が無くなったわけじゃない。
人の急所の一つである鳩尾は、かなりの衝撃を貰うと息が一瞬出来なくなるのだ。
更に言えば、その後の呼吸も上手くいかないことが多い。
俺もドッペルに散々やられたから分かる。大剣を支えにして何とか立てているが、バラガスは今、ロクに動けないはずだ。
ならば、容赦なく終わらせてしまおう。
「チェックメイトだな」
一瞬で間合いを詰めた俺は、バラガスの頭を掴むとそのまま地面に叩きつけたのだった。
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