戦争の準備
平穏な日々
人類の敵。七大魔王が勇者達の手によって討伐されてから約一週間後。
世界は魔王という驚異に怯えることなく、仮初の平和が表面上は出来上がっていた。
神聖皇国では、七大魔王の内の四体を討伐した勇者達を称えるためのパレードが開かれたり、他国の貴族などが上手く勇者達を囲み込めないかと画策している。
もちろん、龍二達に話が通る前に、神聖皇国がそういう連中を弾いてはいるが、向こうも諦める様子はない。
中には、暗殺者を仕向けるような国まであった。
そんな忙しそうな神聖皇国とは裏腹に、俺達は割とのんびりした生活を送っている。
山のようにあった報告書は、簡単な冊子に纏められ、2時間も目を通せば大体の事はわかる。
隠れていた魔王を探すために、手当り次第情報を集めていた時とは大違いだ。
日頃から少し疲れた顔をしていた三姉妹や獣人達も、心做しか顔が穏やかである。
「ようやく一段落着いてくれたおかげで、ゆっくりと世界の情勢が見れるな」
「魔王がいた頃は忙しかったもんねぇ。多少、国の内情を漁ることはあっても、基本的には魔王探しがメインだったからねぇ........」
既に見終わった報告書を長椅子の上に置いて、花音は大きく伸びをする。
報告書の量が減ったおかげで、こうしてゆっくり出来るのは本当にありがたい。
戦争が始まればまた忙しくなるんだろうなぁ........
俺は未来の俺に“頑張れ”とエールを送った後、花音と同じように身体をほぐしながら聖堂に飾られた逆ケルト十字を見る。
「この象徴が暴れる日も近いのか」
「あのお爺ちゃんは、来年中に仕込みを全部終わらせて戦争を始めるみたいだからね。ちなみに、あのバカ5人を使うのはもう少し後らしいよ」
「確か、戦争を始める半年前だったけ?後半年近くは待たなきゃならんのか」
俺を殺そうと画策したあの馬鹿どもは、今でも“自分達が勇者だ!!”と威張り散らして娼婦を抱いているらしい。
酒と女に溺れた馬鹿共は、大聖堂で上手く隔離されており、本人たちもその事実に気づいていない。
あの五人がそんなことに気づける訳が無いし、あの爺さんが気づかせる訳が無い。
精々来るべき時が来るまで、ワイワイ楽しくしていればいいさ。
「他の国での動きにも少し不振な点があったよな?」
神聖皇国がドンパチする前に大きな戦争を起こされるのは困る。
特に、女神の神託と言う抑止力が無くなった今は、大国も好き勝手できてしまうのだ。
「1番動きとして怪しいのは合衆国と獣王国かな?どちらも内乱が起こりそうなんだよねぇ........」
「合衆国は多人種が住む国だから内乱が起きそうってのは何となくわかるが、獣王国も内乱が起きそうってのはわからんな。あそこは、獣人の国だろ?」
俺がそう言うと、花音は置いてあった資料を俺に渡してくる。
読めというわけか。
俺はペラペラとその資料に目を通すと、盛大にため息をついた。
「魔王に負けた弊害か。実力主義の国だからな。しょうがないと言えばしょうがないか」
獣王国の王、“獣神”ザリウスが怠惰の魔王ベルフェゴールに敗北したことによって、今獣王国では“ザリウスは本当に王にふさわしいのか?”と言う疑問が生まれてしまっている。
実際に現場を見ていたイスとベオーク曰く、獣王は決して弱いわけではない。が、今回は相手との相性が悪すぎた。と言うことらしい。
異能同士での戦いは、その異能の持ち主のスペックよりも異能の相性の方が重視される。
持ち主のスペックが低くても、異能次第で勝ててしまうのがこの世界だ。
“獣神”ザリウスも貧乏くじを引いたな。おかげで国内では王への不信感が募っており、態々王都にいる獣王に正面からケンカを売りに来る者が絶えないそうだ。
流石は脳筋の国である。
更にはその混乱に乗じて裏の組織たちが随分と派手に動いているらしく、獣王国1の裏組織である獣人会とどっかの組織が抗争している。
「“獣神”ザリウスも気の毒だな。イスのおかげで生き残ったと思えば、今度は馬鹿共の相手か」
「怠惰の魔王は、イス曰く結構強かったらしいからねぇ。それで瞬殺したらしいけど」
「それもそれでヤベーよな。獣王からすれば、めっちゃ強いはずの怠惰の魔王が、一瞬で氷漬けになって目の前にいるんだから、何が何だかわかったもんじゃない」
「中には、その魔王を凍らせた者を王にするべきだとか言ってる連中もいるそうだよ」
「すげぇな。イスが一国の王になっちゃったよ」
イスがどうやって魔王を殺したのかは、ベオークも知らないらしく、イスが言うには“パキーンと凍らせただけなの!!”と言うことらしい。
なるほどわからん。
イスの子供らしい表現が可愛いということしか分からなかったが、ベオークの深淵でもどうしようもないそうだ。
なんでも、ベオークが
「イスは強いなぁ」
「まぁ、
「そして、それに並ぶ
俺が知っているのは身内のみで、それ以外の異能は何も知らない。
ファフニール辺りに聴けば分かるだろうが、ファフニールとて全てを知っている訳では無い。
イスが大エルフ国で見たと言う黒いナニカがいい例だ。
........黒いナニカで思い出したけど、最近サラを見かけた覚えがない。
団員を全員集めた時も、それらしい気配を感じた覚えがないぞ。
「なぁ花音。サラはどうした?」
「シルフォードの精霊ちゃん?」
「そう。それ。何ヶ月も見てない気がするんだけど。具体的には、ファフニールが“稽古をつけてやる”って言ってどこかに連れて行ってから見てない気がする」
「........そういえばそうだね。見てないかも」
数少ないイスの友人なのだが........一体どこへ行ったんだ?
そう思って首を傾げると、タイミングよくイスが聖堂へと入ってくる。
「パパ!!ママ!!」
相変わらず元気いっぱいなイスは、アラ〇ちゃんの様な走り方をしたあとそのまま花音に向かって頭から突っ込んだ。
「ほい」
花音は、イスの頭突きを手馴れた手つきで捌くとイスを後ろから抱きしめて脇腹をくすぐる。
「こちょこちょー!!」
「あはははははははは!!」
何気にくすぐり方が上手い花音と、身体を捻りながら笑うイス。
当たり前のように映る素晴らしい光景に、思わず手を合わせて拝みたくなってしまう。
が、それをやると引かれそうなので我慢する。
キャッキャと騒ぐイスに、俺はサラの居場所を聞いてみた。
「なぁイス。サラはどこ行った?ココ最近ずっと見かけてないんだが........」
「んー?サラならエルフの国にいるの」
「え?なんで?」
「んーと確か、“上位精霊になってくる”とか言ってたはずなの」
当たり前のようにいうイスだが、俺はそんな報告聞いてない。
花音に“何か知ってる?”と目線を向けるが、花音は知らないとばかりに首を横に振る。
まぁ、ついさっき“知らない”って話してた花音が知ってるわけないか。
「ちなみにイス。その話しは誰が言ってた?」
「ファフニールおじちゃんがサラを強くするって言って、精霊樹に行った時に言ってたの........もしかして、報告してなかった?」
俺と花音から漏れる殺気に反応したらイスが、冷や汗を書きながらそう言う。
何も聞いていませんねぇ........
ファフニールの野郎。後でシメる。
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