赤腕の盾

 アッガスが俺達の面倒を見ることが決まった後、赤腕の盾レッドブクーリエの隊長達の紹介をされた。


 赤腕の盾団長“剛剣”バラガスとアッガスを除けば、隊長格は全部で8人。


 赤腕の盾副団長“知将”ウエテス。


 傭兵ではあまり見かけない亜人種の1人であり、その2つ名の通り戦略に長けている。


 見た目は初代仮面〇イダー。確か、昆虫系の亜人であり種族名はインゼクト。


 昆虫の様に硬い外角を持ちながら、人の何倍もある身体能力が特徴だ。


 しかし、獣人種よりも魔力の扱いが下手であり、身体強化があまり上手くないと言われている。


 知識として知ってはいたが、実際に見たのは初めてだった。


 亜人の国である亜人連合国ですら見かけなかったのを考えると、相当少数の亜人なのだろう。


 次は赤腕の盾一番隊隊長“流剣”デッドン。


 彼は普通に人間であり、見た目は細いナヨナヨとしたおっさんだ。


 しかし、剣の扱いが上手く、二刀流で構えられたその剣は、水が流れるかのようにその剣を振るう。


 その姿からつけられた2つ名が“流剣”だ。


 個人的には割と優しそうな人であり、俺を見ても殺気立って無かった数少ない人である。


 そしてその“流剣”を支えるのが、赤腕の盾一番隊副隊長“猛火”マレリー。


 傭兵では少ない女性の団員であり、赤腕の盾の女性団員をまとめるオカンである。


 その杖から繰り出される炎は猛火の如く燃え下がり、その炎を食らった相手は塵も残ることなく燃え尽きると言われている。


 一見、優しそうなおば........お姉さんに見えるが、どうもバラガスに恋しているらしく、どことなく花音と同じ匂いがするので注意が必要だ。


 バラガスが絡まなければまともな人だろう。


 種族はもちろん人間。見た目は、歳を化粧で誤魔化しているパートのおばちゃんという言葉がしっくり来る様な見た目をしているが、俺は間違ってもそれを口に出さない。


 言ったら最後。俺は殺されるかもしれん。


 次は二番隊。赤腕の盾二番隊隊長“猛進”アストル。


 彼は人間ではなく、獣人モデル猪であり、獣に近い獣人の姿をしている。


 猪が持つふたつの牙が生えており、獣人と言うよりは亜人種のような見た目だ。


 猪突猛進という言葉があるとおり、彼は対象に向かって一直線で突っ走って行く。


 この傭兵団の切込隊長といったところだろう。


 見た目こそ少し怖いものの、意外と常識人であり、困ったら頼るように言われた。


 いい人や。


 その副隊長が、赤腕の盾二番隊副副隊長“追従”ヤレ。


 彼女も獣人であり、モデルは豹。


 スラッとした体型と、その柔らかい動きは正しく豹であり、鋭い眼光は狙った獲物は逃さない。


 戦いでは突っ込んだアストルの後ろについて行き、取り逃した相手を狩っていくそうだ。


 “追従”と呼ばれるだけはあるな。


 次はアッガスも所属する三番隊。赤腕の盾三番隊隊長“堅牢”ブラームド。


 筋骨隆々で、2m以上ある巨体は誰しもがおもわず一方後ずさってしまうほどの迫力がある。


 2つ名の“堅牢”は、彼の能力であり、決して破られることの無い牢屋を作り出すそうだ。


 具現化系の異能だな。


 傭兵としては珍しく、防衛に優れた傭兵であり、本陣の守護などが主な役割である。


 アッガスは知っているのでパス。


 付け加えるとするならば、盾と剣で安全マージンを取った戦い方をするので“堅実”と呼ばれているそうだ。


 そして最後に四番隊。赤腕の盾四番隊隊長“影星”デリアル。


 その頬に描かれた黒い星が2つ名の由来らしく、遊撃と偵察を行う。


 細くも引き締まった肉体と、影に同化できる能力。


 影からの奇襲は防ぐことが難しく、ましてや乱戦の中では彼の姿を見ることも無く死に至るそうな。


 尚、本人は持ち上げられるのが嫌らしく、すごく嫌そうな顔をしながら団長の紹介を聞いていたが。


