シルフォード&サラVSイス

 グツグツと煮えたぎる氷のクレーター。


 シルフォードが放った精霊魔法は、イスの世界すらも溶かす火力だった。


 「いやはや。普通に負けました。完敗です」

 「バゥ」


 未だに煮えたぎる氷の中から、ひょっこりと姿を現したモーズグズとガルムは、どこか悔しそうにシルフォードとサラを褒める。


 流石の二人も太陽の高温に耐え着ることが出来ず、溶けてしまったようだ。


 まぁ、その魂を殺すことが無ければ復活できるので、大した被害にはなっていないようだが。


 「上位精霊と契約している奴は、これを当たり前のように放っくるのか。そりゃ、大エルフ国がどんな手を使ってでも軍に引き込もうとするわけだな。一人いるだけで戦況を簡単に変えれちまう」

 「“精霊王”ミューレだっけ?あの人もこのレベルの魔法をバンバン撃てるんだよね?化け物じゃん」

 「そうだな。シルフォードを見る限り、まだまだ余裕だもんな」


 魔法を発動したシルフォードは、初めて見る上位精霊の魔法の威力に驚きすぎて固まってしまっている。


 以前、モーズグズどうやらやりあった時は槍の矛先すら溶かせなかったのに、今回は矛先所か大地すらも溶かしたのだ。驚くのも無理は無い。


 それにしても、予想外の戦力が手に入ったな。


 モーズグズを一撃で沈めれるということは、シルフォードの実力は灰輝級ミスリル冒険者レベルにまで上がっているということだ。


 後は戦いの経験を積めば、厄災級魔物相手でも立ち向かえるだろう。


 俺がそう考えていると、イスはどこか楽しそうに大地を治してシルフォードに駆け寄る。


 既に聖域は解除されており、いつもの寒さがこの世界を覆っていた。


 「シルフォード!!サラ!!次は私と遊ぶの!!」

 「........え?あ、あぁ........ちょっと待って。びっくりしすぎて頭がぼーっとしてるから」


 イスに話しかけられたことにより、ようやく正気に戻ったシルフォードは何度か深呼吸をして自分を落ち着かせていた。


 気持ちはわかる。急に化け物じみた力を手に入れたのだ。驚くなという方が無理である。


 数十秒も待てば、シルフォードは落ち着きを取り戻す。


 「私は構わない。団長がいいと言えば、やる」

 「パパ、いいでしょ?少し遊ぶの」

 「いいぞ。でも、シルフォードを怪我させるなよ。後、聖域を張っておいてくれ」

 「分かったの!!」


 イスは直ぐに聖域を張ると、シルフォードとサラと向き合って距離をとる。


 強くなったサラと遊ぶのがよほど楽しみなのだろう。その顔は天使を見ているかのように眩しかった。


 「上位精霊VS世界樹ユグドラシルか。どっちが勝つと思う?」

 「これはイスが勝つかな。上位精霊とは言え、世界を創り出す程の力を持つ世界樹ユグドラシルには勝てないよ」

 「私もそう思います。イス様の力はとてつもなく強いので........」

 「バゥ!!」(イスの方を指さしながら)

