斥候VS悪魔

 ついに復活した魔王。


 しかし、その姿は森の木々によって隠されている。


 気配は感じるし、移動もしていない。おそらく、他の魔王と同じように15分ほどはマトモに動けないのだろう。


 「今までの魔王はそれなりに大きかったんだが、今回は小さいんだな。感じる魔力はかなり大きいけど」

 「シャ」

 「問題は悪魔だ。連中、随分と気配を消すのが上手いらしい。中々正確な位置を掴ませてくれないな」


 嫉妬の魔王の時とは違い、今回は悪魔が護衛に着いている。


 今まで気配だだ漏れで待ち構えているのだが、今回は巧妙に気配を消してあちこちに散らばって隠れているようだった。


 「聖盾の連中は先に斥候を出して、魔王を確認するみたいだな」


 聖盾に視線を向けると、彼が中心となって作戦を立てているようだ。


 さすがにこの距離からだと、何を言っているのか分からないが随分と悠長なことをしているな。


 彼らは知らないのだ。魔王が復活してから15分近くはマトモに動けないということを。


 魔王の討伐などは聞いているだろうが、魔王の実態までは聞いていない。


 その情報の無さが今回は浮き彫りとなっている。


 「シャ?」

 「いや、さすがに俺が魔王討伐なんてしたら騒ぎになる。彼らが負けそうならともかく、戦えるうちは様子見だ」


 魔王を叩くなら今が絶好のチャンスだ。


 俺が動いてもいいが、それはそれで問題がある。


 ここは、剣聖と並んで語られる聖盾とその仲間達の実力を信じるとしよう。


 俺はそう思いながら、森の中へと入っていった斥候達が見える位置へと移動する。


 今回は近くに山がないので、全体を見渡すことが出来ないのだ。


 空から見下ろしてもいいが、イスのように霧を作れるわけじゃない。


 空を見上げられたら1発アウトだ。


 だから今回は、森の中を上手く隠れながら様子を見る。


 「斥候は4人か。随分と動きがいいな。冒険者で言う盗賊シーフの立ち位置なんだろうな。隠密密偵に優れてて、最低限の戦闘も出来そうだ」


 彼らの内、二人は灰輝級ミスリル冒険者だ。最上級魔物程度ならタイマンで倒せる程の戦闘力はある。


 悪魔からの攻撃があったとしても、それなりに対応できるだろう。


 そう思いながら監視を続けると、ついに悪魔達が隠れ潜んでいるテリトリーへと足を踏み入れた。


 斥候である4人は、警戒をゆるめることなく森の中を疾走していく。


 が、悪魔がそれを許す訳が無い。


 キン!!


 金属がぶつかり合う音が聞こえ、斥候達は冷静に武器えものを構える。


 木に突き刺さった矢を見るに、斥候に向かって飛んできた矢を上手く弾いたのだろう。


 矢が飛んできた方向を考えれば大体の位置が割り出せる。


 斥候達は矢の飛んできた方向に向かって走っていく。


 が、俺はその様子を見て首を傾げた。


 「そっちの方向に悪魔の気配は無いんだけど。どういう事だ?」

 「シャシャシャ?」

 「その可能性もあるが........多分いないと思うぞ。どうやって矢を飛ばしたんだろうか」


 子供達に“気配が察知できてないだけでは?”と言われたが、今の俺は子供達と隠れんぼで鬼役している時並に気配察知に力を入れている。


 俺は自分の力を過信している訳では無いので、悪魔を見落としている可能は十分にあるが、俺の感が“そこにはいない”と言っていた。


 「まぁ、ついて行けば分かることか。バレないように慎重に行こう」


 暫く追うと、斥候達の足が止まる。


 彼らの視線の先に目を向けると、ボウガンのようなものが木に括り付けられていた。


 なるほど。確かにボウガンを使えば、遠くから遠隔操作して矢を放つこともできなくはない。


 どんな仕組みなの?と聞かれると困るが、なんかこう、いい感じに糸をトリガーに引っ掛けてやるんじゃない?


