勇者VS悪魔②
龍二が放った光の斬撃。
その斬撃は真っ直ぐに憤怒の魔王に向かって行く。
このまま行けば魔王の首を切り落とせるだろうが、そうは問屋が卸さない。
光の斬撃に対して、横から何かが通り過ぎるとその攻撃は無惨にも空気に散った。
「チッ。初手で仕留めるのはさすがに無理だったか」
「まぁ、悪魔を釣り出せたと思えばいいんじゃない?他にも悪魔は潜んでいるだろうから、僕達も魔王に向かって攻撃してみようか」
「わかった」
そう言って光司と朱那は、己の異能を使用する。
光司は光り輝き、西洋風の鎧を身に纏い、その手には日本刀が握られる。
「
朱那は手を前に組むと、白く染まった翼が背中から生え、服装も変わる。
この世界の住人であれば、誰しもが膝をついて頭を下げる存在、天使の姿。
「
二人は、暗雲立ち込めるこの世界に一筋の光を刺すかのような輝きを身に纏っていた。
それはあまりにも異質で、あまりにも神々しい。
「何度見ても慣れませんね。これがこの世界を救いし勇者様達のお姿ですか」
「すげぇな。天使様なんて初めて見たぜ。それに、あっちの勇者様はキンキラリンだ」
ある意味魔王より目立っている勇者達。
そこに視線が言ってしまうのは仕方がない。
“剛腕”アルフレッドとエルドリーシスは、魔王や悪魔の様子を確認することなど忘れ、その神聖なる姿を目に焼き付けていた。
ちなみに、エルドリーシスは朱那をガン見し、“剛腕”アルフレッドは光司をじっと見ていた。
どちらがどちらに憧れているかなど、一目瞭然である。
そんな憧れの視線を感じながらも、光司と朱那は己の力を解放する。
本気でやりすぎると周辺の地形を変えてしまうので、全力ではあるが本気を出さない程度の力加減でその能力を発動した。
「まずは僕から行かせてもらおうかな」
光司はそう言うと、魔王に向かって聖剣ソハヤノツルギを上段に構えると........
「フッ!!」
その剣を素早く振り下ろす。
剣聖には劣るがそれでも普通の人が見たら、いつ、その剣を振り下ろしたか分からないぐらいの速である。
だが、神速や光速には程遠い。精々音速程度だ。
振り下ろされた刀と同時に、その斬撃が聳え立つ憤怒の魔王に襲いかかる。
先程龍二の攻撃を防いだ何かは、その斬撃を防ごうと魔王との間に入るが........
スパン
切れ味を追求した聖剣の斬撃には歯が立たず、呆気なく切り裂かれる。
放たれた斬撃の勢いは止まらず、そのまま憤怒の魔王へと向かっていった。
「やったか?!」
「ちょ、龍二君?それわざと言ってるよね?」
魔王へと迫る斬撃を見て、龍二はちゃっかりフラグを立てに行く。
三年前ならこの発言がフラグと気づかずにスルーしていた光司だが、それなりにアニメの知識を龍二や仁から聞かされていた今の彼ならツッコむことが出来た。
ある意味、成長したのである。
魔王へと向かう斬撃は、木々を綺麗に真っ二つにしながら進み、魔王も切り裂こうと迫る。
が、速さはあまりない。
魔王はあくまで“15分間は本来の力が出せない”のであって、“動けない”訳では無いのだ。
復活した瞬間に攻撃をあびせられ、逃げ惑っていた暴食の魔王がいい例である。
「ふむ」
魔王はその斬撃を見て、その攻撃を防ぐのは難しいと判断すると普通に避ける。
「ほら!!龍二君が余計なことを言うから避けられたじゃないか!!」
「いやいや。言っても言わなくても変わらなかったって。それに、避けられるって分かってて言ったんだし」
「だとしても、言わないべきだよ!!1%ぐらいは当たるかもしれなかったのに、龍二君のセリフで100%当たらないになっちゃったんだよ!!」
「すげぇな。俺は運命を操作できたのか」
「できてないから!!」
避けた魔王そっちのけで、光司はいらないことを言った龍二に抗議する。
「まぁ、あの程度の斬撃じゃ避けられちゃうよね。まともに動けないとは言っても、多少は動けるわけだし。そりゃ、当たらないってわかってるなら“やったか?!”とか行ってみたい気持ちは分かる」
「あれ?黒百合さんも龍二君の味方?おかしいぞ。今の流れなら僕に味方すると思ったのに........」
「いや、だってあれで切り裂かれたら魔王の威厳ないじゃん」
「魔王の威厳云々じゃなくて、討伐できるかどうかじゃないのか........」
ギャーギャーと騒ぎ出す3人を見て、エルドリーシスもアルフレッドも固まる。
目の前に魔王がいると言うのに、なんとも呑気なことである。
「ははは、これが強者の余裕って奴か?」
「違うと思います。あれが、彼らなりの精神を保つ方法なのでしょう。彼らがいた世界は、魔物の驚異などなく、争いもほとんど無い平和な場所だと聞いています。いきなり知らない場所に強制的に飛ばされて、戦いなど知らなかった彼らは嫌でも戦わされたのです。価値観も違えば常識も違うそんな世界でいつも通りに振る舞えと言うのは無理があります。事実、勇者様の何名かは精神的にかなり追い詰められていますし」
「何もかもが違う世界で、彼らなりに生き抜く方法がアレだというわけか?」
「恐らくは。我々もできる限りの支援はしていますが、やはり限界はあります。最終的には個人の強さに委ねられてしまうのです。神聖皇国に務める身としてあまりこういうことは言いたくありませんが、女神様が異世界から勇者様方を呼び寄せたのには憤りを覚えますね」
「おいおい。アンタは仮にも第五聖堂騎士団団長だろうが。そういう事は思っても言わない方がいいぞ?俺は何も聞いてない」
「..........神よりも己の筋肉を信じる貴方だからこそ、言うのですよ。私もたまには愚痴らないとやっていけないという事です」
「ケッ。立場が偉い人は大変だなぁ。冒険者は楽だぞ?しがらみは少ないし、嫌なら別のところに逃げちまえばいいんだからな」
「少し.........ほんの少しだけ羨ましく思います」
エルドリーシスはそう言うと、未だに何かを言い合っている勇者達に目を向ける。
初めて見た時とは違い、身長や顔つきもだいぶ変わっている。
少年少女から大人になっている彼らは、一体何を思って今を生きているのだろうか。
アルフレッドには言えなかったが、彼らは親友を亡くしている。
その心の傷は、恐らく深いだろう。
彼女自身、誰かを失う役職についているのだ。
その痛みは分かる。
「本当に女神は人は自分勝手ですね........」
この地位に登り詰めるまでに、人の業は嫌という程見てきた。
自分も人のことは言えない。
それでも人、否、思考ある者達の身勝手さには嫌気がさす。
「........アルフレッドさん」
「おう。わかってる。勇者様達も気づいているようだな」
先程までのワイワイとした雰囲気は一気に崩れ去り、緊張感が場を支配する。
全員の視線は森の中に。
その目に移るは異様の悪魔達。
「勇者様我々が悪魔を抑えます。その間に急いで魔王を」
「はっはぁ!!腕がなるなぁ!!」
楽しそうに笑うアルフレッドと、警戒を強めるエルドリーシス。
その様子を見て、龍二達はゆっくり頷いた。
「お遊びは辞めて、真面目にやるか」
「そうだね。でも、なるべく周りには気を使ってよ?」
「レッツゴー」
戦いは始まったばかりだ。
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