Dieジェスト

 ロナがギルドマスターをフルボッコにしたのを見て、後ろにいた傭兵達はザワザワと騒ぎ始める。


 さっきまで5~6人しかいなかったはずなのだが、気づけば10人程人が増えていた。


 「おいおいマジかよ。最近、ギルドマスターが吹っ飛ばされているところしか見てないぜ?」

 「ジンやカノンの時もそうだったが、強すぎだろ。あんなに滑らかな動きで剣を捌くの、初めて見たわ」

 「すっげ。俺もクネクネしてたらあんな風になれんのか?」

 「やめろ気持ち悪い。お前の場合は、やべぇ呪術をかけようとする頭のとち狂った異教徒にしか見えねぇよ」

 「ひでぇ!!」


 傭兵達がワイワイ話す中、俺の元にやってきたのは、この街の傭兵達のまとめ役であるアッガスだ。


 アッガスは、俺の横に立つとロナを見ながら質問してくる。


 「久しぶりだなジン。またやらかしてんのか?」

 「まてまて。“また”ってなんだよ。俺は一回もやらかした覚えはないんだが?」

 「よく言うぜ。バルサル最強をぶっ飛ばして、この街の勢力図にメスを入れたのを忘れたとは言わせねぇぞ?」

 「アレはやらかしたの内に入らねぇよ。この街を謝って消し飛ばすとかなら“やらかした”に入るだろうけどな」

 「........やめろよ?間違ってもやるなよ?」


 それはやれって意味ですかね?流石に冗談でも、この街を吹き飛ばすような真似はしないが。


 今大っぴらに動けるのはこの国だけである。それなりの権力も手に入ったし、その気になれば、トップになることもできるだろう。


 動きやすいこの国に牙を向けるような真似は、するつもりがない。


 まぁ、この国が俺達に剣を向けない限りという前提があるが。


 「それで?茶番をするために俺に話しかけたのか?」

 「茶番て........まぁいい。要件を言うとだな、お前の団員を見る限り相当な実力者揃いだ。そのーだな。金は払うから、ウチの連中とも模擬戦をやってはくれないか?」

 「は?模擬戦?アッガスの傭兵団と?」

 「俺の傭兵団じゃなくて、俺が所属する傭兵団だな。俺の傭兵団の話は聞いているか?」

 「知ってるさ。この国で1番大きい傭兵団赤腕の盾レッドブクーリエ。その団長である“剛剣”バラガスはそこでボコられてるギルドマスターよりも強いって噂だ」


 この街に初めて来た時、行商人の口から出てきたこの国でいちばん有名な傭兵団。


 それが“赤腕の盾レッドブクーリエ”だ。


 あの時は名前なんて出てこなかったし、子供達を国にばら蒔いて情報を集めるなんてしていなかったから知らなかったが、初めて知った時は驚いたものだ。


 そして、その有名な傭兵団の三番隊隊長がこんなオッサンだったのかとも思ったな。


 そりゃ、そんだけ有名な傭兵団の三番隊隊長なのだから、まとめ役にもなりますわ。


 昼間っから酒飲んで潰れてるのをちょくちょく見るダメ人間だけど。


 「おい、今失礼なことを考えなかったか?」

 「気のせいだ。酒を煽りすぎて被害妄想の障害でも出てるんじゃないのか?いい医者を紹介するぞ?」

 「........はぁ。お前は喧嘩を売らないと生きていけないのか?」

 「安心しろ。言う人の区別ぐらいつけてるさ」

 「それはそれは。賢うございますね。さて、話を戻すぞ」

 「模擬戦して欲しいって話だったよな?でもなぜ?」


 それだけ有名な傭兵団が、態々俺達に模擬戦を頼むってどういうことだろうか。


 一人一人の強さはあっても、所詮は14人程度の弱小傭兵団だ。


 どっかの厄災級達は流石に連れて来れないからな。


 せめて人の見た目をしていれば何とかなるかもしれないと言うのに........


 イスが人化した時、ボロクソに言ってしまったが、今は切実に人化して欲しいと思う。


 そうすれば、やりたいことの幅が広がるのになぁ........


