三体の魔王

 女神イージスの神託により告げられたのは、魔王三体の同時復活。


 その時刻は毎度の如く、翌日の正午だと言う。


 シルフォードからその話を聞いた俺は、急いで魔王討伐に向けた準備を始めた。


 「場所は分かっているのか?」

 「問題ない。今回は分かりやすかった」


 そう言ってシルフォードは簡易地図を広げる。


 その地図には既に赤い丸が書かれており、そこに魔王がいると言うことが分かる。


 「神聖皇国の都市ルマドン近辺の森と、獣王国の武術都市ダバラ近辺の草原。そして正教会国の首都レレノフ近辺の森に魔王が封印されているらしい」

 「神聖皇国はともかく、ほかの2箇所は有名都市だな」


 正共和国の首都は言わずもがな。獣王国の武術都市ダバラは、その名の通り武術の都市だ。


 様々な流派の武術道場が立ち並び、その技に磨きをかけている。


 各国から武術を学びたい者が多くやってくるため、街には戦える者が多いのも特徴だ。


 年に一度の武術大会も開かれており、国王を決める大会と合わせて獣王国の一大イベントになっている。


 「それで、各国の対応はどうなってる?」

 「神聖皇国は勇者達を既に派遣済み。今回は第五聖堂騎士団団長のエルドリーシスがお供に付いているみたい」

 「エルドリーシスか。見つかるとめんどそうだな」


 第五聖堂騎士団はエルフが多く所属している騎士団であり、その団長であるエルドリーシスは、俺が傲慢の魔王を討伐したというのを見て、俺達の揺レ動ク者グングニルの事を調べている。


 俺達のことに関して知っているものは少なく、何かしらの資料なども殆ど残していないので、俺達が何者なのかに気づけていないが、もし、本人の目の前に俺たちが現れればどうなるか分かったものでは無い。


