七大魔王討伐完了

 三体の魔王が同時に復活すると神託が降り、その魔王達を各国が討伐し終えた翌日。


 俺は、三姉妹や獣人達も集めて報告会を行っていた。


 世界的には、七大魔王の全てが討伐されて終わりかもしれないが、俺達の場合はここからがスタートである。


 3年越しの復讐と、それに合わせた戦争を始めるために、本格的に動き始めるのだ。


 「神聖皇国は憤怒の魔王サタン。獣王国は怠惰の魔王ベルフェゴール。正共和国は強欲の魔王マモン。なんとなくは予想してたけど、魔王達の名前は全部七つの大罪にちなんでいるな。なにか理由でもあるのか?」

 「暴食の魔王ベルゼブブ、色欲の魔王アスモデウス、傲慢の魔王ルシフェル、嫉妬の魔王レヴィアタン、憤怒の魔王サタン、怠惰の魔王ベルフェゴール、強欲の魔王マモン。偶然にしてはできすぎたよね。しかも、この七つの大罪ってこの世界じゃ全く知られていないらしいよ。三姉妹も獣人達も初めて聞いたみたい」


 俺が三姉妹達を見ると、皆花音の言葉に頷いている。


 学があまりない獣人達はともかく、それなりの教育を受けてきたであろう三姉妹もこの七つの大罪の事は知らなかったようだ。


 この中では1番頭のいいエドストルも七つの大罪の事は知らず、むしろ教えて欲しいと言ってきたぐらいである。


 「んー........まぁ、考えても仕方がないから、とりあえず今回の魔王討伐での被害状況を確認しよっか。すごい被害を出したところはなかったはずだけど、一応念の為に」


 俺がそう言うと、シルフォードが資料を読み上げ始める。


 たった1年で、事務仕事が様になったなぁと思いながら俺はシルフォードの報告に耳を傾けた。


 「神聖皇国の被害は、大聖堂が吹っ飛んだ事と、建物の崩壊による被害が少し。行方不明者はおらず、死者が16名程度。憤怒の魔王による被害はほとんど無く、せいぜい森の一部が消し飛んだぐらい。正教会国の被害は特になし。森が吹っ飛んだのと、魔王討伐後に魔王戦の指揮を取っていた上官の腕を剣聖が切り飛ばしたのが唯一の人的被害。旧サルベニア王国はそもそも国が滅んでいるから、被害らしき被害はなし。あえて上げるなら、街の一部が更に崩れた程度。リテルク湖周辺は湖が無くなったこと以外は特になし。“不死王”ノーライフキングが対応してくれたおかげで、人的被害なし。正共和国は1番被害が大きく、金級ゴールド白金級プラチナ灰輝級ミスリル冒険者が1人づつ亡くなってる。人数だけで言えば神聖皇国の方が上だけど、戦力で数えるならばこの国が1番被害が大きい。獣王国は金級ゴールド冒険者が1人だけ亡くなってる。イスちゃんのおかげで1人しか死んでないけど、イスちゃんとベオーク曰く、介入しなければ国が滅んでいたそうだよ」


 ものすごい長文の報告をしてくれたシルフォードは、手元にあった資料を俺に渡してくる。


 一応自分の目でも確認しておけというわけだ。


 俺は受け取った資料をペラペラと流し見した後、その資料を置いて簡単にまとめる。


 「ま、この程度の被害で抑えられたんなら上出来だろ。なれない仕事を押し付けたが、よく頑張ったな」


 俺は、情報を精査して纏めてくれた三姉妹達を褒めてやる。


 物凄い上から目線だが、仮にもこの傭兵団の団長である俺が下手に出るのはあまり宜しくない。


 ある程度は威張っておかなければならないのだ。


 これは、かつて吸血鬼の王国で王様をやっていたストリゴイからのアドバイスである。


 彼曰く“王たるもの傲慢に、尊大にならねば家臣はついてこない。礼儀も必要だが、それ以上に大きな背中を見せることが王としての役割だ。その背に何を背負うのかで、着いて来るもの達は変わる。団長殿が望む物を、その背に背負って王として胸を張れ”ということらしい。


