観光案内

 ギルドマスターをぶっ飛ばし、無事に全員が傭兵登録できた。


 全員実力は白金級プラチナ冒険者並だし、厄災級魔物に至っては灰輝級ミスリル冒険者すらも殺せる。


 そんな傍から見ればバケモノ集団である俺達は、宴だと騒ぐ傭兵達を置いてバルサルの街を歩いていた。


 「これが冒険者ギルド。この街の現状は知ってるだろ?俺達は傭兵なんだ。面倒事が起こらないように、なるべくここには近づくなよ」


 コクリと全員が頷くのを見て、俺達は冒険者ギルドを離れていく。


 この世界に来て、全くと言っていいほど冒険者ギルドとは関わっていない。


 おかしいな。異世界に来たら冒険者になるのが基本じゃなかったのか?


 龍二や黒百合さん達も、冒険者ギルドに登録しているというのに........


 「仁?どうしたの?急に落ち込んで」

 「いや、俺の想像してた異世界召喚とはかけ離れてるなぁと思ってな」

 「今更?人外集団で傭兵団を作った辺りから大分かけ離れてるでしょ」

 「否定はしない」


 最初の方は割とテンプレだった気がするのに、どうしてこうなったのやら。


 そう思いながら、俺は次の目的地に到着する。


 あの酒狂いのエルフの爺さんがいる店だ。


 ちょくちょく訪れては酒を買っているが、いつも酒を飲んでいる。


 肝臓とか大丈夫なのか?


 エルフという種族が酒に体制を持っているのだろうか?


 「ここがスンダル達の飲む酒を買っている店だ。俺の名前を出せば多分サービスしてくれるぞ」

 「ここがあの美味しいお酒を売ってるところね。明日は絶対に行きましょう」

 「ふはははは!!そうであるな!!団長殿から貰った給金も相当あるし、色々と買ってみるとしよう」


 スンダルとストリゴイの目には、もう酒しか写っていない。


 明日は気になる酒を全て買い占めるだろうな........


 一応、今回全員には白金貨1枚(日本円にして1億円)分の資金を渡している。


 ぶっちゃけ多すぎるが、贅沢に金を使わないと金庫の中身が減らないのだ。


 あちこちから金を集めてくるせいで、国家予算並の金が金庫には入っている。


 しかも、大国並の国家予算だ。


 下手をしなくても、小国1つぐらいは余裕で買えてしまうだろう。


 110億円もの小遣いを渡しても、まだまだ余裕があるとかヤベーな。


 なんなら、増えてるし。


 一昨日辺りに、金庫の中を見たらえぐい量の金貨と大金貨が入っていた。


 まーた、どこぞの危ない組織から金をがめって来たのかと思ったよ。


 「はしゃぎすぎるなよ?ここの店主結構いい歳なんだから」

 「分かっておる。世界中から酒を集められるツテを持つものに迷惑をかけるような真似はせんぞ」

 「そうよ。酒がある限り、このお爺さんは私達が影から守ってあげるわ」


 それ、酒がなくなったら見捨てるって言ってるのと変わりないからね?


 金の切れ目が縁の切れ目とは言うが、吸血鬼夫婦の場合は酒の切れ目が縁の切れ目なのだろう。


 どんだけ酒好きなんだよ。


 吸血鬼に肝臓があるのかは知らないが、もしあったら少し心配である。


 この世界に、人間ドックであるのかなぁ........


