聖盾VS強欲の魔王①
キッチリと悪魔達に時間を稼がれ、魔王が完全復活したことも知らずに、聖盾達は恐る恐る森の中を進む。
普段は弱い魔物達で溢れかえるこの森だが、どれだけ歩いても魔物とは遭遇しなかった。
「不気味だな」
冒険者の1人がそう呟くと、他の冒険者達も頷く。
あまりの静けさ。聞こえるのは風に揺られる葉の擦れる音と自分達が踏みしめる土の音。
魔物の声が一切しないその森はかなり不気味に写る。
「悪魔も全然攻撃してこないな。俺達の数が多くても。多少の妨害はしてくるもんじゃ無いのか?」
「俺に聞くなよ。俺達より優れた気配察知能力を持つ人達が悪魔の居場所を掴めない以上、俺達にはどうすることも出来ないさ。それよりも、ハッキリと気配が分かる方に注意を向けておいた方がいいだろ?」
「まぁ、そうかもな」
彼らは知らない。
悪魔達は既に目的を果たしており、撤退している。
仁ほどの気配察知能力を持っているならば気づけたが、それを冒険者達に求めるのは酷だ。
さらに言えば、彼らは仁に監視されていることにも気づいていない。
厄災級魔物達の目からも逃れられるほどの気配断ち。それに気づける者は世界で見ても極わずかだろう。
そんな事を知る由もない冒険者達は、聖盾を先頭にゆっくりと大きな気配がある所へと足を進めていく。
その歩みは亀のように遅く、重いものだったが周囲の警戒を最大限にしながらの移動にしては早い方だろう。
ゆっくりと歩くこと5分。
遂に、人類の的である魔王の姿がその目に映った。
「........アレが魔王か?」
「おそらくそんなんじゃないですかねぇ。見た目は乞食みたいに見えるが、気配がただモンじゃねぇッスよ」
「強いな。言われずともわかる。あれが魔王だ」
魔王の周りの木々は倒れ、そこには円形闘技場のような会場が出来上がっている。
冒険者達はその闘技場には足を踏み入れず、茂みの中から魔王を観察していた。
もちろん、バレていることは承知の上だ。
聖盾の気配が強すぎるためである。
とは言え、聖盾の気配を囮にして、魔王を囲むように包囲網をすぐさま作り上げる辺り彼らは相当な場数を踏んでいるのがわかるだろう。
誰一人として、そのような打ち合わせはせずとも、自分がやるべき事を理解して動けるのは熟練だからこそなせる技だ。
「........動く気配がないな。誘っているのか?」
「聖盾さんが動けば、皆合わせます。どうしますか?」
「もうしばらく様子を見よう。幸い、ここにいるのはベテランばかりだ。待つ事の重要さはわかっているだろうしな」
聖盾はそう言って魔王を観察する。
やせ細ったその体とみすぼらしい服。ボサボサで手入れなど全くされていない髭と髪。
気配を感じとることができない者がその姿を見れば、スラム街にいる乞食にしか見えないだろう。
それほどにまで、見た目は彼らが想像する魔王とはかけ離れていた。
「悪魔の方はどうだ?」
「未だに動きがありません。余程気配を断つのが上手いか、既に居ないかのどちらかですね」
「後者の方が有難いな。奇襲を受けたとはいえ、ベテラン三人をあっさりと仕留められる程の強さを持つもの達と魔王を同時に相手できるとは思えん」
聖盾はそう言いながらも、魔王への警戒を緩めない。
向こうも気づいているはずなのだが、一向に動こうとしない。
先手を譲られているのか、罠に誘われているのか。
どちらなのか分からない。
聖盾達と魔王の睨み合いは10分にも及んだ。
「........まだ動かないか。こっちから仕掛けるか?」
「時間をかけすぎると、それはそれで不利ですからね。聖盾さんだけ姿を見せて、後は各々の判断で奇襲をかけてもらいましょう」
「そうするか。簡単な合図は私が出す。後は自由にやってくれ」
聖盾はそう言うと、一人で魔王の前に立つ。
他の冒険者達は少し困惑したが、聖盾の後ろに隠れていた冒険者の1人が“聖盾の合図で仕掛けろ”とハンドサインを出していたのを見て頷く。
やせ細った不清潔な魔王の前に立った聖盾は、ここに来てようやく魔王に話しかけた。
「貴様が魔王か?」
「いかにも。我は強欲の魔王マモン。あまりに来るのが遅すぎて、こちらから出向こうか迷っていたが、そちらから来てもらえて良かった」
「........」
聖盾は静かに盾を構える。
後は合図ひとつで戦闘開始だ。
しかし、強欲の魔王は構えるどころかその場に座り込む。
そして、耳を疑うようなことを言い始めた。
「まぁ、主も座れ。少し話をしようじゃないか」
聖盾は一瞬何を言っているのか分からず混乱したが、すぐに持ち直して低い声で言葉を返す。
「........人類の敵である魔王と話すだと?」
「なんだ?我と話すのが怖いのか?」
「あぁ。怖い。特に、何を考えているのか分からんやつはな」
「ほう?随分と面白い人間だ。ここは嘘でも怖くないと威勢を張るべきだと思ったのだかな?」
「威勢を張って何になる?........チッ乗せられたか」
既に会話を始めてしまったことに気づいた聖盾は、その大盾を地面に叩きつけると魔王に向かって走っていく。
そして、それを合図として茂みに隠れていた冒険者達も魔王に牙を向いた。
「随分と野蛮じゃないか?言葉も通じぬ蛮族ではあるまいて」
「黙れ。貴様と話すことなど無い」
聖盾はその盾を魔王に叩きつける。
ドゴォン!!
空気を揺らす程の衝撃音が森の中に響き渡る。
「........見た目はともかく、力は魔王と言うわけか」
「中々いい体当たりだな。合格点をやろう」
魔王に叩きつけた盾は、魔王の片腕によって止められた。
あのやせ細った腕で大盾の突進など普通は受け止められない。
しかし、相手は魔王。
かつては、この世界を支配したとまで言われる魔王だ。
この程度の事は当たり前の様に出来てしまう。
そして、魔王を殺さんと襲いかかる冒険者達の攻撃を器用に避けていく。
振り下ろされる剣や突かれる槍、降り注ぐ矢の雨や魔法。
その全てを必要最小限の動きで避ける。
「ほかの者もそこそこは動けるようだな」
値踏みする魔王だっだが、それを許すほど聖盾達も甘くない。
「舐めるなよ魔王」
相手の力量を確かめている魔王に向かって、聖盾は能力を使用した。
「
聖なる盾は光り輝き、その輝きは冒険者達の力となる。
光が彼らの中に入っていくと、目に見えて動きが良くなった。
「ほ?」
いくら魔王といえど、突如として動きが良くなったものたちの攻撃を見切るのには限度がある。
振り下ろされた剣が腕に、降り注ぐ矢の雨が足を掠める。
足や腕に少し傷を負った魔王は、楽しそうに笑った。
「はははははははは!!随分と面白い能力だな!!味方への支援系か?あの光が原因だろうな」
魔王は素早く聖盾の能力を解析すると、その手を盾に向けて能力を使用した。
「その光、我にも使わせてもらうとしよう。
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