モデルサラ
1枚目の絵が出来上がったのは、サラを描き始めて30分後だった。
とてつもない速さで動かされていた筆は、あっという間にサラの姿を描きあげて、キャンパスの世界にサラと言う生き物を創り出す。
「出来ましたよ。後5枚ほど描くつもりですが、ご希望のポーズとかありますか?」
「えーと。取り敢えず見せてくれないか?」
「確認してください。かなり綺麗に仕上がっているはずです」
そう言われて受け取ったキャンパスには、とてつもない美人が映っていた。
炎が燃え盛っているかのような深く紅い長髪。その髪は太陽の光を浴びて艶が出ている。これが誇張なしで描かれているのならば、今まで見てきた髪の中で一番美しいだろう。
目はなんとオッドアイ。赤紫と青紫の目は、瞳の中に綺麗な輝きを放っている。少し鋭い目は確かに師匠の雰囲気を感じ取った。
そして、何よりも驚いたのがその姿。
精霊の服なんて考えたこと無かった。紅を基盤とし、至る所に黒の模様が入っているそのドレスは貴族ですら着ないような豪華さを持っている。それでいて、そのドレスに着られることなく、しっかりと着こなしている辺りさすがはサラだ。
その純白と言っても過言ではない白く綺麗な肌に、良く映えるドレスである。
イスとシルフォードに、絵が出来上がるまでサラの姿の事を聞くようなマネはしなかったが、その甲斐があったな。
そしてこの絵は宮殿を入ってすぐの所に飾っておこう。
しばらく何も言えずにサラの絵をじっと見ていると、あることに気づく。
「........あ?コレ、もしかして
「........ほんとだ。タトゥーみたいになってる」
『肩に描かれてるから、途切れてる』
サラの左肩に、何か模様があるなとは思っていたがよくよく見れば俺達がよく見る模様だった。
途中で途切れている上に、どこか引き伸ばされた感じがあってすぐには気づけなかったが、これは間違いなく逆ケルト十字だ。
俺達
「これは........俺達の仲間に属してるって意味だよな?」
「そうじゃない?サラはシルフォードの契約者と言うだけではなく、私達の仲間でもあるって言いたいんでしょ」
『........ワタシもどこかに刻むかな?』
「お前はドッペルから貰った魔道具があるだろうが。それに、人型じゃない厄災連中はマークを持ってないだろ?」
『そうだった』
ベオークが変な暴走をする前に止める。
偶に変な対抗心を燃やして迷走することがあるベオークだが、今回はすぐに大人しくなってくれたようでよかった。
「すごいの。サラそっくりなの」
「すごい。見たまんま。これがサラ」
イスとシルフォードもキャンパスを覗き込んで驚いている。
この驚き様からして、この絵に誇張などは一切ないのだろう。
つまり、俺達が見ているこの絵はサラそのものなのだ。
「気に入っていただけて良かったです。稀に“ウチの精霊はもっと可愛い!!”と言うお客様もいるのでね........」
絵師はどこか遠い目をしながら、そうつぶやく。
余程厄介な客だったのか、その目は死んだ魚の目をしていた。
「好きな人は人一倍美しく映るような感じか?まぁ、分からんでもないな」
「見たまんまを描いたのに、これ以上どうしろと?と本気で思いましたね。あの頃はまだ中堅の絵師だったので、どれだけ仕事を完璧にやっても文句を言う人がいたのですよ」
「なんと言うか、その、大変だったんだな」
「全くです。今、同じものを描けば“流石先生!!この子の可愛さを完璧に描けています!!”とか言うんでしょうね」
立場が違えば、手の平も回る訳だ。
この人もこの人で色々と苦労してきたんだろうな。
「さて、私の絵に問題がなかったようなので続きを描きたいのですが、ご要望のポーズとかありますかね?」
「ご要望のポーズか。何か案がある人」
「立ち姿!!」
「後ろ姿なの!!」
「じゃ、左右?」
『なんかこう、かっこいい感じの』
俺が案を聞くと、次々に案を出す4人。
俺も立ち姿は見たいと思っていたので、それは決定だな。
椅子に座っていてもそのスタイルの良さは滲み出ていたが、立てばサラがどれ程の美しさを持っているのか分かるだろう。
後は........描いている間に話し合いだな。
「先ずは立ち姿で行こうか。でも、普通に立っているだけじゃ味気ないよな」
「サラはカッコイイ感じたがら、こう、片手を腰に手を当てさせてクール感を出した方がいいんじゃない?」
「いいねぇそれ」
「おーサラ、似合ってる」
「サラかっこいいの!!」
俺達には見えてないが、どうやらサラが花音のポーズを真似したようで、その姿を見ていたイスとシルフォードは興奮を抑えきれずに盛り上がる。
これは、絵ができた時が楽しみだな。
サラを見ていた絵師も、サラの姿に見惚れたようで静かに“ほう。これは中々”と言う。
下位精霊の時もイスやシルフォード曰くとても可愛かったそうだから、上位精霊になったから超絶美人になったのではなく、元々超絶美人になる予定だったのだろう。
「では、先ずこのポーズで描きましょうか。描いている間に次のポーズを決めておいてくださいね」
「わかった」
こうして、俺達はあーでもないこーでもないとサラのポーズについて議論することになった。
ちなみに、その全てが終わって拠点に帰ろうとした時間は、日が沈み始めた頃である。朝っぱらからやってたから、丸一日コレに潰れたと言っても過言では無いだろう。
━━━━━━━━━━━━━━━
「もうすぐ、戦争らしいわねぇ。後、一年だったかしら?」
「Yah!!そうだったはずデス!!ジンもカノンも随分と長い復讐を企てたものデスネ!!」
アンスールもメデューサも、長年生きてきて人と比べて時間の感じ方が遅い。
しかし、人間にとって4年という歳月が長いと言うことは理解していた。
「とは言え、人を殺すのに戦争まで起こすとは、ぶっ飛んでるわよねぇ。五人を殺すだけでいいはずなのに。今のジンやカノンなら殺れるでしょ?」
「Yah!!それは、神聖皇国との契約の問題ではないのですカ?確か、正教会国との戦争を条件に、色々と融通して貰っていたはずデース!!」
「あの頃はジンもカノンも弱かったそうだし、力で押さえつけるのは無理だったのかしらね?」
アンスールはそう言いながらも、仁や花音なら力が無くともなんとでもなったと予想している。
問題児である厄災級魔物をまとめ上げ、今もこうして人の世に紛れているのだ。
その手腕はかなりのものである。
毎日のように各団員のメンタルケアの為に話しかけ、なるべく不穏な空気が流れないように気を使う。
さらに言えば、あちこちの知り合いとのやり取りもあるのだ。
精神的に仁は疲れるだろう。
アンスールは仁を尊敬していた。最も、それを口にすることは無いが。
「私の力を使う時があるのかしら?」
「No!!私がそれは許しませんヨ!!私の目で全て終わらせマス!!」
「それは頼もしいわね」
アンスールは元気よく抱きつくメデューサを上手く躱しながら、静かに微笑むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます