議論なんて野蛮な..........!!

 復讐の狼煙が上がるまで残り二ヶ月。


 この日俺達は、アゼル共和国の首都であるデルトに来ていた。


 いつもならばリーゼンお嬢様の訓練を付けるために真っ直ぐ屋敷へと向かうのだが、今回は用事が違う。


 門をくぐった俺達は、傭兵ギルドを目指していた。


 「今回はロナとリーシャだな。自分たちの強さを確認できる機会だ。向こうの迷惑にならない程度に自分の強さを自覚しておけ」

 「はい。ですが、以前バルサルのギルドマスターと戦って何となくは自分の強さが分かってますよ?」

 「それだけじゃ足りないな。能力者は相性差がどうしても出る。自分と相性が悪い相手との戦い方は身につけておけ」


 今回連れてきたのはロナとリーシャの2人だ。


 三姉妹は下手をするとダークエルフだとバレそうなので連れてくることはできず、吸血鬼夫婦はどっかへいなくなっており、ドッペルは見破られないための魔道具作りに勤しんでいる。


 結果として、獣人達の中から連れてくることしかできず、比較的大人しめの2人を連れてきたというわけだ。


 ゼリスとプランを連れてきても良かったのだが、2人は今日が休暇日だったので連れてくるのはやめた。

 

 エドストルは優秀なので、連れてくると仕事が遅くなってしまう。


 そんな訳で、消去法で選ばれたのがこの姉弟だった。


 尚、本人達はこの事実を知らないので、選ばれたのだと思って機嫌がいい。


 態々その機嫌を損ねる必要もないので、何も言うことは無かった。


 「リーシャの能力者って面白いよねー。なんで尻尾が増えるの?」

 「以前から言っていますが、分かりません。と言うか副団長様、人目があるのであまり尻尾をモフモフするのは辞めていただけると........」

 「........(モフモフ)」

 「ひうぅ!!」


 無言でリーシャの弱い所をモフる花音の頭にチョップを落としつつ、俺達は傭兵ギルドへと向かう。


 赤腕の盾レッドブクーリエ。一体どのような傭兵団なのだろうか。


 少なくとも、アッガスやバルサルに居る傭兵のような話の通じるやつがいいのだが──────────


 「おいおい!!来る場所が違うんじゃないかぁ?!お前らのようなヒョロもやしが来る場所じゃねぇぞ!!」

 「ギャハハ!!もっと言ってやれ!!帰ってママのおっぱいでも吸ってるんだな!!ってな!!」

 「ビビっちまったか?!おもらししたんなら、ちゃんと着替えろよ!!」


 ........うん。まぁ、ある意味予想通りである。


 傭兵ギルドの扉を開くと一斉に視線が集まり、俺達の姿を見て大笑いしながら煽ってきたのだ。


 ここが冒険者ギルドならば依頼主かと思われて絡まれることもなかっただろうが、生憎傭兵に依頼するような風貌には見えないのだろう。


 そもそも、傭兵は戦争専門家の集団だし。


 以前、アッガスと同じようなやり取りがあったが、あの時は随分と優しい対応だったな。


 そう思いながら、俺はごちゃごちゃ煩い連中は放っておいてギルドの中を見渡す。


 どうやらアッガス達はまだ来ていないようで、ギルド内にいるのは知らない人ばかりだった。


 「アッガスはまだ来てないようだな」

 「まぁ、昼前としか聞いてないからね。しょうがないよ」

 「煩いの。パパ、凍らせていい?」

 「やめとけ。こう言う脳味噌までもが筋肉で構成されたバカは無視するのが1番だ」


 俺はわざと声が聞こえるように少し大きめに呟く。


 喧騒が大きすぎて俺の声も直ぐにかき消されたが、俺の近くで騒いでいた連中には聞こえただろう。


 その顔は明らかに怒っていた。


 「おい兄ちゃん。喧嘩を売る相手は考えた方がいいぜぇ?それともなんだ。ここで俺達全員とやり合う気かぁ?」

 「別に俺は構わんぞ?お前ら如き遊び半分で仕留めれるからな」

 「あ゛ぁ゛?舐めてんのか?この人数相手に勝てるわけねぇだろうが!!」

 「群れることでしかイキれない雑魚がなんか言ってんな。歩くことすら出来ない赤子が何人いようが戦力は変わらんだろ?むしろ可愛い赤子の方が強いまであるな。お前らの顔はゴブリンにも劣る」

