勇者VS悪魔①

 聖盾達が森へと足を踏み入れようとしていた頃、神聖皇国の都市ルマドン近辺の森では三人の勇者と二人の戦士が魔王を見上げていた。


 「あれが魔王か。以前戦った暴食の魔王よりはマシだな。主に見た目が」

 「今回は憤怒だったけ?異世界にも七つの大罪があるのかな?」

 「暴食、色欲、傲慢、嫉妬、憤怒。これだけ揃ってれば役満だね。異世界に七つの大罪っていう概念があるかどうかは知らないけど、少なくとも魔王は知ってるみたい」


 憤怒の魔王サタンを見上げながら、各々思ったことを口にする。


 何度も修羅場を潜ってきたためか、その声はとても落ち着いていた。


 「勇者様方。攻撃はいつ仕掛けますか?」

 「そりゃ、今からですよ。話によれば、魔王は復活してから15分近くはまともに動けないそうですし、周りに被害をなるべく出さないように急いで討伐しましょう」

 「あれが魔王ねぇ。俺の腕の見せどころだな!!」


 ガツンと拳を合わせる大男。


 その腕は人間とは思えないほど膨れ上がっており、何も知らない者が彼を見れば魔物に間違えてしまうかもしれない。


 “剛腕”アルフレッドは、ニヤリと笑うと自分の力を出せる事を楽しく思う。


 都市ルマドンを拠点とする灰輝級ミスリル冒険者。


 溢れ出る闘気は尋常ではない。


 その様子を見て、第五聖堂騎士団団長であるエルドリーシスは釘を刺す。


 「我々がする事は、勇者様達の援護です。そこを履き違えないようにお願いしますよ」

 「はっは!!安心しろ!!俺の剛腕で魔王もろとも吹き飛ばしてやるよ!!」


 会話になっていない。


 エルドリーシスは、目頭を抑えると“これは失敗だったか?”と小さく呟く。


 戦力があるに越したことはないと思って、冒険者ギルドに要請したのだが、今では不安の方が大きかった。


 「ま、まぁ大丈夫だよ。アルフレッドさんも灰輝級ミスリル冒険者なんだし、戦闘が始まれば動きを合わせてくれるよ」

 「だといいのですが........不安です」


 慌てて朱那がフォローするが、エルドリーシスの顔色は悪いままだ。


 「おーい。そろそろ始めるぞー」


 頭を抱えるエルドリーシスを見て見ぬふりをしながら、龍二は朱那と光司を呼び寄せる。


 そして、頭を抱えるエルドリーシスに話しかけた。


 「間違いなく今回も悪魔がいるだろうから、そっちは任せてもいいですかね?」

 「え、えぇ。問題ないです。時間を稼ぐぐらいは出来ると思うので」

 「おう!!時間を稼ぐどころか、悪魔たち全員をぶっ飛ばしてやるぜ!!」


 龍二はやる気満々のアルフレッドを見て、“それ死亡フラグなんじゃ........”と思ったものの、言ったら言ったでフラグになりそうなので心の中に閉まっておく。


 龍二だけではない。


 光司も朱那も同じような事を思ったが、何も言わなかった。


 「さて、それじゃ魔王退治と行きますか!!」


 龍二はその手に魔力を集めると、光の玉が現れる。


 その玉を龍二は薄く引き伸ばし、どこかで見たことある形に変えていく。


 国民的人気バトル漫画に出てくる、地球人最強が使う代表的技にそっくりだ。


 そして、その技の名前は........


