大乱闘①
「........で?なんでワタシが呼ばれタのですカ?」
少し不機嫌なドッペルが、氷の世界の中を見渡す。
俺は、そんなドッペルの肩に手を乗せる。
「しょうが無いだろ?審判はいるんだ。アンスールは皆の夕飯作りとかあるし、メデューサの場合は自分も混ざろうとするだろ?吸血鬼夫婦は今他の仕事をしてもらってるから無理。消去法で比較的暇なドッペルになってしまった訳だ。三姉妹と獣人達はそもそも審判役にはなれないし」
「ワタシも一応魔道具の作成がアルんですガ........?」
「今作ってんのは趣味のだろうが。なんだっけ?立体映像転送装置だっけ?」
「ハイ。作れたら凄いですヨ。理論上はできるハズなので、作ってみヨウかと」
すげぇな。そんなSFファンタジーのような道具が理論上は作れるのか。
それに関しては、少し興味があったりなかったりするが、今はその話をするときではない。
「要は暇だろ?それとも、書類整理でもするか?」
「審判役、慎んでお受けしマス」
結構食い気味だった。
どんだけ書類仕事をしたくないんだよ。
俺は相変わらずすぎるドッペルに苦笑いを浮かべながら、ルールを簡単に教えるのだった。
「じゃ頼んだぞ」
「ハイ。公平なジャッジを心がけマショウ」
ドッペルはそう言うと、審判が立つ為の氷の山へと駆け上がっていく。
なるべく巻き込まれない位置で、更に全体がよく見える場所だ。
俺はドッペルが登りきったのを確認すると、最後の確認を団員達に行う。
ルールのおさらいだな。
「ルールは簡単!!攻撃くらったらアウト!!残ったやつが勝者だ!!負けた奴は審判の近くにいろ!!それと、手加減を忘れるなよ!!後、追加でもうひとつ!!霧の中に入るのもダメだ!!審判から見えなくなるからな!!」
イスの異能は急速に成長している。
前までは2.3km程度の霧を晴らすことしか出来なかったが、今では半径50km程度の霧までなら晴らせるらしい。
この世界のイスは本当に何でもありだな。
俺は、ルールをちゃんと理解したかどうか団員達の顔を確認していく。
うん。問題なさそうだな。
「それじゃ、くじ引きで決めた位置に付いてくれ!!」
今回やるのは大乱闘だ。
こんなに皆で固まった場所から始まったら、瞬殺である。
誰が勝つかは分からないが。
そのため、全員にはくじを引いてもらって初期位置を決めてもらった。
イスの異能のおかげで、半径50kmの円の中には様々な地形の場所がある。
果たして空を飛ぶドラゴン達に意味はあるのか?とは思うが、無いよりはいいだろう。
空を飛ぶ者達が多くいる中、空を飛べないヨルムンガンドやジャバウォックはトテトテと歩いていく。
1歩がとてつもなく大きいから歩く速度速いが、なんと言うかちょっと可愛い。
あんな感じのぬいぐるみがあったら、多分買うな。
「ヨルムンガンドとかジャバウォックって案外可愛いよな」
「結構寂しがり屋だからねぇ。ジャバウォックに関しては、ラナーと話したいが為に言葉を覚えてたし」
「恋する乙女かよ........んで、花音?お前もはよ位置につけ」
「はーい」
花音は鎖を身体から出すと、そのまま空を飛んでいく。
三姉妹と仲がいいのは知っているが、やはり知らない部分もある。
長年一緒にいる花音ですら知らない事はあるからなぁ........
ちなみに、くじ引きの結果俺のスタート位置はドッペルのいる真下である。
移動がないのは楽である。
しばらく待つと、全員位置についたようでドッペルが拡声器の魔道具を使って声が聞こえるかの確認を行う。
『皆サン、準備はいいデスカ?』
返事はない。
が、全員やる気満々のようで、相当な量の魔力があちこちから溢れ出ているのが分かる。
大丈夫か?これ。
俺ちゃんと手加減するように言ったよな?
