限界オタク?

 マルネスが三姉妹をダークエルフだと見抜いたことにより、店の中ではなんとも言えない雰囲気が漂っている。


 特に、元凶である三姉妹と、自分の作った魔道具に自信を持っていたドッペルの落ち込み方は凄まじく、傍から見ても落ち込んでいます感が溢れ出ていた。


 「ゴメンなさい。団長さん。私達、バレちゃった........」

 「申し訳ありません」

 「ごめんなさい」


 ペコペコと頭を下げながら、謝る三姉妹と


 「申し訳ありません。私の魔道具がこうも簡単に見破られるとは思っていませんでした。処分は如何様にも........」


 余程魔道具に自信があったのか、今までの付き合いの中で1番落ち込むドッペル。


 四人とも俺からの罰を望んでいるように見えるが、そもそもここに連れてきたのは俺だ。


 三姉妹の変装が完璧だと思って連れてきているので、ここで4人を怒るのであれば、俺まで誰かに怒られなきゃならない。


 俺は、下を向く三姉妹とドッペルの頭を優しく撫でてやる。


 「お前たちのせいじゃない。あのロリが鋭かっただけだ。とは言え、見破られることが分かった以上、三姉妹にはフードを被ってもらうぞ」

 「拠点に帰るのでは無いのですか?」

 「馬鹿言え。何のためにこの街に連れてきたと思ってる。明日1日ぐらいはバレることは無いだろ。バレても、目撃者を消せばいい」


 サラッと犯罪宣言するが、俺としては赤の他人よりも三姉妹のご機嫌を取るほうが大事だ。


 この日をどれだけ楽しみにしていたのかを俺は知っている。


 1人にバレたからと言って、この旅行を打ち切るつもりはなかった。


 「幸い、マルネスはダークエルフだからといって何かしようとは思ってないらしい。街中を堂々と歩いてもバレなかったんだから、大丈夫さ」

 「でも........」

 「“でも”じゃない。分かったらその泣きそうな顔をやめろ。お前たちは笑ってる方がいい」


 そう言うが、三姉妹の顔色は優れない。


 そりゃそうだろう。


 楽しい旅行に冷水を浴びせたのは間違いないのだから。


 俺がどうしたものかと悩んでいると、ドッペルが話す。


 「明日は私が護衛に付きましょう。もっと魔道具の隠蔽ができかなかった私の責任ですからね。もし、誰かにバレた場合は、私が責任をもって排除します」

 「頼んだぞ」


 基本、自由人のドッペルがそんなことを言うのは珍しい。


 流石に、3人の女の子を凹ませたままなのは気が引けるのだろう。


 俺はドッペルの意外な一面を見れて、少し喜んでいるとマルネスが帰ってきた。


 「さて、それじゃ教会に行くとするか?」

 「そうするか。だが、その前にウチの魔道具士と話してくれ。明日までこの街にいるつもりなんだ。3人がお前以外にバレるのかを知りたい」

 「あん?バレねぇと思うぞ?魔道具の隠蔽も相当高度なものだし、見た目も違和感が無い。そもそも、ダークエルフがこの街にいるなんて誰も思わないだろうしな」

 「では、なぜ貴方様は気づかれたのでしょうか?」


 ドッペルは、フードを取るとマルネスの前にやってくる。


 その顔を見ることは出来なかったが、声と雰囲気からして、相当緊張しているように思えた。


 マルネスは、そんなドッペルの顔を見て固まる。


 イスのような可愛い子や美人が好きなマルネスの事だ。


 間違いなくドッペルに見惚れているのだろう。


 「か、可愛いと美しいのベストマッチング........!!これぞ神が作り出した人類至高の領域!!あ、あの!!あく、握手してください!!」


 限界オタクかてめぇは。


 先程の強気な姿勢はどこへやら、マルネスは推しにあった陰キャ女子高生のような態度でドッペルに握手を求めていた。


 ドッペルは、俺から店主の性格を聞いていたので、驚くことなく握手に答える。


