ほうれんそうは組織の基本

 ファフニールガ報告をサボった事が判明したので、念話蜘蛛テレパシースパイダーを使ってファフニールを呼び出す。


 いつもフラフラと何処かに飛んでいるファフニールだが、今回は割と近くを飛んでいたそうで、1時間もすれば拠点へと戻って来た。


  「緊急の案件とはなんだ?団長殿」


 キリッとした表情で、話しかけてくるファフニール。


 ちょっと顔をキメて居ることにイラッとしつつも、俺は落ち着いてファフニールにサラのことを聞いた。


 「最近、サラを見ていないと思ってな。イスに聞いたら“ファフニールが連れ回した挙句、精霊樹のところに置いてきた”って聞いたんだよ」

 「おぉ。サラの事か。昔、火の精霊王に精霊が強くなる方法を聞いてな。それをサラに実践させておったところだ」


 どう?すごいでしょ?と言わんばかりにドヤ顔するファフニールだが、それを手放しで褒める訳には行かない。


 サラが強くなること自体は歓迎だし、おそらくサラの主であるシルフォードにも許可は取ってあるのだろう。


 だが、俺達に報告が来ていない。


 今回は重要な案件ではないから問題ないが、コレが世界を揺るがす重大な案件だったりしたら困るのだ。


 普段何をしていようが勝手だが、せめて団員のことに関しての報告はして欲しい。


 多分、シルフォードもファフニールが報告したと思って俺達には何も言わなかっただろうしな。


 俺はそう思いながら、ドヤ顔を決めるファフニールの頭の上に乗る。


 「なぁ、ファフニール。俺、その報告を受けた覚えがないんだけど?」

 「........あ」


 ファフニールの顔が固まる。


 先程まで元気に振り上げていた翼は、しおらしく下を向く。


 「これ、3度目だよな?あの島にいる時も2回やらかして、“次、報告を忘れたらゲンコツな”って言ったよな?」

 「スゥーーーー。そうだったな。いや、でも、そこまで重要な案件じゃないわけでして........」


 口調が完全に変わったファフニール。


 アタフタとしながら、何とか言い訳をするが自分でも無理だなと思っているのか、その顔には諦めが出ている。


 「ウンウン。で?遺言は?」

 「........次からは気をつけたいと思いました、まる」


 ガックリと諦めたファフニールに向かって、俺は身体強化を一切していない拳をファフニールの頭に叩き込む。


 身体強化をしていない拳の威力なぞ、たかがしれている。


 ファフニールにはデコピンされるよりも軽い衝撃が、頭に来ているだろう。


 「あだっ」

 「ったく。どうせ“後で報告すればいいや”と思って忘れてたんだろ?」

 「忘れてはない。我の“後でいいや”は年単位なのだ」

 「これだから時間感覚の狂った厄災級魔物共は........」


 “ちょっとの間”が、当たり前のように2年3年もする連中だ。


 そもそも、人間の体に流れる時間との差がが違いすぎるのである。


 アンスールも言ってたな。“人間は忙しく動きすぎ”って。


 俺たちから見れば、厄災級魔物達はマイペースすぎだと思うが、ここら辺か感じ方の違いである。


 本来ならば、ファフニールの頭を身体強化アリで思いっきり殴りたかったものの、人との違いを考慮していなかった俺にも非はあると判断して軽いもので済ませたのだ。


 俺は、体全体で“申し訳ない”と表現するファフニールの頭の上に座るとその頭をポンポンと叩きながら優しく言う。


 「次からは気をつけろよ?人と魔物じゃ生きる時間が違うんだ。2、3年は俺たちにとって“ちょっと”にはならねぇんだよ」

 「それはわかっているのだがな。団長殿と副団長殿は、人として見ておらぬからついついいつもの感覚になってしまうのだよ」

 「え?俺達の事、人として見てないのか?」

 「我ら厄災級魔物を相手にして、当たり前のように勝ち越せる様な化け物を人間として見る者などそうは居らん。特に、見た目を気にしない我らはな。人としての理を外れた団長殿をどうして人として見れようか」


 なんか、ものすごいディスられている気分だ。


 ファフニールの声のトーンからするに、褒められているのは分かるのだが、その内容が“人として見れない”とか言う中々にパンチの効いたものである。


 これ褒めてるよね?褒められてるよね?


