ハーフエルフの司教
モヒカンに連れられてたどり着いた孤児院では、大勢の子供たちと一人のシスターがいた。
その一人のシスターと、モヒカンが少しイチャついているのを見せつけられた俺達は、早くも帰ろうか悩む。
これ、俺たち邪魔じゃね?と。
シスターの表情を見るに、モヒカンをの兄であるジーザスと重ね合わせているのだろう。
明らかに見る目が違っていた。
そして、そんな美人に見つめられたモヒカンも、平静のフリはしているが内心バクバクだろう。
「俺達は、寄付と肉だけ置いて帰るか。モヒカンの邪魔してまでこの街の勢力図を変えたいとは思わないし」
「それがいいね。人の恋路を邪魔するのは良くないよ」
「帰るの」
俺達が買ったばかりの肉を近くにいた子供に渡して帰ろうとすると、モヒカンが余計なことを言う。
「今日は俺以外にも客がいるぜ」
「あの三名ですか?」
「あぁ。俺と同じ傭兵ギルドのダチでな。たまたま会ったから連れてきたんだ。おい!!ジン!!何勝手に帰ろうとしてんだよ!!」
お前は何勝手に俺達を紹介してんだよ!!
お邪魔蟲はさっさと帰ろうと思ったのに、これでは帰れないではないか。
俺は、シスターに紹介される前にモヒカンを呼び寄せる。
モヒカンは少し怪訝な顔をしたが、大人しく従ってくれた。
「なんだよ俺を呼んで........もしかしてシスターに惚れたのか?」
「んなわけねぇだろ。美人だとは思うが、惚れはしない。お前と違ってな」
「べ、べ、べ、別に惚れてなんてねぇけど?」
モヒカンは滅茶苦茶分かりやすく動揺した。
そんなにはっきりと声が震える人、初めて見たわ。
そのあまりの動揺っぷりに、俺も花音もイスも冷めた視線を送る。
「な、なんだよ........」
「いや別に?おちょくるネタが増えたなとか思ってねぇよ。ウン。こんなに分かりやすく動揺してるとか笑えるとか思ってねぇから」
「思ってるだろそれ!!」
「全然全然!!そんなこと思ってないって!!あんな美人のシスターと犯罪者予備軍のモヒカンが釣り合うわけねぇだろ夢見んなとか思ってねぇから」
「てめぇ!!」
モヒカンが俺を掴もうとするが、そんな遅い攻撃を喰らうわけが無い。
俺はヒョイとモヒカンの攻撃を躱すと、近くでそのやり取りを見ていた孤児達に命令する。
「さぁ!!勇ましき勇者達よ!!大魔王モヒーカンを討伐してしまえ!!」
モヒカンがシスターといちゃついている間に、孤児たちの心は掴んでいる。
それに、楽しそうだから子供達は乗ってくれるだろう。
「大魔王モヒーカン!!かくごー!!」
「そうだ!!マリア姫はぼくたちが守るんだ!!」
俺の先導につられた子供たちが、モヒカンへと向かっていき、ポカポカとモヒカンを攻撃していく。
モヒカンは毎日自分を鍛えている傭兵だ。満足に飯を食べれていないやせ細った子供達など、その気になれば振り切れる。
が、それでは怪我をさせてしまう。
モヒカンは、忌々しく俺を睨むが俺は何処吹く風だ。
それどころか、睨んだ恐ろしい顔を見た子供たちの攻撃がさらに激しくなる。
「おい、ちょ........」
モヒカンは子供に反撃する訳にも行かず、ポカポカと殴られ続けた。
まぁ、加減を知らない子供の攻撃だとしても、モヒカンにとってはタンスに小指をぶつけるよりは軽い。
大した怪我とかはしないから放っておいていいか。
「ふふ。みんな楽しそう」
そして、その様子を見て微笑むシスター。
子供の孤児の一人が言ってたな。“マリア姫”って。
その微笑む姿は、姫と言うよりは女神に近い気もするが。
俺達は子供に遊ばれるモヒカンを放っておいて、シスターの所へと足を運んだ。
「貴方達がジーザンさんのお友達ですか?」
「まぁ、そんなところですよ。はじめましてシスター。俺は傭兵団
「花音だよーよろしくね」
「イスなの」
流石にシスター相手に最初からタメ口は辞めた方がいいかと思って敬語を使ったが、花音とイスはそんなこと知ったことでは無いと言わんばかりにタメ口で自己紹介をする。
俺達の名前を聞いたシスターは少し何かを思い出すかのように、上をに目を向けた後“思い出しました”と呟いて俺にペコりと頭を下げた。
「はじめまして。私はアゼル共和国バルサル教会の司教マリアです。気軽にマリアと呼んでください。よろしくお願いしますね“
「ご存知でしたか。俺が巷で噂........もうあまりされてませんが、その“
「あのバルサル最強の“双槍”バカラムを圧倒したとか。私はあの時その場にいませんでしたが、驚きましたよ。バカラムさんとは長い付き合いですから、その強さも知ってますし」
「へぇ?バカラムとは長い付き合いなんですか」
「はい。私がここの司教になってからの付き合いなので、もうかれこれ10年以上の仲ですね」
........ん?この人幾つなんだ?
この見た目からして、20代だと思っていたのだが、10代で司教になれるほど教会は甘くない。
というか、この国でこの人より偉い教会関係者は大司教しかいないはずだ。
神聖皇国のイージス教の場合は、神聖皇国以外に教皇と枢機卿はいてはならないのだ。
俺は、宗教関係が嫌いであまり真面目に調べてないから詳しくは知らない。
というか、マリア司教じゃなくてみなからはシスターマリアって呼ばれてるのか。
なんかおかしくね?とは思うが、本人が気にしてないなら別に突っ込むことは無いだろう。
俺の反応を見て、シスターマリアは静かに微笑む。
「見た目と年齢が合わないですか?」
「えぇっと........まぁ、はい」
女性に年齢の話は禁句だ。ベオークですらその話をすると怒る。
種族は違えと、女は変わらないという訳だ。
今回は本人から持ちかけられた話なので、問題ないと判断しつつ、地雷を踏まないように気を配る。
こういうのほほんとした人ほど、地雷を踏んだ時の爆発力が凄いことを俺は知っている。
「ふふ。そんなに警戒しなくていいですよ。私はハーフエルフなので、寿命が人よりも長いと言うだけですから」
「ハーフエルフ?でも耳は........」
「ハーフエルフだからと言って、必ずしも耳がとがっている訳ではありませんよ」
へぇ、そんなんだ。
俺はてっきりハーフエルフはエルフのように耳が尖っているものだと思っていた。
ってか、そんな報告聞いてないけどなぁ。
「私が見たよ。年齢は46だったはず」
俺の心を呼んだかのようなタイミングて、花音が耳打ちをしてくる。
なるほど、花音の方に報告が行ってたのか。
それにしても羨ましい限りだ。46歳でこの美貌を保っていられるなんて、エルフの血は偉大だな。
ハーフエルフに限らず、エルフはその若々しさを長い年月保つことが出来る。
まぁ、そのせいでかつては問題があったりもしたが、今では女性からは羨ましがられ、男性からはモテるという訳だ。
「エルフってすげーな」
「羨ましいよ。何もせずとも若さを保てるのは」
そう考えると、イスはどうなるのだろうか。
3年間成長を見続けているが、これと言って変わったところはない。
........もしかしてずっとこのまま?
成長して、師匠のように綺麗でかっこいい美人になるのか、それともこのシスターのように綺麗になるのか気になるが、俺はこのまま可愛らしいイスのままでいて欲しいとも思うのだった。
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