聖盾VS強欲の魔王②
「
強欲の魔王が己の名を冠した能力を発動する。
静かに渦巻く魔力を見て、魔王へ襲いかかっていた冒険者達は急いで距離をとり、防御体勢へと移る。
長年染み付いてきた動きは滑らかであり、彼らがどれだけの修羅場を潜ってきたのかがよくわかる。
聖盾も己の持つ盾を素早く構え、衝撃に備えた。
「........?」
が、一向に渦巻く魔力は暴走せず、それどころかゆっくりと消えていく。
聖盾も冒険者達も何が起こったのかわからず、その場から動けなかった。
「ほう。これは随分といいものを盗ったな。純粋な支援系の能力。悪魔が入ればさらに戦力強化になっただろうに」
魔王は冒険者達からの視線を感じてはいたが、それよりも
襲ってこなければ害はない。
魔王は冒険者達に注意をしながらも、何度も手を閉じたり開いたりを繰り返す。
「ふむ。中々使えるなとは言え、制約の都合上何度もは使えんが」
魔王はそう言うと、明確に殺気を露わにして聖盾に向かっていく。
聖盾は意表こそ突かれたものの、すぐさまこれに対応。
魔王の痩せ細った腕から繰り出された拳を受け止めた。
ゴガァン!!
到底、盾と拳がぶつかりあった音とは思えない音が森の中に響く。
「っ........!!重い」
聖盾の突進を片手で受け止めてしまう相手だ。
そんな力の持ち主が放った一撃が、軽いわけが無い。
しかし、一撃は止めた。
聖盾以外の冒険者達は、その隙を逃さない。
剣が、槍が、矢が、魔法が隙だらけの魔王を襲う。
いくつかは避けられてしまうが、1、2発は当たるだろうと思っていた冒険者達だったが、その淡い希望は次の魔王の一言で崩れ去る。
「
その言葉と同時に魔王は聖なる光に包まれ、ほかの冒険者たちと同じように聖盾からの能力を受けたかのような状態へと変化する。
「んなぁ!!」
「やべっ」
「避けろ!!」
冒険者達はここで気が付いた。
自分達は誘われたのだと。
彼らの反応は様々だ。
慌てて距離をとる者、距離を撮るのは厳しいと判断して、刺し違えてでも攻撃を仕掛ける者、味方を守るために急いで防御魔法を唱える者など。
聖盾の強さを知っているからこそ、彼らは大慌てだった。
そして、自分の能力を使われたと気づいた聖盾はその盾を構えながら唖然としている。
「我の前で気を抜くとは........随分と悠長な事をするではないか」
「ごふっ」
思いがけない光景。自分の能力の一部を使われたという事実を受け入れられず、盾を持つ手が緩んでしまった。
魔王はその隙を許さない。
聖盾の能力により、飛躍的に上がったその腕力で聖盾を吹き飛ばす。
放心状態だった聖盾は、その身体を木に打ち付けた。
「二人目」
「ゴッ........」
魔王は吹き飛ばされた聖盾には目もくれず、襲いかかる冒険者の頭を弾き飛ばす。
聖盾の光に守られていようとも、同じく聖盾の光の加護を受けた魔王の拳には敵わない。
弾き飛ばされた冒険者は、気を失って地面へと落ちていく。
「三人目」
「うぐっ........」
魔王は二人目と同じように、冒険者の頭を弾き飛ばそうと拳を振るう。
魔王はこの拳に耐えられないと踏んでいたが、その冒険者は根性が違っていたようだ。
魔王の拳を受けて、頭を上へとかち上げられたが彼は踏ん張ったのだ。
気を失わず、
そして、その手に持った大剣を強引に振るった。
「根性!!お、ラァ!!」
「おっと」
コレにはさすがの魔王も驚いて、距離をとる。
大剣を振るった男の方を見れば、口から血を垂れ流し額は切れ、目の焦点も定まっていない。
なぜその状態で動けるのか不思議なぐらいだった。
「ふはははは!!やるでは無いか人間!!」
「はははぁ!!お、ラァ!!」
賞賛する魔王の言葉は男の耳に入ることはなく、続けて大剣が落ちてくる。
あれ程の傷を負っても尚、男の剣は衰えていなかった。
魔王は次こそ息の根を止めようと、男の大剣を避けたと同時にカウンターの拳を再び振るおうと拳を握った。
だが、それを黙って見ている冒険者達では無い。
「フレイムベント!!」
「アクアパッツァ!!」
「ライトニングストーム!!」
魔法による牽制と
「俺達も続け!!」
「真・郷剣山!!」
「抜刀一式・絶!!」
剣士たちの攻撃。
更に
「俺とした事が、予想外すぎてヘマしちまった。聖なる盾よ!!かの者を叩き潰せ!!