 「気〇斬!!」


 ガッツリアウトだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 魔王が復活したのを見ていた花音は、少しつまらなさそうに身を隠していた。


 「暇だなぁ。こういう時、仁とがいれば暇つぶしできるのに........」


 子供達と話して時間を潰していた花音だったが、やはり言葉の壁は高い。


 途中からベオークと同じように地面に文字を書いてもらって話をしていた。


 しかし、話す内容がそこまで無い。


 花音と子供達は別にそこまで親しい訳では無いのだ。


 話す事と言ったら、仕事の事ばかりになってしまい、こんな所にまで来て仕事の話をしたくなかった花音は子供達との会話を諦めた。


 花音が仁以外に全く興味がないと言うのも問題である。


 どれだけ頑張って子供達が話題を広げようとしても、それに花音が乗ってこなければ意味が無い。


 結果として、花音は子供達の頭をその指で撫でるだけだった。


 子供達としては、“花音がそれでいいならまぁいいか”と言ったスタンスであり、大人しく頭を撫でられている。


 別に嫌われている訳では無いと分かっているので、子供たちもこれといってメンタルにダメージはなかった。


 花音に問題があるだけである。


 「それにしても、魔王は大きいねぇ。10mぐらいあるのかな?」


 花音が今いる場所は、魔王が復活した森からかなり離れた山の山頂付近だ。


 仁とは違い、上から傍観できる。


 「頭に二本の角と、漆黒の翼。それでいて、人では無い何かって、いかにも魔王ですって感じだねぇ」


 漂う気配も尋常ではない。


 これだけ遠くから見ているにもかかわらず、魔王の圧を感じるのだ。


 「近くにいる朱那ちゃん達は、大丈夫なのかな?」


 あまりに遠すぎてその声は聞こえないが、光司、龍二、朱那の三人は魔王の圧に臆することなく楽しそうに話している。


 時折見せる彼らの笑顔を花音は懐かしく思った。


 「それで、あれがエルドリーシスだね。私達を探ってるエルフかぁ」

 「キシャ?!」


 思わず漏れ出す殺気。


 大人しく撫でられていた子供達が、一斉に両手を振りや上げて驚く。


 「あ、ごめんごめん。ちょっと流れ出ちゃったね」

 「シャーシャー!!」

 「ごめんってば。お肉あげるから許して」


 花音に猛抗議する子供達。


 花音は驚きせてしまったお詫びとして、マジックポーチに入っていた干し肉を子供達に渡す。


 子供達は、“こんなのには釣られない!!”と言った態度を取っていたものの、実際に目の前に干し肉が置かれると両手を上げて喜ぶ。


 あまりに単純すぎて、花音が心配になるほどだった。


 「ま、まぁ、素直だからいいか」


 後でベオークに報告だけしておこうと心の中に決めて、花音は再びエルドリーシスに目を向ける。


 「私達を探るエルフ........子供たちの報告によれば、勝手に動いて面倒事を引き起こしたことが何回かあるらしいから、注意しておかないとなぁ」


 下手をすれば、魔王討伐後の計画に支障をきたすかもしれない。


 もし、邪魔になればたとえ神聖皇国の聖堂騎士団団長であろうとも花音は殺すつもりでいた。


 「今回は、彼女の強さを見るいい機会だね。もし邪魔になりそうだったら、その時はきっちり始末しておくか........ね?」

 「シャ?シャ!!」


 よく分かっていない子供達は、一瞬首を傾げたものの、“とりあえず同意しとけ”と言わんばかりに両手を上げる。


 子供達も世渡りの術を身につけつつあった。


 それを見た花音は満足そうに頷く。


 それと同時に、魔力の集まりを感じ取った。


 「およ?龍二が何かやってるね」


 花音はその様子をじっと見ていたが、何をやりたいのか察すると、大笑いした。


 「あはっ!!あははははははは!!クリ〇ンだ!!クリ〇ンがいるよ!!」


 龍二の手の平に浮かぶ光の斬撃。


 円形に形を作ったその光り輝く斬撃は、ある程度アニメや漫画を知っていれば誰しもが知っている。


 「気円〇!!避けろナッパ!!あははははははは!!」

 「シャ、シャ?」


 お腹を抱えて笑う花音を見て、何も知らない子供達はただ首を傾げるだけだった。

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