常人ならば、その魔力の圧だけで失神してしまいそうなレベルである。
『問題なさそうデスネ。ソレでは、カウントダウンの後“スタート”と言うノデ、それに合わせてくだサイ』
ドッペルはそう言うと、5からゆっくりとカウントダウンを始める。
4
先程から溢れていた魔力が徐々に大きくなっていく。
3
練りあがっていく魔力と同士に、闘志が巻き起こる。
2
練り上げられた魔力は爆発のときを待つ。
1
練り上げられた魔力が嘘かのように消え去る。
『“スターt”──────────』
その瞬間。世界の終わりを見た。
巨人の槍が、
氷の牙を持つ獣の怒りが、
無数に流れ落ちてくる流星が、
天からの裁きかと錯覚する具現化された鉄槌が、
巻き起こる暴風が、
天をも喰らう影が、
地獄を彷彿とさせる炎が、
全てを死に追いやる毒の渦が、
終わりを告げる道筋が、
全ての始まりを持った炎が、
世界を創造した砕けぬ氷塊が、
黒く塗りつぶされた鎖が、
霧に囲まれた半径50km程度の円の中で入り乱れ、炸裂し、弾け、腐食し、壊し、燃やし、轟き、抉り、光り輝き、闇に飲まれ、荒れ狂い、雷を落とし、呪縛し、終焉を告げる。
作った意味があるか?と思われた様々なフィールドは瞬時に更地となり、残ったのは氷の大地のみ。
ここに吟遊詩人がいれば、後世に語り継がれるだろう光景が一瞬で繰り広げられた。
「おいおい。みんな張り切りすぎじゃね?」
俺は試合開始から1秒も経たずに創り出されたこの光景に呆れながらも、黒く染まった不壊の盾でその全てを受け止める。
「
俺を直接襲ってきたのは二つだけ。
リンドブルムの流星と、イスの氷塊だ。
リンドブルムの流星はなんとでもなるが、問題はイスの氷塊だ。
あの子、ここにいる全員を思いっきり巻き込むつもりらしく、この霧の晴れた薄暗いフィールド全てを塗りつぶす大きさの氷塊を落としてきやがった。
リンドブルムですら遠慮した一手を容赦なく落としてきたのだ。
まぁ、多分イスは“この程度ならみんな対応できるよね”と思って撃っているのだろう。
見た感じ、リンドブルムの流星よりは威力や破壊力は劣るからな。
だとしても、えげつない手には変わりないが。
俺以外の全員が初動で相手を潰そうとしている中、この氷塊。
外装の鱗が硬いドラゴン達ならばまともに喰らってもなんとでもなるが、今回のルールではまともに喰らったら負けなのだ。
ルール上、防御しなければならい。
そして、防御に回るということは、イスに攻撃の主導権を渡すことになる。
ただでさえ、この世界はイスの世界であり、イスの意志によって好き勝手ねじ曲げれるのだ。
イスが、その気になれば絶対零度の凍てつく世界に変えられてしまう。
今回はさすがにそこまではやらないと思うが。
圧倒的に優位なイス相手に、更に有利を渡すということは、それ即ち敗北を意味する。
「可愛い顔してえげつねぇ事考えるな........」
幸い、氷塊の落ちてくるスピードは遅い。
俺は溶けない大地を抉る程の威力を持つ流星を盾で受け止めながら、他の団員たちの動きを見ることにした。
初動でとんでもない地獄絵図を生み出した団員達の対応は、それぞれだった。
“流石にあれは守らないと不味い”と、防御耐性に入る者。
“氷塊砕けばよくね?”と、氷塊に向かっていく者。
“氷塊が落ちる前に勝てばヨシ!!”と脳筋すぎる者。
対応は様々だ。
そんな時、ドッペルの声が響く。
『ガルムサン。アウトです』
脱落者だ。
流石に、厄災級魔物達による絶望のオンパレードを避けきることが出来なかったみたいである。
さて、俺はどうしようかな?
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