木に叩きつけられたことで正気に戻った聖盾までもが、その男につられて攻撃を仕掛けた。
対する魔王は、魔法を捌き、襲いかかる剣を槍を避けるが、男の勇姿を見た目もの達の興奮によって1段階引き上げられたその動き全てを対応するのは少し無理があった。
「ふむ........」
徐々にその体に傷をつけていく魔王。
何度か反撃して、数人殺してはいたが限界はある。
彼は何かを考えた後、上から迫る盾を見て笑った。
「まぁ、我の仕事は終わっているしいいか。それに、盗めるのにも限界があるしな」
強欲の魔王はそう言うと、盾を正面から受け止める。
聖盾が突進してきた時の何倍もの重さが魔王を襲う。
何とか盾を受け止めた魔王だったが、大きな隙を晒してしまった魔王に様々な攻撃が繰り出される。
次第に傷が増えていく魔王。
やがて、その身体は限界を迎え、塵となって消えていく。
「貴様らの勝ちだ。人間」
強欲の魔王はそう言うと、盾に押しつぶされて消えていった。
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「........え?終わり?」
聖盾と魔王の戦いをていた俺は、あまりに呆気なく終わったその戦いの跡を見て困惑する。
被害だけで言えば、3分の1近くは出ているが終わり方がアッサリしすぎている。
魔王と戦った俺からすれば、魔王が手を抜いていたようにも見えた。
「手を抜いたのか、それとも相性が悪すぎてアッサリ終わったように見えたのか........どっちだと思う?」
「シャ?シャー」
俺の影で一緒になって魔王戦を見ていた子供たちに聞いてみるが、彼らも首を傾げるだけだった。
「強欲の魔王だったけ?あの光をパクったのを見るに、コピーか盗むのどちらか。人の異能を盗めたり真似できる能力なんてかなりの制約がかかってそうだし、扱いづらそうだな」
もしかしたら、1つしか盗む、または真似出来ないのかもしれない。
そして、広範囲に攻撃できる手段を確保できなかったため、あっさりと負けたと考えれば納得出来る。
「わざと負けて得られるメリットなんてないだろうし、相性が悪かったのかもな。あとは、あの頭から血を垂れ流して笑ってるやべーやつのお陰か」
三番目に魔王に殴られた大剣を持つ大男。
今は治療の為に大人しくしているが、先程まで大笑いしていたのだ。
彼がいなかったら、魔王討伐はもっと苦戦していただろう。
「“気合根性”ガルルフ。まさか本当に気合と根性で魔王の攻撃を耐えきった上に、周りまで鼓舞するのか........」
間違いなく今回の魔王討伐において、MVPは彼であろう。
頭から血を流しながらも、大笑いして大剣を振るう姿は一種の魔王だ。
軽く恐怖を覚えたと言っても過言ではない。
「聖盾以外にも注意する人物が見つかっただけ、収穫かな。後は子供達に情報収集を任せて、俺は拠点に戻るか」
「シャ」
俺は敬礼する子供たちの頭を軽く撫でてやった後、その場を離脱して拠点へと帰る。
さて、他の場所はどうなっているのやら。
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