 斥候達も自分達がいっぱい食わされたことに気づき、少しイラついている。


 元々プライドの高い連中だ。


 侮っていた相手に、こんな単純な手で引っ掛けられたのが癪に触ったのだろう。


 気配が大きく揺らいでしまった。


 そして、悪魔はそれを見逃さない。


 「お、動いたぞ」


 感知していた五体の悪魔の内、二体がこちらへ向かってきている。


 更に、その二体を援護するかのように矢の雨が斥候達に降り注いだ。


 「っぐぅ!!」


 怒りによって気が散っていた斥候達は、矢への反応が遅れてしまう。


 三人は上手く矢をいなしたが、1人だけ矢を脚に受けてしまった。


 膝から下に力が入らないのか、彼は苦しそうに片膝を付く。


 仲間の1人が急いで手当をしようとするが、悪魔の牙はすぐそこにまで迫っていた。


 ゴキィ


 生々しく鳴り響く音。


 その音の正体は、簡単に分かる。


 「まずは一人」


 片膝を付いた斥候の首が、曲がってはいけない方向に曲がっている。


 顎が天を向き、頭が地へと向いている。


 上下逆さまになっているその口からは泡が吹き出しており、白目を向いて絶命していた。


 「ッ........!!」


 急いで手当をしようとした斥候は、慌てて距離を取ろうとする。


 しかし、それは許されない。


 「二人目じゃ」


 斥候が距離を取るよりも早く、2体目の悪魔が斥候を捉えた。


 胸への一突き。


 魔力の乗ったその手刀は、斥候の胸を貫いて心臓を破る。


 「ゴフ.........」


 胸を貫かれた斥候は、口から血を吐きだしながらその悪魔の腕を掴む。


 その目に最早生気は宿っていない。だが、彼は最後の力を振り絞った。


 「後は..........む」

 「ぬ?抜けぬ」


 悪魔の腕を掴み、動きを止める。


 殺られたのは、灰輝級ミスリル冒険者では無い2人。


 本命は残っている。


 斥候の2人は、既に息絶えた仲間の死を無駄にしないように悪魔への攻撃を開始している。


 1人は動きを止めた悪魔に、もう1人は1人目の斥候を殺した悪魔への牽制に。


 流石は灰輝級ミスリル冒険者。


 既に死んでいる二人の斥候よりも動きが鋭く、判断も早い。


 だが、察知能力は低かったようだ。


 「?!」


 森の奥から飛んできた二本の矢。


 木々の隙間を縫って飛んできた矢は、振りかぶった斥候の腕に突き刺さる。


 とてつもない程の正確な狙撃だ。


 先程の設置していたボウガンとは違い、威力も正確さも段違いである。


 「逃げろ!!情報を持ち帰れ!!」


 矢を刺された斥候は、自分が助からないことを悟ると、悪魔に牽制をしていた斥候にそう叫ぶ。


 「.........分かった」


 牽制をしていた斥候は少し悲しい顔をした後に、素早くその場を離脱する。


 もちろん、悪魔は離脱させまいと追いかけるが、もう1人の斥候がその道筋に立ち塞がった。


 「おいおいお前らの相手は俺だぜ?もう少し遊んでくれよ」


 なにあれかっこいい。


 自分の死期を悟りながらも、仲間のために戦おうとするその姿はとてもカッコよかった。


 正共和国と言えど、まともな人はいるんだなぁ。


 俺は助けても良かったが、悪魔達に姿を見られるのはあまり宜しくない。


 視線は感じないが、おそらく旧サルベニア王国の時のように監視はいるはず。


 見つかって存在を知られるのは、なるべく避けたかった。


 「悪いな。俺にも俺の事情がある」


 斥候を助ける義理もない。


 かっこいいからという理由だけで、助ける気にはなれなかった。


 斥候は、十分な時間を稼いだあと帰らぬ人となる。


 その勇士は見届けたつもりだ。

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