怠惰、強欲、憤怒の魔王
地脈を探せ
嫉妬の魔王レヴィアタンの死亡を確認し、魔王の封印場所についての手がかりを掴んだ次の日。
俺達は早速、地脈についての情報を集めていた。
のだが........
「........地脈についての文献が見つかってないみたいだな。こりゃ難航しそうだ」
「ハッキリと“地脈”って明言されているものは無いね。どれも“魔力溜り”って書いてあるし、詳しいことは載ってないよ」
情報集めは難航していた。
地脈は大地の至る所にあり、その場所には魔物が集まる。
魔物が集まるような場所を態々研究する変わり者は少なく、それでいて危険が伴うので詳しく調査ができていない。
よって、俺たちの知りたい地脈についての情報があまり載っていなかった。
更に、研究者たちの間では“地脈”ではなく“魔力溜り”と呼び方が違ったり、“大地を走る魔力”ではなく“その土地に集められた魔力”と認識が違ったり。
聞いていた話と違いすぎるのも問題だった。
お陰で三姉妹や獣人達も混乱しており、俺に色々と聞きに来るのだが、俺も詳しいことは分かっていないので対応に困ると言う負の連鎖。
もう、怪しい情報は全部持ってきてと言ったら、今度はとんでもない量の報告書が積み上がってしまったのだ。
俺は山のように積み上がった報告書を見て、深くため息をつく。
おかしいな。アスピドケロンよりも、この報告書の山の方が大きく見えるぞ。
「ニーズヘッグやファフニールに聞いても、詳しい地脈の場所は分からないらしいし、どうしたものかねぇ」
「ファフが知ってれば楽だったんだけど、流石に世界に流れる地脈の全てを知るのは無理らしいからね。専門の知識がいるんだよ」
「人の体に例えれば、静脈や動脈って言う言葉は知ってるけど、どこをどう流れているのかは知らないって感じか。医者ならともかく、一般人には分からないよな」
更には、それを専門に調べている人達でも意見が分かれていたり、的はずれなことが書いてあったりするのだ。
もうどれが正しくてどれが違っているのかも分からない状態である。
「神聖皇国に情報を流して探してもらうか?俺たちよりも表立って動きやすいし、情報も多く手に入りそうだけど」
「それはちょっと無理じゃない?大体1ヶ月おきに魔王が復活してるのを考えると、1ヶ月以内には正確な情報がいるんだよ?移動やらなんやらの時間も入れると、次の魔王復活までに必要な情報が集まることは無いんじゃないかな?」
花音の言う通りである。
約1ヶ月のスパンで復活している魔王。このまま行けば、後三ヶ月で全ての魔王が復活するだろう。
幾ら神聖皇国に優秀な人材が揃っているとはいえ、ほぼ知識ゼロの状態からたった三ヶ月で調べられる情報には限度がある。
しかも、今回は強力な魔物が多く住む場所なのだ。
あまり派手に動きすぎるとあっという間に死ねるし、だからといって慎重になり過ぎれば時間が無くなる。
場所によっては、子供達ですら手をこまねいているのだ。
隠密、戦闘力がさらに劣る人達では到底無理な話である。
「唯一確かな情報は、
「地脈は基本繋がっているらしいから、そこを辿ればある程度の場所は分かるらしいけど、大陸全土の地脈を辿るには時間がかかりすぎるよねぇ」
「一応、子供達に辿らせて地図に書き込んでは貰っているけど、圧倒的に時間が足りないな。それに、場合によっては地脈が切れてるかもしれないんだ。運が悪ければそこで終わりだよ」
俺はそう言いながらも報告書に目を通すが、的はずれなことしか書いていない。
なんだよ“不浄の土地であり、女神の威光によって浄化されなければならない”って。もう少しマシなことを書けや。
そうやって少しイラッとしながらも、報告書に目を通していると聖堂の扉が開かれる。
そちらに目を向ければ、大量の紙束を持ったシルフォードがいた。
なんだそのギャグ漫画でしか見ない紙束の量は。前見えてないじゃん。
シルフォードは転ばないように気をつけながらゆっくり歩いてくると、ドン、と大量の紙束を長椅子の上に置く。
座っている俺よりも高く積み上がった紙束を見て、シルフォードは満足気に頷いた後俺に話しかけてきた。
「はいコレ追加。どうすればいいのか分からないのも入れてるから、すごい量」
「本当にすごい量だな。下に人を敷けば圧殺できそうだ」
「私もそう思う。ついでに、これを全て確認する団長さんとカノンも過労死しそう」
「全くだ。この量を二人で捌くとか無理じゃね?」
「うへぇ。多すぎるよ........もうちょっと絞れなかったの?」
「絞った結果、重要な情報が外れてても文句を言わないならやってもいい」
それは困る。偶に重要な情報が弾かれる時はあるが、そこまで困るようなことは無い。が、今回はそうも行かない。
なんせ世界の存続に関わることなのだ。
国一個滅ぶとかそういう次元の話じゃない。
俺は高く反り立つ紙束の山に軽く絶望しながらも、頑張るかと自分を鼓舞する。
「今日中に終わるかな........」
「まぁ、徹夜すれば行けるんじゃない?でも、明日ってリーゼンちゃんの家庭教師だよね?」
「そういえばそうだったな。徹夜はちょっと控えておくか」
「私達は人数多いから何とかなるけど、団長さん達は二人だけだから大変そう。やっぱり、もう少し絞る?」
半分死んだ顔をする俺を見て、シルフォードが心配してくれる。
その気遣いはありがたいし、正直飛び付きたいが、万が一重要な情報を見逃していたら終わりだ。
俺は泣く泣く首を横に振って、項垂れる。
「頑張る........」
「なんか、団長さんがこうやって萎れている所を見るのは新鮮」
「可愛いでしょ?こんなに可愛い仁を見れる機会は中々ないよ!!」
「可愛いかどうかは知らないけど、ちょっと見てて面白い」
サラッと酷いことを言うシルフォードと、“可愛い”を連呼する花音。
シルフォードはともかく、花音は俺と一緒にこの紙束の山を片付けなきゃならないのに、何故こんなに元気なんだ?
「本当は、昨日の夜にみんなでパーティーするつもりだったのに全員疲れててできなかったし、最近は予定が狂いまくるな」
「それを言ったら三年前から狂ってるでしょ。あの日から全てが変わったんだよ」
「それを言ったらお終いだろうが。俺は良かったと思ってるよ。この世界に来たことは。こうして愉快な仲間達が集まったわけだしな」
「団長さんがいなかったら私達は今頃悪魔に殺されてた。最初の出会い方こそ最悪だったけど、感謝してる」
どこか花音に棘のある言い方だが、それを聞いた本人は“仁に感謝しろよー”と言ってシルフォードの頬を突っついている。
突かれたシルフォードは、“そういう所”と言いながらも、少し嬉しそうに花音の頬を突きかえしていた。
何度も最初に出会った時の花音の対応をネタにしているものの、シルフォードも花音も今はさほど気にしていないようでよかったと思う。
出会い方は最悪に近かったからな。
鎖で縛り付けて木に叩きつけて気絶させてたし。
今こうして楽しそうに馴染めているのも、お互いの........いや、花音は違うか。シルフォードが寛容な心をもっているからだろう。
俺は二人が微笑ましくやり取りする百合百合しい光景に癒されながら、地獄のように積み上がった紙束に手を伸ばすのだった。
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