バルサルの街へ
拠点を出て、スタコラサッサと走ること15分。
俺達はようやく街が見える街道へと出る。
普段ならもっと早く街に着くのだが、今回は大所帯だ。
1番足の遅いラナーの速度に合わせて走ったので、15分もかかってしまった。
「アレがバルサルって街?」
街の城壁が見えると、シルフォードは少し弾んだ声で話しかけてくる。
シルフォードもあまり表情には出ていないが、内心は楽しみなのだろう。
獣人達と違って、最初から街に入れる見込みなんて無かったもんな。
「そうだ。アレがアゼル共和国辺境の街、バルサルさ」
「俺達がいた村よりも立派だなぁ........」
「ゼリス?村と街を比べてはダメよ。そもそもの規模が違うんだから」
「僕、街は初めてです」
「私も初めてですね。あの人は基本、私達を家の外に出したがらなかったから........」
「懐かしいですねぇ。私も何度か街に足を運びましたが、もう10年以上前の話ですし」
シルフォードだけではない。街が初めてな獣人達も、ものすごく楽しみなようだ。
彼らの場合は、俺に買われなきゃ悲惨な目に合っていただろうからな........
ちなみに、アゼル共和国では奴隷制度は禁止されている。
しかし、他国では奴隷制度がある国がほとんどであり、他国から来る人達は奴隷を連れていたりする。
他国からの場合に限っては、奴隷を認めるのがこの国の法である。
まぁ、中にはそれを悪用してこの国の人達を攫って奴隷として他国へ出荷する連中もいる訳だが。
「もしかしたら、信頼がガタ落ちするかもな........」
この国では、奴隷を持っていると言うのはあまりいい目で見られない。
国によっては、奴隷はステータスだったりするのだが、アゼル共和国の場合は“違法に身を染めている奴”として見られることが多いのだ。
合法なのに。
俺がそうつぶやくと、花音の耳に入ったようでその呟きに言葉を返す。
「奴隷の話?」
「そうそう。奴隷の証である首輪を外してもいいんだが、まさか全員嫌がるとは思わなかった」
「無理やりにでも壊せばよかったじゃん」
「それはそうなんだが、エドストルに“アゼル共和国で力と信頼のある団長様の奴隷という事を示せれば、私達にちょっかいをかけようとする者達は黙ります。それに、
「その首輪のせいで信頼が落ちるかもしれないけどねぇ........」
「だけど、俺の物だって周りに分からせれば、アイツらは狙われにくくなる。たとえ狙われたとしてもそれが正当防衛って言えるわけだしな」
「よく言うよ。正当防衛なんてしなくても、邪魔者は証拠も死体も消せば問題ないとか思ってる癖に」
「何の話ですかねぇ」
一番の理由は、本人たちが嫌がったからと言うのが大きい。
人の嫌がることはしない。小学生でも分かることだね!!