 「........このっ!!ガキャァ!!」


 おーおー。効いてる効いてる。


 俺をバカにしていた3人程が、お顔真っ赤でその弱い拳を握りしめている。


 だが、殴り掛かるようなマネはしてこない。


 おそらく、一般人には手を出さないと言われているのだろう。


 煽っている時点でアウトだとは思うが。


 このまま大人しくお顔真っ赤の猿を見ているのもありっちゃありだが、それは面白みにかける。


 1ヶ月仲良くしなければならないのだ。ならば、最初のインパクトは大事である。


 「おいおい、傭兵ってのは舐められたら終わりだぜ?なぁ?同業者さん」

 「........?!てめぇ傭兵なのか?!」

 「そうさ。傭兵団揺レ動ク者グングニル。それが俺たちさ。で、今時の傭兵っては口も腕っ節も根性も無いのか?見せかけの筋肉だけが取り柄だな」


 幸い、まだ視線はこちらに集まっている。このままコイツらを使ってインパクトのある自己紹介をするとしよう。


 どうやら店の奥で眠そうにしているおっさんが団長のようだし、あそこ目掛けてコイツらを投げるか。


 「同業者ってんなら話は別だ!!潔く殴られろや!!」

 「死ね!!」

 「オラァ!!」


 一切手加減なしに殴りかかってきた3人だったが、その拳が俺たちに届くことは無い。


 対応したのは俺とロナとリーシャの3人だ。


 俺は拳が届くよりも早く相手の腹を殴り飛ばし、ロナは流れるように拳を捌いて手首を掴んで投げ飛ばす。リーシャだけは殴り飛ばすようなことはせずに、相手の首を右手で締め上げていた。


 ドコッ!!ガラガラガラガシャーン


 吹き飛ばされた筋肉ダルマの男達は、眠そうに瞼を半分閉じていたおっさんの横を通り過ぎてギルドの壁に激突する。


 その際、テーブルに何度か跳ねたため、置かれていた皿やコップは滅茶苦茶になってしまった。


 「な、何しやがるてめぇ!!」


 扉の近くで飲んでいた男の1人が、俺に掴みかかって来るがその手も残念ながら届かない。


 「その汚れた手で仁に触れんな」


 ガキン


 と、いつの間にか出現した鎖によってその男の行動は止められる。


 最上級魔物ですら拘束できる鎖だ。ただの人間がどれだけ足掻ことも、その鎖が壊れることは無い。


 さすがにここまで派手にやると、相当なインパクトのようで全員が軽く殺気立っていた。


 正確には、俺の正体を勘づいているおっさん以外は殺気立っていた。


 あのおっさん、今の状況を楽しんでるな?


 「おい兄ちゃん。随分と派手なことしてくれたな?俺達が誰だか分かってやってんのか?」

 「先に喧嘩を売ったのはそちらだったと思うがな。なんだっけ?帰ってママのおっぱいでも吸ってな。だったっけ?それに対してちょっと言い返したら次は暴力だ。おー怖い怖い。言葉が通じるだけのオークに対話なんて野蛮な物を求めるんじゃなかった。最初から穏便に暴力で済ますべきだったな。」

 「議論なんて野蛮な........!!ここは穏便に暴力で........!!(ボソッ)」


 おい花音、耳元で元ネタを言うんじゃねぇ。ちょっと笑いそうになったじゃないか。


 しかし、元ネタなんぞもちろん知らない男は額に青筋を立てて握りこぶしを作る。


 「少し痛い目に会わないといけないようだな........!!」


 ガタガタと立ち上がる傭兵達。


 まさに一触即発の雰囲気だったが、それはこの男によって打ち消される。


 バン!!と扉が開くと、中を見渡してギルドの惨状に頭を抱え、俺を見てため息をつく。


 「はぁ、間に合わなかった........いや、間に合ったのか?」

 「まだマシな方でしょ、全員がここで倒れてないだけマシですよ」

 「だな。間に合ってなかったらここは今頃死体の山だぜ?」


 そこにはアッガスとその仲間たちがいた。

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