試験?いいえフルボッコです
傭兵ギルドの裏庭、即ち、傭兵ギルドの訓練場にやってきた俺達。
相変わらず日が当たらないで暗く不気味なその訓練場には、人1人おらず、夜中にこの場所に来たらお化けが出そうな雰囲気だ。
よく訓練場の隅で酔っ払ったダメ人間共がゲロっているが、今は関係の無い話である。
「さて、今から実技試験な訳だが、ぶっちゃけもうやらずに合格でもいいんだよなぁ........」
振り返ったギルドマスターは、顔に“やりたくねぇ”と書いてあるかと錯覚するぐらい嫌そうな顔をしながらそう告げる。
おいおい。歩いただけで実力が分かりますってか?
全く足音がしない三姉妹と獣人達。
それとは逆に、足音は立つものの、圧倒的強者の余裕が見て取れる吸血鬼夫婦とドッペル。
ギルドマスターはそのふたつの足音を聞いて、自分よりも格上だと判断したのだろう。
とはいえだ。
実技試験は傭兵ギルドに登録するために必要なものであり、たとえそれがギルドマスターの一存であっても変えることは出来ないはずである。
というか、ボコられるギルドマスターが見たいから、試験をやってくれ。
「仮にも傭兵ギルドを束ねるお方が、その者の実力を見ずに合格を出すのか?」
「........お前、分かってて言ってるだろ」
「さぁ?俺には何の話か分かりませんねぇ。歩き方を見て、“コイツただもんじゃねぇ”とか思って怖気付いたとか思ってないですから」
「思いっきり思ってんじゃねぇか!!」
俺は、ボコられるギルドマスターが見たいんですよ。
あとは、身内でしか戦ってこなかった三姉妹と獣人達に経験を積ませたい。
三姉妹の実力的は、
そりゃ、厄災級魔物に毎日のように追いかけ回されれば、いやでも足は早くなりますわ。
最近は、イスとの鬼ごっこでもいい勝負するようになってきたんだから。
獣人達の実力はと言うと、三姉妹には劣るだろう。
しかし、それでも世間一般でみれば
特に、本気になったプランはとてつもなく強いらしい。
俺は実際に見たことがないので知らないが、話によればストリゴイの腕に一撃かましたそうだ。
訓練を初めて1年。
俺達のように、超絶スパルタ特訓をしていないにもかかわらず、この成長速度はハッキリ言って異常である。
ストリゴイ曰く、プランは本気を出すと性格がガラリと変わって弓のキレが数段跳ね上がるらしい。
最近は暇になることも多くなってきたし、プランの実力を見るのもいいかもしれない。
話が少し逸れたが、実力は相当あるのだ。
三姉妹と獣人達は自分の事を弱いと思っているが、世間一般に見れば、強いというのを自覚して欲しい。
俺が考えていることが伝わったのか(伝わってない)、ギルドマスターは嫌そうな顔をしながらも木剣を手に取って構える。
「試験内容は簡単だ。俺と戦って実力を見せてみろ。異能や魔法もあり、武器は言えば模擬用の物を貸しだそう」
ギルドマスターはそう言うと、この中では1番弱そうに見えるロナに剣を向ける。
「まずは君からだ。後は順番を考えておいてくれ」
「........へ?ぼ、僕からですか?」
ロナは、少しポカンとした後、自分が指名されたことに気づいて慌てる。
白く穢れのない尻尾と耳が可愛らしくフラフラと揺れる。
“どうしよう”と言う顔で俺を見てくる。
相変わらず男とは思えない可愛さである。
君、女の子になる才能あるよ。
ちょいちょいアンスールがロナを着せ替え人形にしてるのを俺は知っているが、全部女物なのだ。
俺も何度か見たことがあるが、どれも似合ってた。
ぶっちゃけ、下手な女性が着るよりも似合ってた。
そりゃ、三姉妹が悔しがる訳だ。
同じ女に負けるならともかく、異性に可愛さで負けるんだもん。
