シルフォード&サラVSモーズグズ&ガルム

 大エルフ国から帰ってきた翌日。


 俺達は、イスの世界“死と霧の世界ヘルヘイム”にやってきていた。


 「なるほど、それで再び私達がお相手をするということですね?」

 「そういう事なの。前よりもサラは強いから、もしかしたら負けるかもしれないの」

 「多少強くなった程度では負けませんよ。ガルムと一緒なら尚更です」

 「バゥ!!」


 いつも以上に意気込むモーズグズとガルムは、準備体操をしているシルフォードを見る。


 シルフォード自身はあまり変わった様子はないが、その隣にいるサラの気配は随分と大きくなっていた。


 「........とは言え、以前のようにアッサリと勝たせてもらえそうでは無いですね」

 「バゥ........」


 二人とも実力だけで言えば最上級魔物だ。なんなら厄災級魔物に片足を突っ込んでいる。


 その2人が、相当警戒するという事はそれだけサラが脅威なのだろう。


 「シルフォードもやる気満々だな。サラも随分と闘気が溢れ出しているぞ」

 「そうみたいだね。私も楽しみだよ。下位精霊であれだけ強かったんだから、上位精霊なら厄災級魔物にも勝てるんじゃない?」

 「さぁな。まだシルフォードがサラの力を十全には使えないだろうから、どっちが勝つかは分からんな」


 今回は、新しい力を手に入れたサラとシルフォードのお試し運用だ。


 最初はモーズグズだけと戦わせようかと思ったのだが、どうやらガルムも戦いたいらしく可愛くバウバウお願いしてきたので許可を出した。


 氷でできた生き物なのに、随分と感情的で上目遣いのおねだりとかできるのかと感心したものだ。


 話は変わるが、モーズグズもガルムもサラの姿を見ることが出来ない。その為、サラの絵を見せてあげたらすごく盛り上がっていた。


 他の団員にもサラの絵を見せたのだが、想像以上に美人だった為か全員黙り込むその姿は少し面白かった。


 そして、絵でしか見れないことを悔しがっていた。


 その気持ちは分かるぞ。絵であれだけ綺麗なら、リアルはもっと綺麗なのだろう。


 「シルフォード!!準備はいいかー!!」

 「問題ない!!いつでもいける!!」


 少し離れたところにいるシルフォードは、準備万端らしくその魔力が少しづつ膨れ上がっている。


 それを見た俺達は戦いに巻き込まれないように距離をとると、こちらも準備万端と言った感じで槍を振り回すモーズグズとお座りをするガルムに確認をとった。


 「モーズグズ!!ガルム!!準備はいいか?!」

 「大丈夫です!!いつでも行けます!!」

 「バゥ!!」


 振り回していた槍を構え、抑えていた魔力を爆発させる。


 常人がその魔力の圧を喰らえば意識を保つことはできないが、シルフォードもただのダークエルフでは無い。


 厄災級魔物たちとの訓練で、この程度の魔力圧ならば涼しい顔をして受け流すなど朝飯前だ。


 お互いに準備万端。


 上位精霊の力を見せてもらうとしよう。


 「それじゃ、試合、始め!!」


 俺が開戦を告げると同時に、シルフォードは人差し指を立てて詠唱を始める。


 隙だらけの状態だったが、どうやらモーズグズとガルムはその攻撃を正面から受けるつもりのようでシルフォードには攻撃をしない。


 ただ大人しくその場でじっとシルフォードを見つめるだけだった。


 「その炎は精霊の灯火。契約により、その炎を顕現する。燃え焼かれて灰と化せ。精霊ノ烈火ガイスト・エグゼ


 この詠唱は........確か下級精霊の時に使った魔法の1つだったな。


 10m程の火球が出現したはずだ。


 そう思って見ていると、シルフォードの魔力が急激に跳ね上がる。


 「........は?おいおいおいマジかよ」

 「うわっ、すごっ」

 「ちょちょちょ!!熱いのヤバいの!!」


