真に厄介な奴は自覚が無い
勢いよく開かれた傭兵ギルドの扉。その先では、傭兵ギルドの惨状に頭を抱えているアッガスの姿があった。
最も、その仲間であるバルサルの傭兵達は大方こうなっている事を予想していたようで、どこか楽しそうに俺達を眺めている。
しばらく頭を抱えていたアッガスだが、大きくため息をつくと何処か諦めた表情をしながら話しかけてきた。
「相変わらずだな。ジンが先に来たら絶対問題になると思っていたが........予想通りだったらしい」
「元気そうだなアッガス。お前がいればこうなる事も無かったんだがな。それに、傭兵は売られた喧嘩を買うものだろ?」
「確かにメンツは大事だが、お前の場合はやり過ぎなんだよ!!何をどうしたらここにいる奴らほぼ全員が殺気立つんだよ!!」
「煽り体質が無さすぎるんだよ。1度バルサルの傭兵達を見習った方がいぞ。ここの奴らは、ちょこっとおちょくるだけで直ぐにお顔真っ赤だ。本能で生きてる魔物の方がまだ我慢強いね」
「........あぁ、もう。何を言っても無駄だな。ジンを止める奴もないないし」
アッガスはそう言うと、俺の頭を軽く叩く。
叩くと言うよりは、手を乗せる程度だったが。
「ったく。ナレルが寝坊したばかりに........」
「すいやせんね。アッガスさん。普通に寝坊しましたからね」
「威張るな馬鹿野郎」
俺たちのやり取りを見て、俺の事を知らない傭兵達も何か違和感を感じたのだろう。
俺に殴りかかろうとしていた男の1人が、アッガスに話しかけた。
「アッガス副隊長。その........彼は知り合いなのですか?」
先程までの乱暴な口調はどこへやら。
丁寧な言葉使いである。
「あん?団長から聞いてないのか?特別講師を招くって」
「聞いています。........まさか、彼らがそうだと?」
「察しがいいな。そういう事だ」
ありえないと言った風な視線を俺たちに向けてくるが、事実である。
でもまぁ、気持ちは分からなくもない。
魔力は隠蔽しているし、俺と花音の見た目は大人と子供の境目だ。
さらに言えば、ロナはまだ15歳でリーシャは17歳。
イスに至っては子供である。
どこかの若い家族連れと言われても違和感のない見た目をした俺達が、今回の講師だとは思えないのだろう。
殴りかかろうとしていた男も、納得していない。
「強そうには見えませんが........」
「見た目で判断するな。それに、その強そうに見えない奴にぶっ飛ばされているやつもいるだろう?」
アッガスはそう言うと、吹っ飛ばされた男達を指さす。
「運が良かったな。こいつらがその気になれば、今頃アイツらは死んでたぞ」
「そんな........!!」
「そんなもクソもねぇよ。ってか、傭兵ともあろう者が情報収集すらもしてないのか?おいジン。自己紹介してやれ。もちろん、お前の凄さがわかるやり方でな」
「このギルドを消し飛ばせばいいのか?」
「お前........わかってて言ってるだろ」
少し悪ふざけをしたが、さすがにアッガスの言いたい事は分かる。
俺が
俺は少しだけ魔力を解放し、この場にいる全員に圧をかける。
突如として襲いかかってきた魔力の圧に、何名かは押しつぶされそうになっていたが、そこら辺は加減してあるので問題ない。
「はじめまして。傭兵団
ザワザワとギルド内が騒がしくなる。
それもそのはず。
もう半年近くも前の話だが、未だに話題性はあるのだ。
バルサル最強の“双槍”バカラムを圧倒し、倒した傭兵として。
魔力の圧を感じていたとしても怪しむ視線を向ける者が多い中、1人のおっさんが席を立ってこちらへと歩いてくる。
その背中には2m近くもある大剣が背負われており、明らかに人間が振り回すものでは無い。
あの剣の重さは分からないが、多分持つことは出来るだろう。だが、戦闘で振り回せるかと言われればNoだ。
180を優に超えるその長身と、引き締まったその筋肉と技術がなせる技なのだろう。
まぁ、その剣を振り回しているところを俺は見たことないが。
誰しもが俺達を見る中、そのおっさんは俺の前に立つと右手を差し出してきた。
「先程はうちの部下共が失礼した。傭兵団
「部下が失礼した?俺を試した癖によく言うなぁ?」
「はっはは!!バレていたか。それも含めての謝罪だ。受け取ってくれるかい?」
豪快に笑うバラガスは、その右手を引っ込めることは無い。
俺は少し呆れながらその右手を握り返した。
「アンタとは仲良くやれそうだな。下の教育ができるようになったら、もう少しいい線行くんじゃないか?」
「手厳しいねぇ。俺達の規模になると限界があるんだよ。ウチはなるべく精鋭を揃えるようにはしてるが........どうしても例外はある。膨れ上がった組織の定めだな。今回はそんな例外や、たるんだ者達の引き締めとしてお呼びした。お願いできるかね?」
「これでも一応弟子を1人持ってるんでね。教え方には自信があるんだよ」
「それは楽しみだ。とは言え、今日は顔合わせだけだ。明日からお願いしたい」
バラガスはその手を話すと、俺の後ろにいたアッガスを指指した。
「知っているだろうが、彼が三番隊副隊長“堅実”アッガスだ。何か困ったらこいつを頼れ」
「え゛、俺が面倒見るんですか?」
指を刺されたアッガスはあからさまに顔を歪めて俺を見る。
おい、そんな露骨に嫌がるのか。
ってか、アッガスの中で俺はどうなっているんだ?
俺は、少しイラッとしながらアッガスを睨んだ。
「おいアッガス。喧嘩売ってんのか?」
「お前みたいな何処でも喧嘩を売り買いする奴の世話をしろって言われたら、嫌な顔のひとつでもするだろうが。日頃の自分を思い返してみろ」
日頃を思い出してみる。
........うーん特に何かあるわけじゃない気がする。
喧嘩も常識の範囲内だと思います、はい。
「正常だな」
「判断能力からして欠如してんな。1度司教様の説法辺りを聞いた方がいいぞ」
「ケッ!!女神のお言葉なんてそこら辺の詐欺師の言葉にも劣るね。それを説法する司教なんざ更に下だ」
「はぁ........これから大変だ。何より、ジンだけがおかしい訳じゃないってのか困る」
アッガスは頭を抱えると、チラリと花音やイスに視線を向ける。
「私はまともだよ。少なくとも、仁よりは大人しいよ?」
「よく言うわ。ジンと話している間にも軽く殺気を飛ばしてきやがって。俺はそっちの気はねぇんだよ」
「仁と話すこと自体が罪」
「これだから話の通じねぇやつは........イスちゃんはマシだがその親がひでぇ。良くもまぁこんな親からこんな素直な子が育ったな?」
「「いやぁ、それほどでも」」
「褒めてないんだが?」
アッガスは何も言わなかったし、俺達は知る由もなかったが、イスはイスで問題がある。
イスは、楽しくなりすぎると冷気が漏れ出すことが多かった。俺達は慣れているため気にならなかったが、アッガス達からすると冷凍庫にいるようなほど寒くなるのだとか。
ともかく、アッガスはそんな厄介な俺達の面倒を見ることになってしまったのだった。
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