まぁ、本人はカッコイイの方が嬉しいので、“可愛い、可愛い”と言われるのがあまり好きではないようだが。
でも、可愛い。
俺はあたふたするロナの頭を優しく撫でてやると、その耳元で簡単なアドバイスをしてやった。
「いいかロナ。いつも通り落ち着いてやれ。ストリゴイやスンダルから教えられただろ?冷静に物事を判断するのが何よりも大事って」
「........っ!!カッコイイ(小声)は、はい。頑張ってきます!!」
一瞬顔を真っ赤にした後、スっといつも通りに顔に戻ったロナはその尻尾を垂れ下ろしながらゆっくりとギルドマスターに近づく。
戦闘のスイッチが入ったようで、1歩1歩歩く事に闘気膨れ上がっていく。
ギルドマスターは今頃、その背中に冷や汗を流しているだろう。
「あ、あくまで模擬戦だ。大怪我をさせるような攻撃は禁止だぞ」
「問題ありません。さっさと始めましょう」
先程の中性的な声とは打って変わって、ロナの冷えきった声が響く。
後、ギルドマスター。声が震えてるぞ。
「よ、よし。それじゃ実技試験を始める。お手柔らかにな」
「はい。よろしくお願いします」
なんか、セリフだけを聞くとどっちが試験官か分かんねぇな。
お手柔らかになって言わないよね普通。
試験が始まると同時に動いたのはギルドマスターだ。
その動きは、明らかに手を抜いた動きじゃない。
長年磨き上げてきたその身体強化と、流れるように振り下ろされる剣。
並の傭兵ならば、その剣を捌くことすら出来ずに木の剣に叩き潰されるだろう。
しかし、ギルドマスターの相手は厄災級魔物を相手に張り合ってきたのだ。
培ってきた技術の質があまりにも違いすぎる。
「遅いですね」
ロナはそう呟くと、振り下ろされる剣の腹を手の甲で軽く受け流す。
某一撃必殺系主人公が出てくる漫画のS級三位が使ってた武術のような滑らかさだ。
まさに、水が流れるかのように動かされたロナの手は剣が逸れたことで体制を崩したギルドマスターの腹に吸い込まれる。
「3発です」
「?!」
ドン!!
となにかが衝突したような音がすると同時に、ギルドマスターは訓練場の土を被りながら転がっていく。
良かった。ちゃんと手加減はできているようだ。
今の一撃をロナが本気でやってたら、今頃ギルドマスターの肋骨は粉々に砕けていただろう。
ギルドマスターは立ち上がってロナに合格を告げようとするが、それをロナが許さない。
一応試験はまだ続いてるからね。少し可哀想な気もするが。
「
立ち上がろうとしたギルドマスターに、土でできた手が襲いかかる。
ギルドマスターの全身をその土で押さえつけると、そのままギルドマスターの腕を持って関節をキメる。
「い゛っ」
うわぁアレは抜けれないし、痛てぇ。下手に抵抗すると、そのまま肩が外れるだろう。
流石にこれ以上はギルドマスターの肩が死ぬので、俺はロナの肩に手を置く。
「そこまでだ、ロナ。あくまで実力を見るだけだから、その辺にしてやれ」
「はぁ。団長様がそう仰るのであれば」
ロナはどこか不満そうな顔をしながら、能力を解除する。
なんで不満そうなんですかねぇ。
俺はそう思いつつも、なんか触れたら見てはいけない闇を見てしまうような気がしたので触れないでおく。
君子危うきに近寄らずってね。
「で?ロナは合格か?」
「合格だ。あー肩が痛てぇ」
ギルドマスターは痛めた肩をグルグルと回しながら、あとコレが10回もあるのかと嫌そうな顔をする。
ま、まぁ、ロナとの戦いを見て、ギルドマスターの強さはある程度分かったから手加減してくれるでしょ。
俺は、頑張ってくれとギルドマスターに心の中で祈るしか出来なかった。
後でエールの1杯でも奢ってやるとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます