どっちもどっちなの
適当な店で肉を大量に買った俺達は、モヒカンに連れられて孤児院を訪れる。
かつては白く綺麗だったであろうその孤児院は、長い年月をかけて茶色く汚れており、服に着いたシミ汚れの様になっている。
お世辞にも、綺麗な孤児院とは言えなかった。
孤児院の横には申し訳程度の小さな庭があり、そこを子供達は遊び場にしている。
狭い庭を上手く使ってかけっこをしていた。
「ここが孤児院か。確か、教会が運営してたよな?」
「そうだったと思うよ。シスターが先生を務めているんだし」
「孤児院の運営は、教会へのお布施から賄われていたはずだけど、お布施なんて精々大銅貨当たりが限界だもんな。そこから子供達の食費とかに回すって考えれば、金がいくらあっても足りないか」
「シスター達の給料とかもそこら辺から捻出しなきゃいけないから、もっと予算は少ないよね」
ボロボロと言うには小綺麗だが、十分ボロボロになっている。
庭を走り回る子供達を見れば、それなりの扱いはされている様だがやせ細っているのがよく分かる。
4人家族の一般家庭が、一月を普通に生きていくのに必要な金額が大銀貨4枚。
そう考えると、子供が50人近くいるこの孤児院で必要な資金は、月に大銀貨50枚つまり、金貨5枚となる。
まぁ、実際は家代など諸々込みで大銀貨4枚なので、もう少し必要な金額は減るが。
庭で遊んでいた子供達はモヒカンを見つけると、笑顔で駆け寄ってくる。
相当子供達から好かれているのだろう。誰一人として、その凶悪そうな顔を恐れていない。
「人気者だな」
「馬鹿言え。ガキは限度を知らないからな。相手するのが大変だぞ」
口ではそう言いつつも、顔は緩んでいる。
やっぱり根はいい奴なのだろう。
「おじさん!!今日もきたの?」
「おう、この偉大なるジーザン様が来てやったぞ!!」
「遊ぼ遊ぼ!!」
「ダメだよユーリ。おじさんはシスターが目当てなんだ。僕達は口説き落とすための道具なんだよ」
「おいコラザラ!!どこで覚えたそんな言葉!!」
モヒカンの周りには、あっという間に子供の輪が出来上がっており、モヒカンは一人一人それの対応をしていく。
中にはヤンチャな子もいるようで、モヒカンの脛を蹴っ飛ばしてモヒカンにお尻を叩かれる子もいた。
「本当に人気者だな」
「お兄さんがこの孤児院を支援していた頃からちょいちょいついて行ってたみたいだから、結構長い付き合いなんじゃない?調べた感じ、6年間は間違いなくこの孤児院に寄付とかしてたみたいだし」
「........ってか、6年も孤児院の面倒を見てたのにシスターといい雰囲気になったのは最近なのかよ」
「あれじゃない?顔が凶悪だがら、警戒心の方が強かったんでしょ。第一印象が悪いと、それを引き摺っちゃうでしょ?」
「その人の見方は第一印象で決まるって言われるぐらいだしな。確かにあの犯罪顔の第一印象は悪そうだ」
むしろ、第一印象が良かったらびっくりだ。
今この光景だって、何も知らない人から見たら子供を誘拐しようとする犯罪者に見えなくもないもん。
俺達がぼやっとモヒカンと子供達のやり取りを見ていると、孤児院の奥から1人のシスターが駆け寄ってくる。
純白のシスター服に身を包み、金貨よりも輝く金色の目と髪。出るところは出て、締まるところは締まっている完璧なスタイル。
男であれば、誰しもが鼻の下を伸ばしそうなほどの美女だった。
「すげぇ美人だな」
「綺麗な人だねぇ。コレでドジっ子とかなら物凄く人気でそう」
「綺麗なの」
花音の言う通り、コレでドジっ子なら文句なしの100点満点をあげたくなるような程綺麗な人だ。
今は亡きジーザスは、このシスターといい雰囲気になってたのか。リアル美女と野獣だな。
そして、その弟であるジーザンの気持ちもよくわかる。見た目だけで言えば、これは間違いなく惚れますわ。
「ハァハァ。ジーザンさん。今日も来てくれたんです────────きゃ!!」
走って近寄ってきたシスターだったが、ジーザンの目の前で思いっきり転ぶ。
ジーザンは慌てて手を差し伸べ、シスターの身体を抱き留めた。
「だ、大丈夫ですか?」
「あっ、すいません。ありがとうございます」
頬を染める2人、一体俺たちは何を見せられてるんだ?
「何も無いところでコケたぞあのシスター。もしかしなくてもドジっ子か?」
「ワザとってわけでも無さそうだし、これは正真正銘のドジっ子かもね。色んな人を無意識に勘違いさせてそう」
「ジーザンの奴、俺達にこの関係を見せつけたいが為に誘った訳じゃないだろうな?」
「........私も何も無いところで転んだほうがいいかな?仁もその方がキュンと来る?」
「虫唾が走るから冗談抜きにやめてくれ。俺は普通にしてる花音の方が好きだから」
「えへへーそっか」
花音は少し嬉しそうに呟いた。
そして、それを見せられたイスは
「どっちもどっちなの」
俺達に聞こえない程度の音量でそういうのだった。
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人々の目から上手く隠れ逃れている悪魔と魔王。
魔王が封印されているその場所で、悪魔達は時が来るのをじっと待っていた。
「そろそろか?」
「あぁ。我々の仕事も一旦ここで終わりになる。暫くは暇になるだろうな。その時に我らが生きているかどうかは知らぬが」
「そう言うなよ。俺達は死なないさ」
悪魔の1人が笑うと、それにつられてその場にいるもの達も笑う。
彼らは死を恐れていない。
この世に生を受けてからというもの、全ては主人である魔王のために動いてきた。
それは今も、これからも変わらない。
「そう言えば、今回は随分と復活までの間が長いな。何かあるのか?」
「どうも、他の魔王様達も一緒に復活するらしい」
「........なぜだ?魔王様の目的はアレだろう?全て纏めて復活するれば、どうなるか分からんぞ?」
「そこら辺は俺に聞かれても困るよ。魔女がそう言ってただけなんだ」
“魔女”の名を聞いて、悪魔は不快感を顕にする。
「魔女......か。やはり奴は嫌いだな」
「むしろ好きなやつが居たら見てみたいね。魔王様の言いつけが無ければ、今すぐにでも殺しに行っているさ」
「同感だな。不快な人間は多いが、その中でも魔女は特に不快だ。心の底から死んで欲しい者など、そうそういないのだがな」
悪魔はつまらなさそうに鼻を鳴らした後、そこに眠る魔王の魂をを見る。
魔王の魂。それを見ただけで、格が違うのが分かってしまう。
悪魔は震え上がると同時に歓喜する。
見ただけで格の違いがわかる。では、戦えば........?
その答えは明白であり、悪魔は静かに微笑んだ。
「あぁ、その時が楽しみだ」
悪魔はそう言うと、静かに笑うのだった。
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