嘘と真実
孤児院の庭で話すのもなんだからと言われ、俺達は孤児院の応接室に通された。
モヒカンは未だに子供たちにと戯れており、本人もさほど嫌そうではなかったので放っておいた。
兄と同じように、子供の扱いは上手なので彼に任せても問題ないだろう。
「暖かい紅茶ですが、よろしいですか?」
「えぇ。問題ないですよ」
応接室に通された俺達は、少し豪華なソファに座る。
シスターマリアは俺たちが座ったのを確認したあと、紅茶を鼻歌交じりに入れ始めた。
今の間に、このシスターについて色々聞いておくか。
俺は、シスターマリアには聞こえない声量で花音に話しかける。
「なぁ花音。シスターマリアについて気をつけることはあるか?」
「年齢聞くのはダメだよ」
「んな事はわかってる。それ以外だよ。異能とか魔法については?」
「んー。確か、嘘かどうか分かる異能だったかな?記憶を読み取れるわけじゃないから、答え方を間違えなければ大丈夫だと思うよ」
「何その異能。めっちゃ便利じゃん」
嘘かどうかを見抜ける異能とか、どこに行っても重宝されるだろう。
戦闘系の異能ではない為、戦いに関しては身体強化一本で頑張らないといけないが、それ以上のメリットがある。
俺も人の表情とかを見て嘘かどうかを見抜けるには見抜けるが、中には見抜けない程上手く嘘をつく者もいる。
俺の祖母とかはそうだったな。
声色も一切変わらず、サラッと嘘をつくから物凄くやりずらい相手だったのを覚えている。
昔“ダウト”というトランプゲームをやったことがあったが、ボロクソに負けた。
強すぎなんだよ。
「ってか、嘘を見破れる異能なのに、裁判官とか衛兵とかそっち系の仕事にはつかなかったんだな」
「それは彼女も孤児だったからじゃない?マリアさん、この孤児院出身なんだよ」
なるほど。最初から教会関係者のようなものだったのか。
そりゃ、自分を育ててくれた教会に入るに決まっている。
あの、のほほんとした性格じゃ荒事には向いていないと言うともあるが。
俺が花音からシスターマリアについての情報を軽く聞き終えると、紅茶を入れ終わったシスターマリアがニコニコしながらやって来る。
「粗茶ですが」
「ありがとうございます」
「ありがとー」
「ありがとうございますなの」
俺達は机の上に置かれた紅茶に口をつける。
うーん。普通!!
というか、紅茶の違いとかよく分からない。
この世界に来てから紅茶の飲み比べとかやったこともあったが、“なんか、ちょっと味が違う?”程度しか分からなかった。
ちなみに、三姉妹には違いがハッキリとわかったようだったので、残りの紅茶は全部彼女たちにくれてやった。
どうせ飲むのならば、違いが分かる奴が飲んだ方がいいだろう。
ちらりと横を見ると、イスは自身の異能をこっそり使って紅茶を冷たくしていた。
ちょっと羨ましいなと思っていていたが、その冷気は徐々に温度を下げていき紅茶の氷が姿を表し始める。
おいおいおい。イスが冷たいものを好んで食べることは知っているが、それでも限度があるだろ。コップにくっついてない?その凍った紅茶。
俺と花音の紅茶は暑いから湯気が出ているが、イスの紅茶は冷たいから湯気が出ている。
イスは、その凍った紅茶を器用に口の中に入れると美味しそうに噛み砕いていた。
人の見た目をしていても中身はドラゴン。
この顎と歯の強靭さは人の何百倍にもなる。
カッチカチに凍った氷を噛み砕くのは容易だ。
しかし、噛み砕くのは容易だが噛み砕いた時の音が聞こえてしまう。
「........?なんかゴリゴリって音が聞こえませんか?」
シスターマリアもこの音に気づいたようで、首を傾げる。
俺はどうしたものかと迷ったが、ここは正直に言うべきだと判断した。
「すいません。ウチの子が異能を使って紅茶を氷にして食べたようで........」
「あぁ!!そうだったんですね!!また誰かが壁にイタズラしているのかと思いましたよ」
シスターマリアはイスを見て微笑む。
「可愛い子ですね。ジンさん達の子供ですか?」