 「これじゃ賭けにならんな。これに関してはイスが勝つだろうかなぁ........いい勝負はするかもしれんが、イスに勝てるかと言われれば“無理”が応えなんだろうな」


 イスが手段を一切選ばずに殺しにいけば、俺ですらも殺されるだろう。


 ほかの厄災級魔物達も、イスが手段を選ばずに本気で戦えば勝てないと言っているほどだ。


 唯一、ファフニールが対抗できるぐらいである。


 それほどにまで凶悪な力を持った相手に、シルフォードとサラが勝てるとは思えなかった。


 「それじゃ始めるの!!先手はどうぞ」

 「........行くよサラ」


 余裕綽々のイスにイラッとしたのか、少しだけ顔を顰めたシルフォードは再び人差し指を立てると詠唱を開始する。


 「その炎は精霊の灯火。契約により、その炎を顕現する。燃え焼かれて灰と化せ。精霊ノ烈火ガイスト・エグゼ


 モーズグズ達と戦った時と同じ魔法。違う点があるとすれば、先程よりも込められた魔力が大きくなっており、その炎は青くなっている。


 色温度で言えば、青は約10000度だ。


 その炎はその場に顕現するだけで周囲の氷を溶かしていき、シルフォードが立っている大地までもがゆっくりと溶け始める。


 「多分、クソ暑いんだろうな。この聖域の中にいると感じないけど」

 「青い炎ですら溶けないこの氷が異常なんだけどね?シルフォードの魔法もヤバいけど、それ以上にイスの氷の方が凄いよ」

 「当たり前です。イス様自身がお作りになられた氷は、あの世界の理から逸脱していますから」

 「バゥ!!」


 そう話している間にも、青太陽は徐々に大きくなっており1.5kmはあるんじゃないかと言う程の大きさにまで成長した。


 ここまで行くと、最早別の魔法である。


 先程モーズグズに放った“精霊ノ烈火ガイスト・エグゼ”と今放とうとしている“精霊ノ烈火ガイスト・エグゼ”は明らかに別物だった。


 「焼けろ」


 シルフォードはその炎をイスへと落とす。


 青く煌めく太陽は、この世界を創り出した神に堕ちようとしていた。


 しかし、この世界の神はこの程度お遊びでしかないらしい。


 イスは楽しそうに笑うと、片手を前に出して何かを握りつぶすような動作をとる。


 「凍てつく強奪アイス・スナッチ


 次の瞬間、青く光り輝く太陽は消え去りいつもの薄暗い霧の世界が戻って来る。


 「んなっ........!!」


 流石のシルフォードも、この展開は想像していなかったようで、大きく目を見開いて驚いていた。


 シルフォードだけではない。俺も、花音も、その現象を見て驚いている。


 「マジかよ。これは予想外だわ」

 「イスって凄いんだね。てっきり氷の盾で守るかと思ってた」

 「それな。この聖域と同じような物で守るのかと思ってたわ。まさか、青い炎その物を消し去るとは........」


 度々思うが、やはりウチの子最強か?


 俺だってこの青い炎を消そうと思えば消せるが、あそこまでスタイリッシュには無理である、


 俺の異能も十分反則だとは思っていたが、イスの異能はもっと反則だな。


 「っ!!次!!炎よ!!我が化身となれ!!同調:炎リンク:ファイア!!」


 呆気なく消された炎を見て、一瞬硬直してしまったシルフォードだが、この程度で心が折れる程彼女は弱くない。


 新たに魔法を発動させると、シルフォードは大地を蹴ってイスへと向かっていく。


 どうやら接近戦を仕掛けるようだ。


 「近接格闘?上等なの」

 「っし!!」


 シルフォードが繰り出したのは、何の変哲もない右のストレート。


 サラの魔力を貰っているためか、その身体強化は相当なものだが厄災級魔物であるイスには届かない。


 「少し痛いけど、我慢して欲しいの」


 アッサリと身体を半歩ずらして避けたイスは、シルフォードの腹に掌底を打ち込む........はずだった。


 「へ?」


 シルフォードの身体に撃ち込まれた掌底。しかし、その掌底はシルフォードの身体を貫通してしまう。


 これは見ていた俺達も驚いた。


 主に、シルフォードが使った魔法に関して。


 「おいおいまさか........」

 「これは........もしかして」

 「「自然系ロギア?」」


 某有名な海賊王を目指す漫画に出てくる自然系の悪魔の実。その特徴とよく似た現象を、シルフォードは引き起こしているのだ。


 アイツ、いつの間にメラ〇ラの実を食ったんだよ。

 

 「もしかしてこの世界、覇気とかある?」

 「一応魔力の圧は覇王色なんじゃない?武装色と見聞色は知らん」

 「それ無理じゃん。相性が良くない限り倒せないじゃん」

 「身体強化がワンチャン武装色かな?」

 「あーそれはありそうだ」


 不意をつかれたイスは、次の右ハイキックを避けることが出来ずに攻撃をもらう。


 防御こそできなかったが、魔力によって無理やり守ったためダメージは無さそうだ。


 「随分と面白い魔法なの」

 「すごい。初見とは言え、イスちゃんに一撃当てられた」

 「ちょっと本気だすの。ケガしないように気をつけて欲しいの!!」


 蹴られたことによりスイッチが入ったイスは、その魔力の一端を解放する。


 その後、シルフォードが軽くボコられたのは言うまでもない。

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