反面教師
ローゼンヘイス家の夕食をご馳走になった次の日。
俺達はイスとの約束通り、遊ぶことにした。
三人だけでわちゃわちゃするのかと思ったら、イスは大人数がいいらいしので団長特権を使って全員を招集。
そして、今回は以前氷合戦に参加出来なかった厄災級魔物達とメインで遊ぶつもりだ。
「ほう。このメンツで遊ぶとは中々豪勢だな団長殿。まだ三体ほど来てないが........」
「だろ?とは言え、流石にアスピドケロンは参加出来ないし、ウロボロスも結界の維持があるから参加出来ないけどな」
あの二人はあの二人で他の遊びを考えて遊んでもいいのだが、どうも二人とものんびりと俺達の日常を見るのが好きなようだった。
正確には、俺たちの様子を楽しそうに見るアスピドケロンを楽しそうにウロボロスが見ている。
やっぱり、ウロボロスはアスピドケロンの事が好きなのだろうか?
思えば、あの島にいた頃とは違ってウロボロスはかなり穏やかになっている。
最近は、リンドブルムとの口喧嘩とかも聞かないしなぁ。
俺がそう思っていると、最後の面子が姿を現す。
「ガルゥゥゥ!!」
「ゴルゥ」
「「「「グルゥゥゥゥゥ」」」
「フェン!!こっちおいでー!!」
「ガルゥ!!」
フェンリル、マーナガルム、ケルベロスの三体も今日の大乱闘の参加者だ。
これで全員役者が揃ったな。
既にモフられているフェンリルは、気持ちよさそうに花音に頭を擦りつけている。
そして、その様子を見て、マーナガルムが負けじと俺に尻尾を巻き付けると言ういつもの構図が出来上がる。
チラリとケルベロスを見ると、既に見慣れた光景なためかものすごく落ち着いていた。
........いや、よく見ると尻尾が物凄く揺れている。
もしかして、今から遊ぶのが楽しみなのだろうか。
見た目は少し怖いが、結構可愛いところもあるんだなと思いつつ、俺はマーナガルムをモフりながら話し始めた。
「んじゃ、今回の参加者集まったし始めるぞー」
俺の声に、バラバラと話していた厄災級魔物達が一斉にこちらをむく。
今回の参加者はファフニールが言う通り本当に豪勢だ。
先程来たばかりのモフモフの三人組に加え、“原初の竜”ファフニール、“終焉を知る者”ニーズヘッグ、“流星”リンドブルム、“死毒”ヨルムンガンド、“強大な粉砕者”ジャバウォックの5名も参加してくれている。
それと、俺と花音。そしてイスの計11人だ。もしかしたら、モーズグズとガルムも参加するかもな。
あ、いや、アイツらは審判の仕事があるから無理だわ。
アンスール達は防衛の為に残ってもらっている。
三姉妹と獣人たちに関しては、そもそもこの遊びに着いてこれないので除外だ。
「はーい。今回やるのは、大乱闘ね。ルールは簡単。自分以外は敵、全員ぶっ飛ばせ。ただし、殺すような威力の攻撃は無しなのと、マトモに一発貰ったら退場だ。後、あくまでも遊びだから、本気になりすぎるなよ。つまらん殻籠りとかはやめるように。質問ある人」
質問があるか聞くと、ファフニールが代表して質問をとばしてくる。
「能力の使用は?」
「問題なし。とはいえ、やりすぎはダメだぞ?特に、イスの世界をぶち壊すのとか使うなよ?」
「それ、団長殿が一番気をつけねばならんだろう?我らが“
「........そういえばそうだったわ」
俺は当たり前のように壊せるから、それを前提に話していた。
世界を壊せるのは俺だけか。
厄災級魔物の団員の能力って分かりずらかったり、何コレって言うのが多いから壊せる手段があるのでは無いか?と思ってしまう。
「ま、まぁ、熱くなりすぎて怪我をさせるとかはダメだぞ。もし、誰か怪我したら全員罰を与えるからな」
ピクリ、と全員が不自然に動く。
罰。
それは、この傭兵団を結成した時からある決まり事のひとつだ。
基本最低限の仕事だけしていればあとは自由と言う巫山戯た傭兵団だが、秩序は必要だ。
そのための罰である。
とは言え、滅多に罰を下すことは無い。
罰の存在は知らせているが、実行したこともない。が、何故団員全員が恐れるのだ。その罰を。
正直、厄災級魔物相手にどんな罰が効くんだよとか頭を悩ませていたりする。
ちなみに、罰がなんなのかを花音があることない事吹き込んでいたそうなのだが、この時の俺はそのことをまだ知らない。
裏で何を勝手に吹き込んでるんですかねぇ........
「さて、それじゃ行くか。イス」
「はいなの!!」
イスは元気よく返事をすると、その場にいた全員を霧の中へと誘う。
冷たく白い霧が頬を撫で、その霧が晴れればいつもの凍った世界がその姿を見せた。
「お待ちしておりました。イス様........と団員の皆様」
「バウ」
深々と頭を下げるモーズグズと、可愛らしく尻尾を振って俺達を出迎えるガルム。
モーズグズのやつ。全員名前までは知らないから、端折ったな。
「モーズグズ。ガルム。今日はよろしくな」
「はい........」
静かに頷くモーズグズだが、その表情は何か言いだげだ。
「何か言いたいことでもあるのか?」
「あっ、はい。そのーさっきのお話を聞かせてもらったのですが、出来れば私達も参加させて頂きたいのです」
「あ?」
俺へのお願い。
モーズグズが俺になにか頼むことはまず無い。と言うか、今回が初めてだ。
基本、イスの親である俺に礼節を尽くしてくれる人........人?だからな。
そして、そんなお願い事を聞いた俺が何か言う前に、イスが割とドスの効いた声で『あ?』と聞き返していた。
モーズグズへの当たりが強いとは思っていたが、ここまでとは。
親としては注意するべきなのだろう。だが、モーズグズが少し恍惚とした表情をしているのが困る。
モーズグズがこういう趣向の人だがらそれに合わせてあげているのか、単にイラついているのかが分からない。
イスって滅多に怒ったりしないし、表情の隠し方が上手いのだ。
演技なのか、素なのか分からないやり方をする。
........いや、だとしても注意するべきだわ。
モーズグズが異常云々以前の問題だわ。
「イス。あまり高圧的になるのは良くない」
「え?でもママとかよくなるよ?」
「........」
そう言われると何も言えない。
俺は花音を睨むが、当の本人はのほほんとフェンリルの毛並みにくるまっていた。
後で覚えとけよちくしょう。
「あーイス。モーズグズはイスの部下なんだろうけど、あまり圧をかけるのはやめた方がいい。他人から見て、“この人は自分より下の人にこういう態度をとるんだ”と思われる。人の心象ってのはそう簡単に変わらないからな。気をつけた方がいい」
「分かったけど、ママとパパの場合は?」
「花音は常識が欠けているんだ。歳をとると、幼い頃からの癖が残る。個性は大事だけど、大衆の中での常識は持ち合わせておこうな。人からの心象は生きていく上で大切なんだ。俺は........俺も似たようなもんだわ」
よくよく思い返すと、どっかの偉い糞ジジイ相手にとんでもなく喧嘩腰でで話してたりしてるわ。
俺は開き直った。
「俺も花音も人として見るとダメ人間の部類だ。俺達を反面教師にして学んでいくんだぞ」
「それでいいのか団長殿........」
ファフニールの声は聞こえないふりをした。
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