宴会
教会でやる事を終えた俺は、衛兵を呼び、頭の中お花畑のアホを引き渡す。
何が起こったのかを事細かに説明し、そのまま男は連れ去られた。
今頃は、牢屋の中で臭い飯のと仲良くしているだろう。
モヒカンだけの証言なら信じられなかったかもしれないが、衛兵の中で有名な俺と幼女のマルネス、更には教会のシスターマリアも加わったことにより、衛兵達もかなり信じてくれた。
極めつけは孤児院の子供達だろう。
子供は良くも悪くも純粋で、嘘を着くような真似は殆どしない。
今回の騒動の全てを見ていた訳では無いが、最初にモヒカンと揉めていたところは見ていただろう。
それを証言させることで、信憑性が更に上がった。
衛兵とて人である。可愛い子供たちが、モヒカンは悪くないと言えば信じてくれる。
「それにしても、面倒事が多いな。この街は」
「そんなもんだろ。俺がこの街で傭兵として活動し始めた時なんかは、もっと酷かったからな」
「そうなのか?」
「ここは辺境だからな。狩れる魔物が多い。首都は高ランク冒険者が多いから、ルーキーには仕事が少ないんだ。ルーキーは仕事を求めてこの街に来る。そうやって人が増えれば、面倒事も多くなる。俺が活動を始めた時は、ちょうどルーキーが多く入ってきた時でな。傭兵ギルドと冒険者ギルドの中が悪かったのもあって、あちこちで喧嘩や騒ぎが起こったものさ」
「冒険者ギルドのギルドマスターはそれを上手く使って、この街の勢力を広げてたな」
サラッとマルネスが補足を入れる。
モヒカンがこの街で活動を始めたのは、だいぶ昔の話だろう。
それを知ってるマルネスって........
「おい、何を考えてるか丸わかりだぞ。お前は乙女の秘密を暴こうとするのか?」
「乙女(笑)」
「よーし、殺す!!」
躊躇なく殴りかかってくるマルネスの拳を避けながら、俺達は傭兵ギルドへと足を運ぶ。
子供達曰く、花音達は既に街の案内は終えて傭兵ギルドではしゃいでいるそうだ。
モヒカンは俺の仲間を見るためにそれに参加。マルネスは、傭兵達との顔合わせの為に参加するらしい。
傭兵ギルドに属していないマルネスを受け入れるのか?と疑問に思ったが、あのアホ共は気にしないだろうな。
しばらくマルネスと戯れながら歩くと、傭兵ギルドが見えてくる。
それなりに距離が離れているにもかかわらず、騒ぎ声が聞こえてきた。
「相変わらず愉快だな」
「全くだぜ。もう少し慎みを持って欲しいな........おい、ジン。なんだその目は」
「なんでもない」
もしかして、そのモヒカンはブーメランですかね?
ウルト〇マンセブンのやつみたいに飛ぶんですかね?