 その指先から出現した火球。それは最早火球と呼べるものではなく、太陽と言うべきものだった。


 以前も小さな太陽と表現した覚えがあるが、今回はそんなレベルを超えている。


 白く輝くその太陽は直径1km近くはあり、離れているはずの俺たちですらその太陽の真下にいる。


 そして、氷点下を下回るこの世界にいるはずなのにとてつもなく熱い。


 魔力を全身に覆っていなければ、今頃焼け死んでいるのではないかと思うほどには熱かった。


 暑いのでは無い。熱いのだ。


 火と言うのは熱くなればなるほどその色は変わっていく。色温度というものらしいが、白色の場合は大体6000度にまで温度が跳ね上がる。


 これは、太陽の表面温度とほぼ変わらない熱さだ。


 鉄を溶かせる温度が1500度と考えると、そのヤバさが少しは分かるだろう。


 これこそ小さな太陽。人々が生きるのに必要な温かみを与える生命の息吹だ。


 ........流石にここまで近いと溶けそうになるが。


 「熱いし眩しいな。目がイカれそうだ」

 「魔力で目を覆ってなければ、今頃失明してるかもね。ってか、あの中心にいるシルフォードは大丈夫なのかな?」

 「そこら辺は大丈夫だろ。前に魔法撃った時も大丈夫だったし」


 チラリとシルフォードを見れば、その目はしっかりとモーズグズ達を捉えている。


 以前のように腰を抜かすなんてことはしないようだ。


 「焼き尽くせ」


 シルフォードはその指を振るうと、太陽は氷の世界へと堕ちてゆく。


 直径1kmもある火球だ。流石にこの距離で避けるのは難しい。


 ........というか、これ俺達も巻き込まれね?


 「イス。結界を頼めるか?」

 「了解なの。絶対零度の聖域アブソリュート・サンクチュアリ


 イスが軽く腕を振るうと、綺麗で複雑な模様が描かれた氷が俺達を囲む。


 先程まで感じていた太陽の熱が一気に遮断され、いつもの死と霧の世界ヘルヘイムの世界に戻っていた、


 「おお、すごいぞイス。熱も感じないとは思ってなかった」

 「えへへ。この聖域は何者にも侵食されないの。パパぐらいイカれた能力じゃない限り、その聖域は溶けないし壊せないの」

 「ホントだ。この氷全然とけてない」


 花音はそう言うと、ペタペタと氷を触る。


 そうしている間にも、太陽はモーズグズへと落ちていき、その体を燃やしつくそうとしている。


 「これは.......マズイですね」

 「バゥ」


 モーズグズとガルムも、まさかここまでの魔法を放たれるとは思っていなかったらしく、その顔には焦りが見える。


 上位精霊が自分達よりも下だと侮ってしまったのが、モーズグズ達の敗因だろう。


 モーズグズは自身の身体を普段の大きさにまで戻し、その槍を全力で振るうが1kmもある火球を斬ることも押し戻すことも出来ない。


 ガルムも氷の弾を撃ってはいるが、焼け石に水だ。


 ドゴォォォォォォォォォォォォォ!!


 氷の大地が揺れ、俺達が立っている場所以外の大地は溶けて崩れる。


 イスの聖域の中は太陽の光に激しく照らされ、思わず目を瞑っていまう程だった。


 そして、目を開くと、そこにはグツグツと煮えたぎるクレーターが出来上がっていた。


 「凄いの!!ファフニールおじちゃんが遊びで放つ炎ぐらいの威力はあるの!!」

 「凄いな。これが上位精霊の力か。シルフォードがこの力を、まだ完全に使いこなせてないことを考えると、後3割ぐらいは火力が上がるかもな」

 「これ、灰輝級ミスリル冒険者並の強さがあるね」


 こうして俺達は、予想外の戦力を手に入れることになった。


 そして、上位精霊が以下にヤバいかというのを実感したのだった。

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