嘘もまた真実
孤児院を出た俺達は、そのまま拠点へと帰っていた。
買い出しは終わったし、孤児院への寄り道もしたので日はだいぶ傾いている。
その帰り道で、俺は花音に先程の事を聞いた。
「なぁ、なんであんなに堂々と嘘をついたんだ?しかも、嘘発見器の異能持ちに」
嘘を見破れる異能を持ったシスターマリアに向かって、花音は堂々と嘘をついた。
しかも、シスターマリアの反応を見るに嘘だと見破れていない。
花音の勇気ある行動に助けられたが、それ以上に失敗した時のリスクが高かったと思う。
花音はニヤッと笑うと、人差し指を立てながら説明した。
「例えば、悪の組織の末端君がいるとします」
お?なんな急に始まったぞ。
少し突っ込みたいが、今は我慢しておこう。
「そしてその末端君はある任務を上司から言い渡されました。人物Aの殺害です」
ほうほう。
「末端君は少し気になって上司に聞きました。“なぜ人物Aを殺すのか”と」
「そんなこと聞いても、本当のことを教えて貰えるわけがないだろうに........」
組織の末端は、基本的に鉄砲玉だ。
捕まっても必要以上の情報が流れないように、情報統制しているのが普通である。
俺の呟きを聞いた花音は、“その通り”と言わんばかりに俺に人差し指を向ける。
「仁正解。10ポイントあげるね」
「わーうれしいなー(棒)」
そのポイント、なにかに使えるんですかね?
俺の心の質問が花音に届け訳もなく、花音は説明を続ける。
「その質問に上司はこう答えました。“人物Aはとんでもない悪人だから”と。そして、末端君は人物Aを無事に殺しましたが、警察に捕まってしまいました。そして、殺した動機を聞かれます。末端君は上司が言った“人物Aはとんでもない悪人だから”を思い出し、それを言いました。しかし、真実は“その上司にとって邪魔な存在だったから”だったのです。さて、ここで問題。末端君を嘘発見器にかけた場合、“人物Aはとんでもない悪人だから”という発現は嘘になる?ならない?」
「ならないだろ。真実が違っていたとしても、末端君の中での真実は“人物Aはとんでもない悪人だから”になってるんだからな」
「そう!!末端君は真実と違う事を言っていても、嘘にならない!!なぜなら、末端君はその上司の言葉を真実だと思っているからね。つまり、思い込めばそれは真実になるってことじゃない?」
........何が言いたいのか分かったぞ。
花音は“イスが俺の兄の子”と言うのを真実として話したのか。
嘘だと知っていながら、真実だと思い込んで話すなんて普通はできない。
余程訓練されていれば別かもしれないが、少なくともそんな芸当は俺には出来なかった。
「私ね。万が一に備えて、嘘を嘘とバレないようにする練習してた時期があったんだよ。ずっと一緒にいる仁には見破られちゃうけど、嘘発見器を騙せるぐらいには練習したんだよ」
「なにそれ初耳。ってか万が一ってなんだよ........」
「さっきの教会の時みたいな時かな?マリアさんの異能がどうであれ、直接記憶をいじってくるのでなければ嘘は通せるかなって思ったんだよねー」
「それで本当に騙したのか........俺も練習するか?今後ボロが出ないとは限らないもんな」
答え方に気をつければ何とかなりそうではあるが、やはり限界はある。
シスターマリアとの会話ようにキッパリと答えなければいけないような場面になった時に、逃げれなくなってしまう。
「仁も練習してみる?あっ、でも嘘発見器がないよ」
「ドッペルに頼めば作ってくれるだろ。原理は魔法や魔術でなんとでもなるのがこの世界だからな」
俺は嘘つきな花音と純粋なイスを連れて拠点に帰るのだった。
そして、拠点に帰ると血相を変えたシルフォードが俺たちに伝える。
“魔王が三体復活する”と。
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その日、神聖皇国は騒がしかった。
三ヶ月に及ぶ平和な一時は終わりを迎え、やってきたのは魔王の嵐。
いつものように唐突に突きつけられた魔王復活の神託に、教皇シュベル・ペテロは頭を抱えた。
「まさか、三体同時に復活するとはな........」
「救いなのは、場所が分かっている事と、一体は我が国の所に復活することでしょうか」
隣で神託を確認していた枢機卿フシコ・ラ・センデスルは、教皇の呟きに反応する。
「残りの二体も11大国の有名な都市の近くです。リテルク湖や旧サルベニア王国とは違って、我々が対応せずとも魔王を討伐できるだけの戦力があります」
「獣王国と正共和国か。どちらも剣聖と肩を並べるほどの化け物たちだ。万が一はあるかもしれんが、まず負けないだろうな」
今回の神託で下された魔王の居場所は三箇所。
神聖皇国の辺境都市と獣王国の有名都市、そして正共和国の首都近辺だ。
11大国に並べられる獣王国と正共和国には、それぞれ
前回とは違い、場所がはっきりとわかっている上に戦力も問題ない。
今回は教皇達にも余裕がみてとれた。
「連絡は?」
「既に入れました。獣王国はかなり落ち着いていますが、正共和国は慌ててましたね」
「さすがは獣神だ。肝が座っている。対して正共和国はダメだな。ぶっちゃけ、そのまま魔王に滅ぼされてくれないかと期待している」
「それは困るでしょう?下手をすれば戦争を起こせなくなりますよ」
負ける未来が見えていて戦争を受けるほど、むこうも馬鹿ではない。
勝てると思わせなければならないのだ。
「無事に終われば、全てが始まる。我らがイージス様の教えを歪めた連中に鉄槌を下ろす時が来る」
「彼らの断罪も近いですね」
仁を殺した5人。彼らは戦争を始めるための着火剤だ。
「もうしばらくの辛抱だな」
その時は近い。
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獣王国の首都では、獣王ザリウスが騒いでいた。
「俺が出る!!」
「いえ、国王陛下!!貴方様にはしてもらうことがありますゆえ!!」
彼のそばにいる宰相は、慌てて国王を止める。
しかし、その程度で止まる程優しい者が国王にはなれない。特に、力こそ正義と言われるこの国では。
「うっせ、黙れ!!俺は行くからな!!なんのための国王だと思ってんだ!!こういう時の為の王だろうがァ!!」
「え、ちょ、ここ最上階ですよ?!待って........待ってください!!国王陛下!!冗談抜きで困ります!!」
宰相は急いで城から飛び出すが、既に国王は街を出てしまっていた。
「相変わらず滅茶苦茶ですね........あの人は国王としての自覚が無い」
宰相はそう呟くと、城の中へ戻っていく。
盛大なため息を吐きながら。
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その日、正共和国は騒がしかった。
「聖盾を呼べ!!今直ぐにだ!!」
正共和国のトップであるキーペンは、素早く指示を出す。
見方によっては国を守るために素早く指示を出す有能な首相に見えるが、彼の中には自己保身しかない。
聖盾を呼びつつ、彼は自身の身の安全を守るためにほかの
金に糸目はつけない。彼の資産はとてつもないほどあるからだ。
「魔王め!!このワシに無駄金を使わせよって!!」
しかし、腐るほど資産があったとしても目減りしていく金貨の山を見るのは気分が悪い。
こうして、正共和国は聖盾を呼び出した。
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