「........えぇ。俺達の子です」
このシスター、いきなり異能を使って質問してきやがった。
魔力が脳に向かって動くのを探知できなかったら気づかずに答えてたぞ。
「そうですか。私が調べたところによると、傭兵の皆さんには“兄の子”と言っているそうですね?」
しまった。適当についた嘘が、ここで俺達に牙を剥くか。
シスターマリアの顔はニコニコとしているが、その後ろからなにかヤバそうなオーラが見える。
のほほんとした雰囲気に騙されたが、このシスターは司教の地位にまで上り詰めたハーフエルフだ。
ただのドシッ子シスターでは無い。
なんて答えようか迷っていた俺が口を開くよりも先に、花音が口を開く。
「
おいおいおい!!嘘かどうか分かる異能使い相手に、堂々と嘘を付いたぞこの子。
俺は背中から垂れる冷や汗を感じながら、シスターマリアの表情を見た。
場合によっては、教会は俺達の敵になるかもしれない。
そう思って見たシスターの顔は........
「そうですか。すいません。答えづらい事を聞いてしまって」
とても申し訳なさそうにしていた。
嘘を見破って尚、この表情をしているとは思えない。
まさか、今の花音の嘘を真実として捉えたのか?
俺は花音の方を見ると、花音はシスターに見えない角度で親指を立てている。
“やってやったぜ”と言わんばかりだ。
俺は軽く混乱しながらも、シスターマリアを味方につけるべく話しかける。
どうやったのかは知らないが、花音が上手くやってくれたのだ。
少し罪悪感が生まれている今なら、味方につけれるかもしれない。
「いえ、大丈夫ですよ。それより、なぜそのようなことを聞いたのですか?しかも、
「........なんのことでしょう?」
「とぼけないで貰いたい。イスが俺達の子か?と聞いた時、異能を使ったよな?脳に向かって魔力が動いていた。間違いなく異能を使っている」
「........」
シスターマリアの顔が一気に暗くなる。
俺は構わずに言葉を続けた。
「モヒカン........じゃなくてジーザンから聞いた。どうやら俺の事で色々と揉めているようだな?冒険者ギルドが俺達のことを他国の間者だと騒ぎ立てているんだとか」
「はい。あなた方には謎が多いです。拠点がどこなのか、資金はどうやって調達しているのか。分からないことが多すぎます。傭兵ギルドと衛兵はあなたを庇っていますが、冒険者ギルドは確信を持って騒いでいます」
「教会は?」
「疑ってはいますが、証拠がないといったところです」
異能はまだ使っている。
今なら俺の言った事が本当かどうか分かるだろう。
「俺達
「........」
「まぁ、信じるかどうかはご自慢の異能で判断しな。あ、これ買ってきた肉ね。孤児院の子達に食わせてやってくれ。暇な時にまた持ってくるよ」
俺はそれだけ言うと、席を立って部屋を出ていく。
また今度来た時その答えは聞けるだろう。
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パタリと閉められた扉の音を聞きながら、シスターマリアはどっしりと置かれた麻袋の中を見る。
「うわ、すごい量のお肉ですね。これなら子供たちも満足できますよ」
早速調理しよう麻袋を持つが、あまりの重さに持ち上がらない。
そこで気がついた。
麻袋の横にもう1つ小さな袋が置いてある事に。
「これは忘れたのでしょうか?」
シスターマリアはその袋の中を覗くと、固まってしまう。
袋の中にはぎっしりと金貨が詰まっていた。
そして、その中に“寄付”とだけ書かれた紙も見つける。
「あの言葉も全て真実でしたし、私は........いや、私達はなにか勘違いしているのですかね........」
シスターマリアはジーザンに話を聞こうと心に決めたのだった。
そしてこの日から、教会は中立の立場を取るようになる。
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