 正直よくわからなかったが、自分なりになんとなく解釈してそれを実行している。


 上手くできているかは怪しいが。


 「それで。これからどうするの?」

 「しばらくは神聖皇国が動き始めるまで大人しくしておくさ。向こうが準備を終えるまで、俺達はあちこちの情報を集めて戦争を有利に進めるように色々と計画を立てておけばいい。もし、俺たちにとって不都合なことがあれば、それを裏から消しちまえ」

 「それじゃ、2,3ヶ月ぐらいは暇になるねぇ」

 「そうなるだろうな........あ、そうだ。ドッペルから連絡があって、三姉妹の耳と肌を誤魔化す魔道具ができたらしいぞ。今度、皆でバルサルに行ってみるとしようか」


 俺の一言に、全員の目の色が変わる。


 ちょっと皆さん?目がガンギマリしちゃってる人のそれなんですが........


 ってか、どんだけ街に行きたかったんだよ。


 魔王がまだ居た頃は、いつ復活するか分からなかったから下手に動けなかったが、今後は突然何か起きる事はほとんどない。


 多少のことなら、三姉妹達を自由にさせてやれるだろう。


 11大国における重要な事は殆ど調べ終えてるしな。


 「さ、ともかく、一段落だ。七大魔王は勇者達の手によって滅ぼされ、世界は一時的な平和を手に入れたとさ。めでたしめで──────────」


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 「──────────たし。ってなるだろうなぁ」


 とある暗がり。女神の目からも逃れたこの闇の中で、影は暗い天井を見上げてそうつぶやく。


 その隣では、魔女が静かに紅茶を嗜んでおり、その眠たげな目には明らかに疲労が溜まっていた。


 「これでしばらくは私の仕事も減りますかね?」

 「この後の主な仕事は、アレの回収さ」

 「ちゃと戦争が起きればいいのですがねぇ........」

 「大丈夫だろ。そのための彼女であって、そのための契約さ。上手くやってくれるさ」


 影はそう言うと、欠伸を1つしてから床へと寝そべる。


 その顔は、疲れと嬉しさが混ざっていた。


 「全ては順調だよ。少し想定外もあったりしたが、計画を大幅に変えるようなことはない。しばらくは影に隠れていよう」

 「彼への協力はどうしますか?契約には含まれていませんが..........」

 「彼の力は必要だ。上手く釣り上げれる餌が欲しいな。敵対はもちろん避けたい」

 「それ、なかなか難しいって分かってます?」

 「分かってる分かってる。でも、それを何とかしなきゃね」


 影はそう言うと、ゴロゴロと床を転がる。


 右に、左に行ったり来たり。


 それを見ていた魔女は、目が回らないのかと不思議に思う。


 影は、数分ゴロゴロとした後、ピタリと止まって再び話し始めた。


 「彼は戻ったし、あと必要なのは鍵だね。神聖皇国の方は無理だけど、正教会国は行ける」

 「“禁忌”ロムスがいなければ楽なんですがねぇ........」

 「あれは無理だ。発動条件さえ満たせれば、やりたい放題になる。例え、その場を離れていてもこちらを感知して殺せるだろうよ」

 「禁忌は誘わないのですか?」

 「メリットが提示出来ない。彼の求めているものは、既にこの世界にはない。無いものは用意できないだろ?」

 「そうですね」

 「奴らも彼女もメリットがあったからこの話に乗ったんだ。メリットが無くてこの話に乗られる方が怖い」

 「そうですか」

 「まぁ、しばらくは身を隠しておくさ。時間はまだあるんだ」


 影はそう言うと、魔女の入れた紅茶に口をつける。


 「普通だね」

 「怒りますよ?」

 「冗談冗談。おいしいよ」


 そのもの達が動くのは、もう少し後になる。






これにて第二部5章は終わりです。そして、第二部『七大魔王討伐』編もおしまいです。


次からは復讐パート!!(2章ぐらい空くけど)


ようやく伏線も少し回収できそう.......

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