 実は褒めてる振りしてディスってないよね?


 褒められているのかディスられているのかよく分からない褒められ方をするのが少しむず痒くなり、俺は無理やり話題を変える。


 「そ、そういえば、精霊王に話を聞いたって言ってたけど、ファフニールって精霊が見えたっけ?」

 「む?見えぬぞ。サラの事も気配で感じることしか出来ぬしな」

 「え?ならどうやって精霊王に話を聞いたのさ。精霊が見えないって事は、声も聞こえないだろ?」

 「ふはは。上位精霊までは適性がないと見えぬが、精霊王ともなると、その姿を適性がない者にも見せることができるぞ。まぁ、結構疲れるらしいがな」


 それは初めて聞いた話だ。


 大エルフ国の文献を漁ってはいるが、そのような話を見た記憶が無いし、あの精霊専門家の婆さんもそんな話は一切していなかった。


 情報を探るのが甘かったのか、それとも文献には残されていないのか。


 少し調べてみるか?


 今は魔王が討伐されて、自由に動かせる子供達にも余裕がある。


 花音が少し子供達を使っているそうだが、大エルフ国の監視を強めるぐらいは問題ないだろう。


 「精霊王か。一度会ってみたいな。俺も花音も精霊は見れないけど、1度ぐらいは見てみたい」

 「ふむ。昔なら見せてやれたのだがな。今は精霊王も変わって我との交流は無い。すまぬな」

 「謝る必要は無いさ。それこそ、サラに精霊王になってもらって俺たちの前に出てきてもらうとか色々手段はあるわけだし」

 「ふはははははは!!それはいいな!!我らの手で精霊王を作り出すもの一興よ!!そしたらシルフォードは精霊王の主となる訳だ!!」


 下位精霊のサラマンダーですら、あのとんでもない火力を叩き出せるのだ。


 もし、サラ精霊王になろうものなら、一体どれだけヤバい火力を叩き出せるのやら。


 下手をしたら、イスの世界をぶっ壊すかもしれない。


 「ファフニールは精霊王とは戦った事はあるのか?」

 「無い。が、もし、彼奴と戦ったら相当苦戦するだろうな。それほどにまで強い相手だ」

 「ファフニールがそう言うってことは、相当強いんだろうなぁ。ちなみに、上位精霊はどのぐらい強いんだ?」

 「ふむ.......実際に戦ったことはないのでなんとも言えんが、あの吸血鬼夫婦とはいい勝負ができるであろうな」


 すげぇな上位精霊。


 厄災級魔物と同レベルで強いのか。


 ファフニールの言い方からして、上位精霊でもピンキリなのだろうが、それでも厄災級魔物と同列の力があるのだろう。


 アレ?サラは今その上位精霊になろうとしているんだよな?


 もしかしなくても、シルフォードめっちゃ強くなるんじゃね?


 「やっぱ後方のリーダーは違ぇな」

 「ふはははははは。我らはそっちでは役に立てぬのでな。シルフォード達には頑張ってもらいたいものだ」

 「今のところ、ヴァンア王国以外はマトモに仕事してねぇしな」

 「一応、魔王探しもしたぞ!!」

 「あれはニーズヘッグの手柄だろ?」

 「そう言われると返す言葉がないな!!」


 後でサラの様子でも見に行こうと心の中で決めると、俺はファフニールの頭の上で少し昼寝をするのだった。







昼飯食ってたら投稿遅れた。すまぬ.......

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