 どうも、教皇がちょいちょいエルドリーシスに邪魔を入れていると言う報告を見るに、あの爺さんも手を焼いているかもしれない。


 「エルドリーシスは少し面倒だな。もし、勇者達が苦戦して負けそうな時、俺達が手助けしなきゃならんのだけれど........その後が面倒だよなぁ」

 「間違いなく、私たちの正体を暴こうとするだろうね。イスだと上手く誤魔化すのは無理だろうし、私が行くよ」

 「分かった。ってことは、俺は正共和国だな。イスは獣王国だ。念の為にベオークも付かせるがいいか?」

 「問題ないの」


 サクサクと誰がどこを担当するのかが決まっていく。


 元々、七大魔王全てが同時復活する前提で俺達は動いていた。


 魔王三体程度なら、動揺すらない。


 今更だが、神聖皇国は七大魔王全てが同時復活した場合、どのような対応を取るつもりだったのだろうか。


 旧サルベニア王国の時やリテルク湖の時の対応を見ていると、とてもでは無いが魔王が7体同時復活のした時の対応を考えていたとは思えない。


 まぁ、俺達のように厄災級魔物を従えているわけでもないし、人を使っての監視にも限界があるのはしょうがないが。


 「復活まではまだ時間があるし、少しの間ゆっくりと休むか」

 「そうだね。その気になれば移動は6時間ぐらいで済むし。まだ時間には余裕があるねぇ」

 「ゆっくりするの!!」


 簡単な予定を立てたあとは、特にやることは無い。


 これが初めての魔王復活ならともかく、5回目ともなると俺達も慣れていた。


 今頃龍二達は大慌てで現場に向かってるのかなと思いつつ、俺は欠伸を噛み締める。


 その様子を見ていたシルフォードが、1つ提案をしてきた。


 「団長さん。お風呂湧いてる。入ってきたら?」

 「お、まじ?なら入らせてもらうかな」

 「私も入ろーっと」

 「私も入るの!!」


 どうやらイスと花音も風呂に入るようだ。


 ちなみに、浴場はしっかりと男女で分けられている。


 作った当初は俺達と吸血鬼夫婦ぐらいしか使わなかった為、混浴だったが、今では三姉妹に獣人達もいる。


 混浴にして問題が起きても困るので、男女で分けるのは当然と言えば当然だった。


 俺はお風呂セットを持って大浴場へと足を運ぶと、既に先客がいる。


 「おや?団長殿では無いか」

 「団長も湯船につかりに来たのか?」

 「だ、団長様ぁ........」


 そこに居たのは、我が団の男衆である。


 真祖ストリゴイと、白色の獣人のロナとゼリス。


 この三人がこうして湯船に浸かっているのを見るのは、初めてかもしれない。


 俺は軽く身体を湯船で流した後、少し温いお湯の中に身体を沈める。


 「ふー!!やっぱり風呂は気持ちいいなぁ」

 「ふはははは!!団長殿もそう思うか!!昔は湯など入る事はなかったが、今ではこれが無いと生きていけん!!」


 俺が目を細めながら、肩までゆったりと浸かっているのを見て笑うストリゴイ。


 初めて風呂に入った時は、その良さが分からずに首を傾げていたが、今では毎日入るほど風呂が気に入っている。


 やはり入浴と言う文化は素晴らしいな。


 ロナとゼリスも2日に1回は入るようで、相当気に入っているのがわかる。


 入浴と言う文化は素晴らしい(2回目)


 「そう言えば団長殿。魔王が復活するそうでは無いか」

 「そうなんだよ。明日の正午に三体同時復活だとよ。面倒ったらありゃしない」

 「しかし、これで全ての魔王が復活したな。しっかりと被害を出すことなく討伐出来れば、ようやく我らの計画が始まる訳だな?」

 「我らのって言うか、俺と花音の計画だけどな。魔王を倒し終えたからと言って油断しちゃいけないぞ。むしろここからが本番なんだから」

 「あ、あの!!計画って戦争のやつですよね?」


 ロナが顔を真っ赤にしながら、会話に入ってくる。


 大丈夫?逆上せてない?


 「そうだ。世界中を巻き込んだ大戦争だ。そこに俺達も参戦するつもりだ..........ところでロナ?大丈夫か?顔が真っ赤だけど逆上せてない?」

 「ふへぇ?!だ、大丈夫です!!大丈夫ですからちょっと近ずき過ぎないでください!!」


 ロナからの拒絶........!!これは中々にメンタルに来るな。


 性別上は男とは言え、見た目は完全に女の子なのだ。


 そんな可愛いロナに拒絶されるのは少し、いや、大分悲しかった。


 「団長。別にロナは団長を嫌ってるわけじゃないからな?むしろその逆だ」

 「ふはははは!!団長殿のことが好きすぎて、恥ずかしいのだよ。ほら、好きな奴に自分の全裸を見られたら恥ずかしいだろ?」

 「そうか?俺も花音もそこら辺はズレているらしいからな.......むしろ、“鍛え上げられた俺の筋肉美に酔いしれな!!”って堂々としてた方がいい気もするが」

 「「それは団長(殿)がおかしい」」


 綺麗に声が被る。


 昔から花音と一緒に風呂に入っている俺からすると、別に良くね?とは思うのだが、龍二も“それはおかしい”って言ってたしおかしいのか。


 「まぁ、なれるとさほど恥ずかしいとは思わんがな」

 「そうだな。結局は慣れだな」

 「な、なれませんよぅ.........団長様の、団長様のお身体を........きゅう」

 「おいロナ?ロナ?やべ、ロナが逆上せてる。ちょっと手伝え」

 「ふはははは!!ロナには刺激が強かったか?」

 「まだまだ子供という訳だ」

 「ははは!!ロナは可愛いな」


 漫画のように目をぐるぐると回しながら、ブクブクとお湯に沈んでいくロナを見て、俺達は笑いながら沈むロナを救い出すのだった。

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