 そして赤腕の盾四番隊副隊長“闇堕”セイナ。


 闇魔法の使い手であり、俺の思い描く魔女(悪い方)の姿をしている。


 黒く大きい帽子と、全身を覆うローブ。如何にも悪い魔女ですと言わんばかりの見た目をした彼女だが、その見た目とは裏腹にものすごくコミュ障だった。


 基本「あっ、その、えっと」しか話さない上に、握手すらもオドオドしている。


 なんでこの人この傭兵団に入ったんだ?と疑問に思うぐらいにはコミュ障だった。


 俺、この人と仲良くできる気がしないよ........


 「さて、以上が俺達赤腕の盾レッドブクーリエの幹部たちだ。基本、困ったらこいつらに頼ってくれ」


 紹介を終えたバラガスは、少しドヤ顔をする。


 自分の団員たちが誇らしいのだろう。


 その気持ちは分からなくもない。


 「分かった。それにしても、四番隊まであるんだな。俺らなんで団長と副団長しか決まってないぞ」

 「10人ぐらいの小さな傭兵団ならそんなもんさ。100人規模の傭兵団にならなきゃ、こうして班わけはしねぇよ」


 一応、子供たちも入れれば何万といる訳だが、さすがにあれを団員としてカウントするのは難しそうだ。


 戦闘員と言うよりは、諜報員だからな。


 俺ですら把握しきれていないのだ。


 それに、子供たちをカウントするといくらでも増やせてしまう。


 「大人数になると面倒そうだな」

 「面倒だな。自分の側近はともかく、その下の教育が面倒だ。これでも少数精鋭のつもりなんだがな.......」

 「この規模で?」

 「世界にはもっと大きい傭兵団が幾つもある。1000人単位なんてざらだぞ」


 世界最強の傭兵団狂戦士達バーサーカーは、万単位の傭兵団だったはずだ。


 100倍差もあると考えると、確かに100人程の傭兵団は少数になる。


 その理論でいえば、俺たちは更に少数になるが。


 「ま、ともかく明日から頼む。場所はアッガスに聞いてくれ」

 「分かった。改めて、よろしく」

 「おう!!今日から1ヶ月、よろしく頼む」


 こうして、俺達の特別講師の仕事が始まった。


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 揺レ動ク者グングニルの拠点である“浮島”アスピドケロンがそびえる森の中。


 ヴェルサイユ宮殿にも似たその建物が立つ場所で、“粉砕する者”ジャバウォックとラナーはいつもと変わらない景色を眺めていた。


 「もう時期戦争ですね。ジャバさんも参加するんですよね?」

 「スル。元々、ソレガ目的。団長ノ計画ヲ手伝ウ代ワリニ、アノ島カラ出シテ貰ウ。ソレガ条件」


 シャバウォックは、随分と流暢になった言葉で話す。


 ラナーと話すために、言葉を覚え始めてはや一年。


 多少イントネーションが違っていたりするものの、シャバウォックは普通に会話できるようになっていた。


 「では、戦争が終わればいなくなるのですか?」

 「ソレハ無イ。ソモソモ行ク宛モ無イ。知リ合イハ、既ニ死ンダ」

 「........そう、ですか。私達と同じですね。居場所がここだけと言うのは」


 ラナーは、どこか悲しそうに呟く。


 シャバウォックはラナーの顔を見ることはできなかったが、雰囲気で感じていた。


 「..........ツライ?」

 「え?」

 「ツライナラ、誰カヲ頼レバイイ。幸イ、ココニハ味方バカリ」

 「........皆さんいい人達ですからね。同じ境遇が多いのか、これといって差別もないですし。いつか......いつか頼る日が来るかもしれませんね。その時はジャバさん。力を貸してくれますか?」

 「勿論」


 一つの怪物と、1人の少女は消えかかった陽の光が完全に落ちるまで静かにその景色を眺めるのだった。

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