 もしあったら検査して欲しいものだ。


 自分の体は自分がよく分かってるとか言うが、そんな訳ないしな。


 「さて、次に行くぞー」


 そろそろ昼時だ。


 傭兵ギルドで食べてもいいが、間違いなく大騒ぎする馬鹿どもに捕まるので昼飯は適当な屋台で買って食べ歩きである。


 俺達は、串焼きを売っているおっちゃんの所へ行くと、そのまま串焼きを購入。


 沢山買った為か、いくらかサービスしてくれた。


 味もまぁまぁ出し、今度外で食べる時があればまた買うとしよう。


 串焼きを皆で頬張りながら、街の中を歩いていく。


 大通りでは目立ちすぎる。気配をなるべく消しながら、1本外れた道を行く。


 しばらく歩くと、小さなパン屋が見えてきた。


 ストリゴイが気に入っている、出来たてパンを作る店だ。


 今日もこの店は繁盛しており、昼時というのもあってかなりの客が入っている。


 「ココがストリゴイ達がよく食べるパン屋だな。今は昼時だからかなりの人がいるが、夕飯前の時間なら空いている。狙い目はその時間だ」

 「ふはは!!ではその時に行くとしよう!!ここのパン屋は美味いからな!!」

 「酒のツマミにもなるのがいいのよねぇ。ちょっと辛めのパンとか酒と合わせると絶品よ」

 「団長様が買ってくるパン屋って、ここだったんですね。僕、ここのパン好きだなぁ」

 「ロナと同じ意見ね。ここは美味しいわ」


 相変わらず酒が基準の吸血鬼夫婦と、普通にパンの味が気に入っているロナとリーシャ。


 他の面々もここのパンは好きなようで、その顔には“夕飯前に買いに来よう”と書いてあった。


 ごめんな店主のおばちゃん。明日の夕飯前は、黒いコートを身に纏った集団がやってくるかも。


 皆いい子だから怖がらないで欲しい。


 まぁ、顔は綺麗どころばかりなので、多分大丈夫だろう。


 これが山賊みたいな見た目だったら、やばかったかもしれないが。


 俺達は店に入ること無く、その場を後にする。


 次に訪れたのは魔道具店だ。


 マルネス魔道具店は、相変わらずボロけた店であり、店の中にも人の気配がない。


 「ここがマルネス魔道具店だな。幼女店主が──────」

 「誰が幼女店主だ?コラ」


 俺が魔道具店の説明をしようとすると、俺たちの気配を察知したのかマルネスが店から出てくる。


 個性的な服に身を包んだ彼女は、黒いローブを着た集団を見て、目を大きく見開いた。


 「おいおい。凄いな。まるで傭兵団だ」

 「傭兵団なんだよ。全員俺の部下だ」

 「可哀想すぎる。こんな馬鹿の部下とか私なら死んでもゴメンだね」


 マルネスがそう言った瞬間、幾つかの殺気がマルネスを襲う。


 常人ならば、その圧に気絶してもおかしくない程だ。


 しかし、その殺気を受けたマルネスは、何処吹く風だ。


 ケラケラと笑いながら、殺気を向けてきたロナと三姉妹を指さす。


 「中々に根性座ってんな。だが、冗談を冗談と取れないのは教育不足なんじゃないのか?」

 「それだけ忠誠心が高いって事だ。お前の冗談も、聞く人によっては、不快にとられるぞ?」

 「それもそうだな。君達の主を貶して悪かった」


 ぺこりと素直に頭を下げるマルネス。


 今度は俺が大きく目を見開く。


 「お前........謝るという概念があったのか.......!!」

 「てめぇ、私に喧嘩売ってんのか?幾らだ?買うぞ?」


 半笑いしながら、握りこぶしを作ってパキパキと骨を鳴らすマルネス。


 そう怒るなよ。冗談じゃないか。


 俺は笑いながら、その小さなマルネスの頭を撫でてやる。


 「ゴメンなさいできて偉いでちゅねー。いい子いい子」

 「死ねぇ!!」


 俺の煽りに、間髪入れずに殴りかかってくるマルネス。


 俺はそれを容易く躱すと、何度も何度も頭を撫でながら煽ってやる。


 「ぶち殺す!!」

 「あっはははは!!やってみろ!!ロリババア!!」


 人がほとんど通らないくらい道の一角で、ロリとローブを着た厨二病が割とガチで喧嘩していることを、この街の人々は知らない。


 「団長さん楽しそう」

 「じーん!!私たち先に店に入ってるからねー!!」

 「パパファイトなのー」

 「イスちゃん!!私も応援してぇ!!」

 「マルネスファイトー(棒)」

 「テンション上がってきたぁぁぁぁ!!」

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