静かな夜
短めです
傭兵達と馬鹿騒ぎし、誰もが酔いつぶれてしまったその夜。
俺達は、傭兵ギルドの前にある宿で眠っていた。
「........花音?どこか行くのか?」
「ん?起きてたの?」
同じ部屋をとっていた花音が、ベッドから降りる気配を感じて声をかける。
その滲み出る殺気からして、トイレでは無さそうだ。
俺はイスを起こさないように起き上がると、花音を軽く抱きしめる。
「あまり殺気立つな。鋭いやつだと気づくぞ?」
「うにゅ。気をつける。それと、少し行ってくる」
「どこに?」
「昼にちょっかいをかけてきた獲物を釣りに」
「........?」
昼にちょっかいをかけてきた獲物?
そんなやつ居なかった気がするが........
「俺もついて行こう」
「んーん。私一人で大丈夫。じゃないと引っかからないから」
「いや、その獲物が花音よりも強かったらどうするんだよ」
「魔王に嬉々として1人で挑んだ人に言われたくないけど、子供たちの護衛もあるから大丈夫だよ」
花音は笑顔で問題ないと言うが、やはり不安である。
ベオーク連れてこればよかったな。
アイツは
とは言えだ、花音の安全には必要だと判断する。
「なら、ベオークを連れていけ。呼び出すから」
「過保護だねぇ。私の強さを知ってるだろうに」
「俺の異能のように、防御に全部りすれば負けはしないのと違って、花音の異能は防御に全部りしても限界があるからな」
「私離れできないの?」
「恥ずかしい話だが、無理だ。花音がいなくなったら生きていける自信が無い」
なんとも男らしくない話だが、花音が消えたら俺は生きていけないだろう。
それほどにまで、彼女に依存している自信がある。
え?それは男としてどうなんだって?いいんだよ。浮気しまくるようなやつよりはマシだろ?
「ふふ。もー仕方がないな。仁がそこまで言うならベオークは連れてくよ」
俺の恥ずかしい告白を聞いた花音は、少し機嫌が良くなったようで要求を飲んでくれた。
それから5分後。俺の影から一体の蜘蛛が姿を表す。
その蜘蛛は、来るやいなや文句を言ってきた。
『今何時だと思ってんだコラ』
「悪いなベオーク。でも、護衛が必要だったんだ 」
「ごめんねベオーク。今日中に消したい奴がいたからさ」
『........カノンの護衛?』
ベオークの顔が“何言ってんだこいつ”という顔になる。
花音の強さを知ってるが故の顔だろう。
「察しがいいな。昼間に喧嘩を売られたらしくてな。その喧嘩を買うらしい」
「札束をその顔面に叩きつけに行こうかなーと」
『カノンならワタシの護衛がなくても問題ない。むしろ、ワタシが足でまといになりかねない』
「私もベオークの護衛はいらないと思うんだけど、仁が連れてけってうるさいからさ。お願いベオーク」
『........』
ベオークは両手を合わせて頼み込む花音ではなく、俺の方をじっと見つめたあとヤレヤレと呆れたように首を横に振った。
『わかった。護衛に着く』
「助かるよベオーク。花音、気をつけろよ?」
「うん。大丈夫。イスの面倒は頼むねー」
花音はそう言うと、影にベオークをしまって部屋を出ていくのだった。
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花音は泊まっている宿を出ていくと、影の中にいるベオークに話しかける。
これから花音のやる事を邪魔させるのは不愉快だ。
標的と接敵する前に釘を刺す必要がある。
「ベオーク。何があっても手を出さないでね?」
『何があってもの範囲による』
「今回の相手の異能を少し受けてみようと思ってね。もし、使えそうなら痛めつけて従順な奴隷にしたい」
『相手の異能に察しがついてる?』
「分かるよ。記憶に干渉できる異能だ。そんな異能持ちがいれば、便利になるでしょ?」
『それは確かに便利。ってことは、今この街で暴れてる記憶を消す能力者が
「察しがいいね。その通りだよ。私に接触してきたから、その喧嘩を買ってやろうかと思ってね」
『でも、カナンがその攻撃を受けるのは反対。それは危ない』
「大丈夫だよー。私に精神的干渉を及ぼす系の能力は効かないから」
サラッとそう言う花音を、ベオークはジト目で睨む。
『........この前は、魔法が効かないって言ってた』
「魔法も効かないよ?正確には無力化できるって事とけど」
『もしかしてカノンって強い?』
「ウチの団員達とは相性が悪いだけで、魔法を使う人と、精神干渉系の異能、魔法系の異能相手には完封できるよ。ほら、ウチの団員って変な異能持ってる人多いじゃん?あれが相手になると厳しいんだよね」
『まぁ、否定はしない』
仁を含め、傭兵団
ベオークですら理解が及ばない異能だ。
「ま、そんなわけだから手だし無用だよ」
『カノンに何かあれば、怒られるのはワタシなんだけど........』
「大丈夫大丈夫。私があの程度に負けるわけないから」
『........はぁ、ご自由に』
ベオークは何を言っても無駄だと悟ると、花音の好きにさせる。
花音は気づいていないが、花音も相当仁に似ている。
人の話をあまり聞いていないところや、自由すぎるところは仁そっくりだ。
「それじゃ、案内をお願いしよっかな。監視はつけてあるし、迷わず一直線だね」
「シャ」
影から出てきた子供達に案内を頼むと、子供達は影から案内を始める。
「夜は夜でいいねぇ。星が綺麗だよ」
『カノンのいた世界では、星が見えにくかったんだっけ?』
「そうだね。周りが明るすぎて、見える星は少なかったよ........今日は、いい夜になりそうだねぇ」
その不気味な笑みは、最上級魔物と呼ばれる深淵蜘蛛のベオークですらも震え上がらせた。
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