ここに花音がいれば口に出していたが、流石に異世界のネタをモヒカンに分かれと言うのは無理がある。
俺は言いたい気持ちをぐっと我慢して、傭兵ギルドの扉を開いた。
そこには
「そこで我らの団長はこういったのよ!!“好きに暴れな”とな!!」
「うをぉぉぉぉぉぉ!!かっけぇな!!」
「流石はバルサル最強をはっ倒したジンだぜ!!カッコイイぞ!!」
「ふはははは!!そうであろう!!そうであろう!!そして、その言葉を聞いた我らは─────────」
身振り手振りで何かを再現しながら、場を盛り上げるストリゴイ。
「いいわねぇ。ラーグちゃんの旦那さん。あれだけカッコよくて愛想が良くて強ければ完璧じゃないの」
「ふふ。そんなことないわよ。あの人、心が弱くてちょっと何かあるとすぐ落ち込むのよ?そこが可愛いところなのだけれどね」
「えー?でも完璧の方が良くない?」
「完璧超人なんて、一緒にいても疲れるだけよ。男は少しダメな方が支えがいがあるのよ」
「なるほどー」
数少ない女傭兵達とガールズトークをするスンダル。
「おぉぉぉぉ!!すげぇ!!これで5人抜きだぜ?!どれだけ酒に強ぇんだよ!!」
「このぐらいならまだまだ大丈夫ですよ。さて、次にかかってくる人は?」
「俺が行くぜ!!」
「やってやれ!!この嬢ちゃんにボロ前したら俺達酒飲みのプライドが折れちまうからな!!」
「ふふふ。ならば、キッチリ折ってあげるわよ」
ほろ酔いで気分が良くなりながら、飲み比べ勝負をするドッペル。
「かぁぁぁぁぁぁ!!そんなことがあったのか!!そりゃ、その首輪はお前達の誇りだな!!」
「うぅぅぅぅ!!俺、泣けてきちまったぜ!!」
「俺もだ!!辛い人生だったなぁ!!」
「今は団長様がいるから大丈夫です。団長様、すごく優しいんですよ」
「あぁ!!ジンは良い奴だよ!!」
「ふ、副団長様も優しい方です!!」
「お、おう!!カノンちゃんも優しいな!!」
自分達の生い立ちを語っていたのか、涙を流しながら共感するおっさん共の相手をする獣人達。
「騒がしいね。いつもこう?」
「いつもこんな感じだねぇ........今日は人数が多いのかとりわけうるさいけど」
「でも楽しいの!!」
「確かに楽しいですが、私達の傭兵団の宴会でももう少し静かですね。思わず耳を塞ぎたくなります」
「そんなこと言わないでくれよ。俺達が馬鹿みたいに騒げるってことは、それだけこの国が平和だってことだからな」
「おー、いい事言うね!!」
「ふはははは!!そうだろ?」
「アンタにしてはいいこと言ったわね」
「おいおい。俺にしてはって酷くねぇか?」
「事実よ」
あのバカ騒ぎには流石に入れない大人しめの傭兵達と、バカ騒ぎを見つめながらちびちびと食べる三姉妹と花音達。
正に
扉を開けた俺達は思わず固まってしまうほどには、その空間は混沌を極めていた。
「ナニコレ」
「凄いな。傭兵ギルドが毎晩うるさいとは聞いていたが、ここまでとは私も思わなかったぞ」
「いやいや、普段はもうちょいマトモだぞマルネスさん。今日が五月蝿すぎるだけだ」
ある程度の喧騒に慣れているモヒカンですら、その五月蝿さに顔を顰める。
五月蝿いにも限度があるだろうに。
扉の前で俺達が固まっていると、俺に気づいていた花音が“こっちに来い”と手招きをしているのが分かった。
俺達はそそくさと花音達が座るテーブルへと移動すると、花音がニコニコしながら俺の腕に抱きつく。
「うるさいでしょ?」
「すっごく」
「スト.......じゃなくてティールがジンの英雄譚を話し始めてね。そしたら、想像以上に盛り上がってこの有様だよ」
「何話してんだ?俺に英雄譚なんてほとんどないだろうに」
「ヴァンア王国の話を、上手くねじ曲げて話してる」
吸血鬼の王国を滅ぼした時の話をしてるのか。
アレ、どちらかといえば、ストリゴイの方が英雄譚なんだけど。
俺の顔が少し不安げに見えたのか、花音は優しく微笑む。
「安心して、ティールもそこまで馬鹿じゃないから」
「いや、そっちの心配はしてないけど。俺の株を上げまくるのは辞めて欲しいんだがなぁ.......」
ちらりとストリゴイの方をむくと、俺に気づいていたのだろう。
俺に向かって軽くサムズアップをしていた。
何がグッドなんですかねぇ......
俺は少し呆れつつも、いつもの事かと諦めてこの喧騒を楽しむのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます