ダークエルフ(ボソッ)

 個性的な格好をしたロリ店主とガチの喧嘩をする事5分。


 マルネスは肩で息をしながら、俺を睨みつけた。


 「はぁ、はぁはぁ........全く捕まえられん........」

 「当たり前だろ。俺とお前じゃ地力が違ぇよ」

 「これでも、元は金級ゴールド冒険者だったし、今は魔道具を使って色々と強化してたんだがな」


 悔しそうにするマルネスの言葉を聞いて、俺は驚いた。


 このロリ店主、元冒険者だったのか。


 年齢を聞くのは流石に失礼だとわかっているので、彼女の歳を知らない。


 この世界で金級ゴールド冒険者というのは、人外の領域に一歩踏み込んでいると言っても過言ではない。


 俺の周りが化け物すぎて金級ゴールド冒険者は弱いみたいになっているが、この世界の人間を基準に見れば普通に化け物である。


 それに、魔道具で補助を入れてるだと?


 まーた何か変な物を開発したな?


 「それだけで、バルサル最強をぶっ飛ばした俺に勝てると思ったのか?ちなみに、魔道具ってなんだ?」

 「これだよ。試作品十三号関節行動補助機サーティーンだ」

 「かん........なんて?」

 「関節行動補助機サーティーン」

 「その関節ナントカは何ができるんだ?」

 「その名の通り関節の動きを補助して、動きをスムーズにする」


 へぇ、それは凄い。


 具体的に何が凄いのかと問われるとちょっと回答に困るが、関節の動きを補助できるのは凄いことなのではないだろうか(語彙力)


 「それ、俺も装備できたりする?」

 「無理だな。これは私サイズになっている。お前が私の体型になればつけれるぞ」

 「無理言うなよ。俺はロリにはなれん」

 「なら諦めろ。さて、稼働テストも終えたし店に戻るか」


 マルネスはそう言うと、店へと戻っていく。


 だが、店の扉を開ける直前に立ち止まる。


 「どうした?鍵をかけられたか?」

 「........ダークエルフ」


 ポツリと呟いたその言葉に俺は目を見開くと同時に、異能を展開してマルネスを逃げれないようにする。


 これが知らない相手であれば、黒騎士で無理やり押さえつけるのだが、ある程度世話になっている相手でさらに幼女だとやりづらい。


 俺は、どこか納得したような顔をしているマルネスに、殺気を込めながら話しかける。


 「どこで気づいた?」

 「おいおい。そんな怖い声をしないでくれよ。ビビって漏らしそうだ」

 「おふざけは後で付き合ってやる。どこで気づいた?どこで知った?」

 「カマをかけただけだったが、当たりだったらしい。まず殺気を抑えてくれ」

 「カマをかけた?馬鹿言え、お前は確信を持って呟いていた」


 俺がそう言うと、マルネスはフンと鼻を鳴らして胸を張る。


 絶壁の胸は、どれだけ頑張って胸を張っても絶壁だ。


 「私は魔道具店の店主だぞ?自称バルサル1、いや、アゼル共和国1のな。見た目が普通だろうがなんだろうが、魔道具が起動している時の違和感ぐらいは感じ取れる。三人いたな。それも結構可愛い女の子。指名手配犯なら、そもそも顔を変える。私の知っている情報の中で引っかかる顔はなかった。肌を変えざるおえない理由があり、耳を隠す必要がある人物とは?この国は他種族国家だ。人間至上主義の国家ならともかく、エルフにすら寛大なこの国では顔をいじる理由がない。あったとしても、耳を隠す程度、肌の色を変える必要はない。となると、当てはまる種族は1つしかない。かつて大魔王に味方した人類の裏切り者、ダークエルフだとな。どうだ?私の推理は」


 推理の仕方はぶっちゃけどうでもいいが、魔道具の起動を感じ取って三姉妹がダークエルフだと結論づけたのは凄い洞察力である。


 彼女の本業(副業)は情報屋だ。


 俺は、少しこいつを甘く見ていたな。


 「で、ダークエルフがこの街にいると知ったお前はどうするつもりだ?」


 ダークエルフは魔物として扱われる種族。街中に魔物がいるとなれば、討伐しようと衛兵や冒険者が動くだろう。


 場合によっては、ここでマルネスを始末する必要がある。


 そんな生死の境に立っているマルネスは、真剣な俺の表情を見て、ケラケラと笑い始めた。


 「あははは!!いいねぇ!!その顔。私はその顔好きだぞ?昔を思い出す」

 「御託はいい。ここで死ぬか?」

 「馬鹿言え。私だって命は惜しいもんだ........そうだな。イスちゃんと1日デートでどうよ?」

 「死にたいらしいな」


 俺が1歩踏み出すと、マルネスは慌てて条件を変える。


 「待って待って!!言わないから!!“神の宣誓書”結ぶから!!」

 「その言葉、嘘じゃないだろうな?」

 「嘘じゃ無い!!なんなら今から教会に行く?と言うか、行こう!!」


 “神の宣誓書”それは神の前で契約をすると言う絶対不可侵の領域。


 特殊な紙とインク、そして魔法陣を使う事で効力が発揮される。


 その効力は絶大で、契約を破ろうものなら神の罰が下ると言う。


 聞いた話では、契約を破ったある商人がその翌日に雷に打たれて死んだとか、契約を破った裏組織の人間が急に苦しみ出して死んだとか。


 とにかく“死”と言う罰が下るそうな。


 これを持ち出すということは、マルネスは本気で誰にも言わないつもりなのだろう。


 「ダークエルフは人類の敵じゃないのか?」


 思わず疑問に思って聞いてしまった。


 すると、マルネスは“何を言っているんだコイツは”と言った顔でこちらを見る。


 「はぁ?その人類の敵を仲間にしているのはお前だろうが。しかも、忠誠心が高い。それに、人類と敵対したダークエルフは2500年前の話だろ?現役で生きてるやつなんて居ない。彼女達は、大魔王の配下で人間を殺し回ったのか?」

 「いや、先祖のツケを払っている」

 「そりゃ可哀想に。本人は何もやってないのにな。犯罪者の子供が犯罪者呼ばわりされるのと一緒か」


 親のせいで、何も罪を犯していない子供が苦労する。


 三姉妹の場合は、親しい人すらもその被害にあっているからな。


 俺はマルネスの評価を改めることにした。


 このロリ、以外と話が通じるし、何より価値観が似ている。


 「それで、そろそろこの黒いやべー奴を解いてくれないか?内心ガクガクで冗談抜きに漏らしそうなんだけど」

 「漏らせ漏らせ。どうせここじゃ俺しか見てないからな。まだ聞くことがある」

 「うわぁ、そういう趣味か?お前が良くても、私がダメなんだよ。分かったらさっさと解け変態。話なら後でしてやるから。それとも、幼女のおもらしを見て興奮する変態だとお前の団員に言いふらそうか?」

 「新手の脅迫か?生憎、その程度で揺らぐ信頼関係では無いんだが.......まぁいいや」


 俺は能力を解くと、マルネスは急いで店の中に入っていく。


 あ、冗談じゃなくて本当にトイレに行きたかったんだ。


 俺は、走り去ったマルネスの後に続いて店の中に入る。


 店の中では、団員達が魔道具を手に取って物色しているが、その雰囲気はとても買い物をしようとしているようには見えない。


 俺が能力を使ったのがバレてるな。


 そもそも隠す気は無かったけど。


 「何があったの?」


 花音が俺の腕に抱きつきながら、聞いてくる。


 身長的には花音の方が高いので、微妙に腰が引けている。


 傍から見たらマヌケに写るかもな。


 そんなことを思いつつ、俺は先程あったことを話す。


 「三姉妹がダークエルフだとバレた」

 「.........!!消す?」

 「いや、“神の宣誓書”を結ぶ。アレなら約束を破った瞬間、死が待ってるからな」


 花音はどこか納得していない表情をしていたが、俺の決定には文句を言わないようだ。


 しかし、マルネスは一体何者なのだろうか。


 俺は、少しだけ彼女の正体が気になるのだった。

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