条件達成
花音達は案内の続きをしてもらう事にして、俺とマルネスは教会に向かってい足を進めていた。
外に出かける時も、独特な服のままなので微妙に目立ってしまっているが、目線を集めるのはいつもの事だったので俺は気にしていない。
それよりも、俺はマルネスが何者なのかが気になっていた。
ドッペルが本気で作った魔道具すらも見破ったその目は、明らかにただの魔道具士とは思えなかった。
俺は、少し機嫌良さそうに歩くマルネスにその質問をぶつける。
「なぁ、お前は一体何者なんだ?」
「ん?何者って、私は私だけど?」
そう言う哲学的返し方を求めているわけじゃないんだよ。
経歴を聞いてるの。
マルネスを見ると、こちらを見てニヤニヤしている。
こいつ、わかっててその返答をしたな?
「イスとオセルに、マルネスは悪いやつって吹き込んどくから」
「わー!!それは困る!!美少女や可愛い子に蔑まれた目線を送られるのは、それはそれで興奮するけど私は仲良くお話したい!!」
「おい」
サラッと変態発言するマルネスを軽く睨みつけると、マルネスは俺が本気でやると思ったのか少しだけ自分の事を語ってくれた。
「........んー、私は........私はとある祖国に仕えていたのさ。その国はもう滅んだけどね」
「随分とアバウトな言い方だな」
「悪いけど、これ以上は話せない。私にも事情があるんでね」
「あっそ。言いたくないなら言わなくていいさ。無理に聞くほどお前の正体を知りたいわけじゃない」
「幼女の事を根掘り葉掘り知りたいとか、どんな変態だよ。あ、そのオセルちゃん?こと私知りたいんだけど」
「鏡って知ってる?自分を写せる素晴らしい道具なんだけど」
「は?なんでここで鏡の話になるのさ?」
「お前も変態だってことだよ」
「あ?私は普通だろうが!!」
ギャーギャーと騒ぐマルネスを無視して、俺はマルネスの仕えていた国のことを考える。
マルネスは人間だ。
少なくとも、マルネスの事を調べた時は報告書で種族人間という文字を見た覚えがある。
........思い出せば思い出すほど、マルネスの経歴には違和感しか無かったな。
子供達が持ってきた報告書には、バルサルからの経歴しか書かれていない。
バルサル以前の足取りは全くと言っていいほど掴めていなかったはずだ。
その時は魔王やら他国の動きやらで忙しかったため、放っておいたが、ここら辺でしっかりと調べ直した方がいいかもしれない。
1度、関わりのある人物の経歴を調べ直すか。
他にも怪しい経歴を持った者が何人かいたし。
今は、子供達を自由に動かせる数も多くなっている。
今なら調べきれるだろう。
「ココ最近滅んだ国........」
「おい!!聞いてんのか?おーい。あり?なんかトリップしてる?」
マルネスはまだなにか騒いでいるが、それの対処は後だ。
マルネス曰く、そのとある祖国は既に滅んでいるらしい。
この世界は600以上の国があるし、なんなら毎日のように滅んでは新たな国が誕生している。
大国はともかく、小国はどこもかしこも戦争ばかりだ。
アゼル共和国も少し前にシズラス教会国とドンパチやってたしな。
ちなみに、その30年ほど前にはお隣の獣人国家バサル王国と戦争をしていたそうな。
そんな戦争の耐えないこの世界では、最近滅んだ国なんて沢山ある。
さらに、ネットなんて便利なものもないのだ。
調べるとなると、相当時間がかかるし、何より調べきれるわけが無い。
旧サルベニア王国のように、有名な国なら分かるが........あの国が滅んだのは300年近く前だ。
この幼女が300歳まで生きているとは思えない。
人間だし。
他にも滅んだ有名な大国というのは幾つもあるが、どれも何百年単位前に滅んでいる。
人間であるマルネスがそこに仕えていたのなら、本当にロリババアだな。
「おい、そろそろ戻ってこい」
「あた」
頭を引っぱたかれた俺は、思考の世界から現実へと引き戻される。
隣では、唇を尖らせたマルネスが拗ねたような態度をとっていた。
「1人だけの世界に入るなよ。寂しいじゃないか」
「なんだ?子供だから寂しがり屋ですってか?そんな柄じゃないだろうに」
「バカ言え。私だって放置されれば少しは寂しいと思うさ。私をなんだと思ってんだ?」
「合法ロリ?」
「死にてぇのかてめぇは」
マルネスは握りこぶしを作ると、そのまま俺に殴りかかろうとするがその手は俺に届く前に止められる。
「やめとけよ。もう教会の目の前だぞ?女神のお膝元での暴力は厳禁だろ」
「生憎女神なんざ信じていないし、信仰もしてないんでな。祈られることでしか自分の存在を保てない愚物を支える気は無い」
「酷い言われようだ。女神もお前みたいな粗暴なやつに祈られたいと思ってないだろうな」
「言ってろ」
マルネスはそう言うと拳を引っ込めて、俺の隣を歩く。
その横顔は、どこか悲しげだった。
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仁と別れた花音達は、バルサルの街を歩いていた。
仁にはバルサルの案内をしろと言われたが、既に回りたい場所はあらかた回っている。
結局、花音達は傭兵ギルドに帰ることにした。
「それにしても、三姉妹がバレるとは思っていなかったよ。あの店主、中々にやるね」
「申し訳ありません。副団長さん。私の責任です」
「いーのいーの。仁が許してるんだから、私からは何も言わないよ」
それはつまり、仁が許さなければ花音も許すことは無いということだ。
ドッペルは背中に嫌な汗をかきながら、軽く頭を下げた。
あの島にいた頃ならともかく、花音の実力は既にドッペルを超えている。
下手に怒らせるような真似は絶対に避けたかった。
そんな少し緊張した空気が流れている中、その空気を壊すかのように一人の女性が花音に話しかける。
「あの、すいません」
「はい?」
花音は女性の顔を見るが、知らない顔だ。
花音は他の団員達に目をやるが、全員が首を横に振った。
誰もこの女性と面識が無いという事だ。
花音は警戒しつつも、その女性の話を聞く。
「あのー、憩いの酒場ってどこですかね?この街には来たばかりで、道が分からないんです」
「憩いの酒場なら、大通りを真っ直ぐ歩けばありますよ。この街では1番大きい酒場なので、すぐにわかると思います」
「そうでしたか!!ありがとうございます!!私のいた街では、酒場って道の外れにしか無かったもので、この街もそうなのかと思ってました!!」
女性はそう言うと、花音の手を取ってブンブンと激しく握手する。
「ありがとうございます!!あ、お名前はなんと言うのですか?」
「.......花音だよ」
「カノンさんですか!!いいお名前ですね!!それじゃ、ありがとうございましたー!!」
花音は偽名を使おうか一瞬悩んだが、調べられるとすぐにバレてしまうので諦める。
花音の手を取った女性は、にっこりと笑うとお辞儀をして走り去っていく。
団員達は、その勢いに呆気を取られていた。
「元気な迷子だったな」
「そうだね。ほんと、元気な迷子だよ」
花音はその握られた手をじっと見つめた後、少し口角をあげて呟いた。
「舐めやがって」
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迷子の女性は、黒いローブを着た集団が見えない位置まで来ると、ニヤリと笑う。
「条件3まで達成。あとは1人の時を待とうかな?」
不気味な笑みは、闇と共に消えてゆく。
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