 優しく握ったその手を見て、マルネスのテンションは最高潮に達していた。


 「ありがとうございます!!この手は一生洗いません!!」

 「えーと........そうですか。それよりも、貴方様は何故、魔道具を使っていると気づかれたのですか?隠蔽は相当高度なのですよね?」

 「は、はい!!確かに魔道具の隠蔽は完璧と言っても過言では無いものですが、隠蔽をするとそれはそれで違和感が生まれるんです。なんと言ったらいいんでしょうかね?土を掘り起こした後、綺麗に埋め立ててもそこの土だけは柔らかいみたいな感じですかね?ともかく、見る方の目が優れすぎていると微妙な違和感があるんです。私は長いことそう言うのを見ていたので、気づけましたね。ですが、安心してください。見抜ける人物というのは私以外には2人しか知らないので」


 急に口調が変わって、丁寧に説明するマルネス。


 こいつ、普通に話すことができたのか。


 「そのお二人がこの街にいたり?」

 「いませんよ。もう故人なので。かつての技術を知るものは既に私一人だけです」


 マルネスはそう言うと、ドッペルの顔を目に焼きつけるかのように凝視する。


 そして、顔を真っ赤にして震えていた。


 「気持ち悪いの」

 「いいかいイス。アレがオタクというものだ。別にオタクになるなとは言わないが、はたから見たら自分はこう見えている事を覚えておくんだよ」

 「わかったの」


 イスは少し引きながらマルネスを見ていた。


 うっとりとした表情を向けるマルネスには、今の会話が聞こえていなかったようで、ずっとドッペルの顔を見ている。


 ここでドッペルの変身を解いたら面白そうだなと思いつつ、俺はマルネスを正気に戻すためにドッペルの頭にフードを被せた。


 「あ!!何しやがるジン!!この女神様のお顔を脳裏に刻み込んでたというのに!!」

 「うるせぇぞ変態ロリ。お前、イスにドン引きされてたのぞ」

 「へ?なんで?」

 「顔が気持ち悪かったから」

 「いやいや。気持ち悪くはないでしょ。普通の顔をしてたさ」

 「アレが普通なら、今頃お前は牢屋行きだ。明らかに犯罪者の顔だったぞ」


 今にも“ハァハァ、お嬢ちゃん可愛いねぇ”と言い出しそうな顔だった。


 マルネス自身、それなりに綺麗な顔をしているが、それでも限度というものはある。


 先程の顔は、思いっきりアウトだった。


 「酷いぞ。そんな気持ち悪い顔なんて、していなかったよね?イスちゃん?」

 「これに関してはパパの方が正しいの。マルネス、気持ち悪かったの」

 「ぐふぅ」


 イスを味方に付けようとしたマルネスだったが、思いっきりカウンターパンチを食らったようだ。


 いや、カウンターはしていないから、純粋な右ストレートか?


 俺はそんなくだらない事を考えつつも、マルネスの首根っこを掴んで歩き始める。


 「おい、何するんだよ」

 「今から“神の宣誓書”を契約しに行くんだろうが。このままだと、動きそうもないんでな」

 「ちゃんとついて行くから下ろせ!!私は子猫じゃないんだぞ!!」


 ジタバタと暴れるマルネスだが、俺の拘束を抜けるには力が足りない。


 「それに、美人なら花音とかもいるだろうに。そこのダークエルフも獣人も結構な美人じゃないのか?」

 「ダークエルフちゃん達獣人ちゃん達はともかく、カノンは絶対に無いよ」

 「なんで?」

 「壊れたお人形さんを可愛いとは思えない」

 「え?私、今喧嘩売られた?」

 「売られたな。しかも、真正面から叩きつけるように売られたな」

 「よーし、久々に喧嘩を買っちゃうぞー!」


 その後、教会に行く前に花音に軽くボコられたのは言うまでもない。

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