え?過去の行動を見直せって?そんな昔のことは忘れたさ。
そうやってワイワイ話しながら街道を歩くこと10分。ようやく俺達は街へとたどり着いた。
「ありゃ?今日は並んでるな」
「と言っても、少しだけだね。並ぶ?」
いつもなら権力を使ってさっさと街に入るのだが、さすがに今回は大所帯すぎる。
それに、街に入るのが初めての奴も多いのだ。
今後、一人で来ても困らないようにここは並ぶべきだろう。
「並ぶか。並ばずに入れるのがデフォだと勘違いされるのはあまり宜しくないし」
「ほいほい。みんな並ぶよー」
園児を引率するかのように、花音は三姉妹達を城壁に沿って並ばせる。
花音ってその見た目も相まって保育園の先生とか似合いそうだなと思いつつ、俺達は順番が来るのを待った。
どうやら統一されたコートと指ぬきグローブをした集団は見立つようで、並んでいる間ずっとチラチラと視線を感じたが全員メンタルが強い。
ガン無視して“この城壁を何発で壊せるか”の話をしているのは流石である。
ってか、なんで攻め入る前提で話をしてんのこの人たち。
しばらく待つと、俺たちの順番が回ってくる。
「よう。久しぶりだな」
今日も今日とて門番をしているぜブラムに話しかけると、ぜブラムはなんとも言えない顔で俺とその後ろにいる集団に目を向けた。
普段は俺と花音とイスだけ。急に増えた彼らにぜブラムは驚いているようだった。
「随分と大所帯だな........」
「俺達は傭兵団だぜ?3人だけなわけないだろうに」
「だからといって、これは増えすぎな気もするけどなぁ。お前を知る連中も疑問に思ってたが、普段どこにいるんだよ。この街が拠点じゃないんだろ?」
「それは秘密だ。知りたきゃこの前の奴みたいに尾行してくるだな」
「かー!!やっぱり気づいてたか。やつの話曰く“急に気配が消えていなくなった”らしいな。流石はバルサル最強をぶっ飛ばした男だ」
「そいつはどうも。後、バレバレなストーキングはあまりしない方がいいぞ?俺達は見覚えのある顔だなと思ったから何もしなかったが、1歩間違えれば、殺してたからな?」
「そいつはおっかねぇ。他の連中にも注意しておくさ。それと、最近冒険者ギルドの動きが怪しいらしい。おそらく、ジン。お前関連だから、気をつけろよ」
「仮にも一般市民の生活を守る冒険者ギルドが、俺一人に喧嘩売るのか?それよりもやることがあるだろうに」
「あそこのギルドマスターは、市民に対してだけはいい顔するんだよ。だから傭兵ギルドや衛兵に嫌われる。最近は教会もあまりいい顔しなくなったな」
「街長は何やってんだ?一応まとめ役だろうに」
存在を忘れかけていたが、一応領主的な立場の人がいたはずだ。
「街長は当てにならねぇよ。基本首都にいるし、この街は少し特殊だからな」
「そうなのか?」
「元々はアスピドケロンを足止めするために作られた街だ。いざと言う時に無能な権力者に振り回されるのは良くない。だから、冒険者ギルドや傭兵ギルド、衛兵の力が強いんだよ」
“アスピドケロンを足止めするために作られた”と言う部分で、俺の裏にいた三姉妹達は笑うのを堪える。
実際のアスピドケロンを知っている彼らは、この街程度では足止めの“あ”の字すら果たせないことを知っている。
あまりに人類を上に見た発言に、思わず吹き出してしまったようだ。
多分、今頃笑い顔をぜブラムに見られないように後ろを向いて、肩を震わせていることだろう。
俺は何度も聞かされているギャグなので、笑うことなく普通に対応する。
「へぇ。街長はお飾りって事か。傭兵としては生きやすい街かもしれないな」
「冒険者ギルドが無ければな。今は、お前関連で勢力図が変わりつつある。市民受けに関しても、俺達衛兵と傭兵よりはマシってだけで、教会には敵わないしな」
「教会を上手く引き込んだ方の勝ちってわけか?」
「そうなる。冒険者ギルドは何とかして教会を抱きこもうとしてるが、芳しくないな」
そりゃそうだろ。あの人、モヒカンにほの字だろうし、何かあれば傭兵ギルドの味方をするはずだ。
特に、俺と言う人物を知ってからはその傾向が強く出るだろう。
なにか困ったら、モヒカン連れて上手くやろう。
もしそれでダメなら、権力でも使うか。
あの爺なら上手くやってくれるだろう。
「ま、そんな訳でこの街はピリピリしてる。最近は、記憶を失うよく分からん被害もあるし、気をつけろよ」
「待て待て。何それ」
「そのままの話さ。記憶を失った人が裏路地で倒れる事件がちょちょこ出てる。それ以上詳しいことはわかってないから、気をつけろって話だ」
そう言って、俺達を通すぜブラム。
もしかして、割と面倒な時にこの街に来たのではないだろうか。
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