 俺がそんなことを考えているとは知らず、アッガスは俺の質問に答えた。


 「俺達の傭兵団は、毎年2回ほど首都に集まって全員で訓練するんだ。その特別講師として招きたい」

 「報酬は?」

 「1人頭金貨5枚でどうだ?」


 日本円にして1人頭500万円かよ。


 相当な金額だな。


 最近は何故か増え続けるウチの金庫を見て、金銭感覚がバグってきているのだが、アッガスも大概らしい。


 せいぜい大銀貨2~3枚だと思ってたぞ。


 しかし、これだけ美味い話には裏がある。


 例えば、拘束される時間が長いとか。


 「報酬が大きすぎだな。何を隠してる?」

 「........この依頼、1ヶ月拘束されるんだよ。しかも、毎日模擬戦をさせられると思う。普段、どこかへフラフラと消えるお前達を1ヶ月もの間拘束するには、このぐらいの料金が必要だと判断したのさ。安心しろ。団長の許可は既に取ってある」


 なるほど。


 俺達が普段この街に長い事居ないから、拘束されるのを嫌うと思っているのか。


 アッガスは、どこぞのお転婆お嬢様との交渉も聞いていたはずだしな。


 あの時は、魔王復活がいつ起こるか分からなかったから、安受け出来なかったが、今なら多少拘束されても問題ないだろう。


 戦争が起きるにはまだ一年近く暇がある。


 それに、三姉妹や獣人達にとって、自分達の強さがどの位置にあるのかを知るいい機会だ。


 とは言え、1ヶ月もの間三姉妹や獣人達を拘束されるのはあまり宜しくない。


 毎日のように来る報告書を捌くのは彼らであり、それを疎かにするのは少々不味い。


 不自然な国の動きを察知するのが遅れれば遅れるほど、後々のツケが回ってきてしまう。


 「んー。全員は厳しいな。俺達にも仕事がある」

 「何人までなら大丈夫だ?」

 「俺と花音、そしてイスは問題ない。多少の仕事はあるが、どれも調整が効く。あ、リーゼンお嬢様の仕事を優先させてもらうから、その時は無理だな」

 「それは分かってる。週2程度でやってたよな?」

 「そうだ。その日以外なら基本大丈夫のはずだ」

 「お仲間の方は?」

 「終わったら聞いてみるよ。ここで結論を出さなきゃ行けないわけじゃないんだろ?」

 「あぁ。いい返事を期待しておくさ」


 これで断ったらどんな顔するんだろうなと思いつつ、俺はギルドマスターの試験に目を向ける。


 ギルドマスターは既にボコボコにされており、見るも無惨な姿になっていた。


 今はどうやらストリゴイの番の様で、もはやどちらが実力を測っているのか分からない状況だ。


 「ふむ。踏み込みは甘いが、基礎は最低限できているな。しかし、身体強化が緩い。これでは簡単に攻撃を受けてしまうぞ?」

 「はぁ、はぁ、はぁ!!ご指導感謝致しまするね!!」


 疲れすぎたのか、言葉がおかしくなっているギルドマスターは、ストリゴイにその剣を振り上げる。


 しかし、あまりにも遅い。


 連戦に次ぐ連戦で体力が無くなっているのもそうだが、それ以上にメンタルがやられている。


 見た目はか弱い女の子でも、その力は大の大人をぶっ飛ばせるからな。


 振り上げた剣は、振り下ろすよりも早くストリゴイの手によって弾かれた。


 あまりに一瞬すぎて、何が起こったのか分かっていないギルドマスターだったが、自分の手から剣が零れ落ちたのを確認して膝を着く。


 「合格だ。次」

 「ふはは!!やったぞ団長殿!!我もこれで傭兵というわけだな!!」


 無邪気に喜ぶストリゴイと、メンタルまでズタボロのギルドマスター。


 ボコられる姿が見てみたかったが、ここまで行くとさすがに可哀想だと思いつつ、俺はストリゴイを褒めるのだった。




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 ギルドマスターのDieジェスト

 ロナー関節をキメる(痛い)

 リーシャー煙で翻弄しつつ、後ろから奇襲(後頭部強打)

 ゼリスー盾でカウンター(吹っ飛びすぎて壁に頭を打つ)

 プランー刺さらない矢を生成して眉間に1発(ちょー痛い)

 エドストルー手加減しながら普通に勝つ(手を抜かれているのが丸わかり)

 シルフォードー燃やす(熱い)

 ラナー殺傷能力が高すぎるので異能を使わずフルボッコ(腕が折れないギリギリの殴打)

 トリスー優しい(メンタルに大ダメージ)

 ストリゴイー最早指導(得るものはあった)

 スルダルー割と容赦なし(フルボッコ)

 ドッペルーよく分かんない武術で吹っ飛ばされる(地面に何度も叩きつけられた)

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