スーパー美人ドッペルゲンガー
ゼブラムと別れを告げ、俺達は街へと足を踏み入れる。
俺からしたら何度も見ている光景だが、三姉妹達には新鮮に映る光景だ。
目を輝かせながら、田舎者らしくキョロキョロと街並みを見てる。
この街も十分田舎なのだが、更に田舎に住んでいる者からすれば大都会に見えるだろう。
「わぁ!!これがバルサルの街!!報告では何度も見たけど、実際に見るとかなり大きい!!」
「これが人の街ですか........御先祖様がアホな真似しなければ、私達は大手を振ってこの街に入れたというのに」
「でも、人の街に入れなかったから、団長さん達に会えたんだよ?」
「トリス。そういう話では無いのです」
三姉妹、特に、シルフォードのテンションが高い。
普段、淡々と話すシルフォードが感情的に話している。
ラナーはよく分からないが、それでも溢れ出る雰囲気はウキウキだ。
一番騒ぐかなと思っていたトリスが一番落ち着いている。
「これが人の街。俺達がいた村とは違うな。まぁ、村と街を比べるなって話だが、やはり比べてしまう」
「そうねぇ。村は城壁じゃなくて木の柵だし、家も木造よ。比べること自体がおこがましいわ」
「これが街.......あの人がいたら、連れてきて貰えたのかな?」
「多分無理じゃない?あの人、過保護すぎるし」
「私が訪れたの街より大きいですね。流石は人の街。不器用な獣人達が作り上げたものとは格が違う」
三姉妹だけではなく、獣人達もかなりテンションが高い。
口調こそ落ち着いているが、やはりどこか声が弾んでいる。
唯一、エドストルだけはいつものように振舞っているが、他は田舎者感丸出しだ。
多分、エドストルは“自分達の行動が団長の評価に繋がる”とか考えているんだろうな。
吸血鬼夫婦とドッペルを除けば、この中で一番の教養がある。
奴隷と主人におけるあり方についても、しっかりと学んでいるのだろう。
1度、俺が奴隷に対してかなり甘い対応をしていたことに関して説教されたことがあるし。
あの時は、ほへーと思って聞いていたが、今思えば、主人を説教する奴隷という状況は、この世界ではありえない状況だった。
エドストルは、俺が大人しく説教を受けると踏んでその話をしたんだろうが。
「ふむ。中々にいい街だな。人々の顔が明るい。それだけ、充実した生を送っていると言うことだ」
「でも、資料を見た限りでは、スラム街もあるそうよ?」
「それは仕方がないだろうな。我も何度かスラム化を防ごうと手を打ったが、そうなると今度は国が立ちいかなくなる。公共事業をスラムの人々にやらせ、金を渡したとしてもそれを搾り上げる下賎がいる。結局“学がない”と言うのがネックだ」
「団長さんが言ってた“義務教育”と言うのが必要な訳ね?」
「そうなるな。しかし、物事を知り過ぎるとそれはそれで毒となる。かつて友好国だったかの国がどのような末路を辿ったのか覚えているだろう?」
「えぇ」
「教えるものを限定し、それでいて尚且つ反乱されないように強い兵を持つ。それがスラム化を防ぐ第一歩となるだろうな。それでも、足りないだろうが........」
吸血鬼夫婦は、何の話をしているんですかねぇ........
拠点を出発した時の浮かれ具合はどこへやら、かつて1国を統治していた王と王妃の顔が出ている。
田舎者丸出しの三姉妹達も目立っているが、こうして街並みと人々を見て真剣に物事を考える吸血鬼夫婦も相当目立っいる。
更には、統一されたロングコートに指ぬきグローブ。
その肩には逆ケルト十字が入っているのだ。
これで目立たないわけが無い。
また噂が広がるんだろうなと思いつつ、俺はドッペルを見る。
「ん?どうしたの?」
誰だおめぇは。
そう言いたくなる程の美人に化けているドッペルは、その首を傾げる。
確かに俺達は目立っている。
こんな格好だし、そもそも俺の顔は知られていて、この街では一時期噂になっていた。
しかし、そんな俺達よりも目立っているのがドッペルである。
ゼブラムと話していた時は、1番後ろに隠れていた為見つかってなかったが、今は全方向に視線がある。
薄い緑色の長髪は下手な宝石よりも輝いており、その蒼く澄んだ目は空よりも純粋だ。
さらに、穢れを知らないであろう神々しい雰囲気と、その整いすぎた顔立ち。
下手をしなくても、人々から崇められそうなその見た目をしたドッペルに俺は話しかけた。
「なんで女の子なんだよ」
「その方が情報収集とかしやすいでしょ?それに、私が行きたいのは魔道具店なの。そこの店主、可愛い子が好きって聞いたわよ?」
「あぁ、まぁ、うん。そうだね」
イスの可愛さにメロメロなあのロリ店主の事だ。今のドッペルの姿を見たら鼻血を出しながらぶっ倒れるかもしれない。
いや、その前に傭兵共がナンパを始めるか?
出来れば、大人しくしていて欲しいが........多分無理だな。
最悪、俺達が
めんどくせぇ
「おい
「了解よ。団長さん。私もここまで視線を引きつけるとは思っていなかったわ」
女口調のまま、ドッペルはフードを被る。
その瞬間、あちこちからため息のようなものが聞こえた気がするが、無視だ無視。
幸い、この人数と明らかにカタギじゃない俺達の格好を見て、ドッペルに特攻かましてくるアホはいないのだ。
さっさと傭兵ギルドに行くとしよう。
ちなみに、オセルと言うのはドッペルの傭兵名だ。
ストリゴイはティール、スンダルはラーグ、ドッペルはオセルである。
この傭兵名は厄災級魔物達が全員持っており、ドンパチやる際はそっちの名前使うように言ってある。
三姉妹と獣人達は本名のままだ。
ドッペルが顔を隠したのと同時に漏れた溜息を聞いた花音は、どこか感心した様子で俺に話しかけてくる。
「すごいね、ドッペル」
「まさか、ここまで美人に変われるとは思ってなかったし、ここまで注目されるとはもおってなかった」
「ドッペルがあまりにも美人すぎて、拝み始めるおじいちゃんとかいたからね........」
そんなやついたのか。
きっと“女神様からの使いだ!!”とか思ったんだろうな。
違います。ゴリゴリの魔物です。
「少し街を歩いただけで、ここまで注目されるとかこの後が不安になるな。傭兵ギルドの連中、ドッペルの姿を見てナンパとか始めないよな?」
「多分大丈夫じゃないかな?ほら、ギルドマスターをコテンパンにやっつければ、力の差を思い知って少しは大人しくなりそうじゃない?」
「だといいがな........」
むしろ、“俺より強いだと!!なんてかっこいいんだ!!”とかになりそうな気もしない。
ドッペルの本気の変身を舐めていたな。
まさかここまで人の目を引きつけるとは........
正体を知っていたため、“おー綺麗”としか思わなかったのが悔やまれる。
もう少し変身のグレードを下げてもらうべきだった。
俺は、選択肢ミスったなドッペル思いつつ、傭兵ギルドへと足を進めるのだった。
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