静かに蠢く
神聖皇国の首都大聖堂カテドラでは、魔王の居場所について特定が終わったとの報告を受けて三人の勇者たちが集められていた。
「ようやく見つかったのか?正教会国の時はともかく、その後の魔王討伐については後手後手だな」
「そう言うなよ龍二くん。旧サルベニア王国の時は国境問題があったし、今回に関しては場所が分かってなかったんだから」
「いや別にそれについて何か言うことはねぇよ?国境問題は解決しとけよとは思ったけど、場所が分からないのはしょうがない。問題は、神託さ。可笑しいと思わないか?明らかに神託のタイミングが遅すぎる」
「それ、私も思ったよ。四回の神託、正教会国を除いて全て1日以内だもん。普通、もっと早くに神託を下して対応を考えさせたりしないものなのかな?」
呼び出された勇者である高橋光司、赤坂龍二、黒百合朱那は、次の指示があるまでの待機時間に神託の異常さについて考えていた。
この世界の価値観と以前の世界の価値観を持ち合わせているからこそ、客観的に物事を見れる時もある。
神託に妄信的な神聖皇国の人達には、まず女神を疑うという思考がないのだ。
龍二は少し眠たげに欠伸をした後、雲ひとつない快晴の空を見上げながら話す。
まるで女神に話しかけるかのように。
「なんと言うか、人の犠牲はさほど考えてないように思えるんだよなぁ。魔王さえ討伐出来ればそれでよしって感じがしてならない」
「分かるよ。被害を抑えたいなら、あんなギリギリに神託なんて下さないもんね........もしかして、増えすぎた人間を間引きたいとか?その為に魔王を利用している?」
「ちょ、黒百合さん。流石にそれは言い過ぎだよ。もしかしたら、たまたま魔王の封印場所を見つけたのが1日前だったって可能性もあるんだよ?」
「それは無いな」
光司の言葉に食い気味にキッパリと言い切る龍二。
その顔は何かに確信を持った顔だった。
「傭兵団
「覚えているよ。仮面を被った人達だったよね?今じゃ彼らのグッズが売られているぐらいだし」
神聖皇国が魔王に襲われたあの日、影の英雄としてもてはやされたもの達の名を忘れるわけが無い。
更には、旧サルベニア王国にて魔王を討伐したと言う趣旨の手紙を残しているのだ。
表向きは勇者達が討伐したことになっているが。
「あの傭兵団がもたらした魔王の封印場所についての情報を忘れたのか?奴らは3ヶ月前に居場所を掴んでたんだぞ?」
「あ........」
魔王復活の情報は女神の神託よりも早く手に入っている。
そして、別に隠していた訳では無い為、女神はこの事を知っていたはずなのだ。
つまり、たまたま封印場所を前日に見つけたわけじゃない。
「な、なら、復活を感知したのが前日だったって線は?それなら辻褄も会うでしょ?」
「で?居場所は?」
「居場所は分かってるはずだから、先に知らせておいた方がスムーズだよねぇ」
何とか女神を擁護しようとする光司。そして、その情けない姿を可哀想なものを見る目で龍二と朱那は見る。
「なぁ、何時からこいつはイージスの女神を擁護するようになったんだ?女神には恨みも感謝もあるんだぞ?少なくとも、以前のコイツならもう少し疑うはずなのにな」
「これが新興宗教にハマった人の末路か........はっ!!もしやこれが聖女ちゃんの策略?!」
頭を抱える龍二と、ノリノリで演技をする朱那。
そんな二人を見て光司の顔は引き攣る。
“好き勝手言いやがって”とその顔には書かれていた事だろう。
とはいえ、言われっぱなしでは無い。三年間も一緒に過ごして分かったことは、言い返さないとしつこい程言われ続けるのだ。
「褐色おねが趣味の変態と、高嶺の花(笑)に言われてもねぇ........」
「「あ”ぁ”?」」
人を殺しそうな程の睨み顔。
とてもでは無いが、現在神聖皇国で最も人気のある者達がする顔ではなかった。
もし、握手を求めてきた純粋無垢な子供にこんな顔をした日には大泣きされるだろう。
子供どころか、大人ですら泣き出すかもしれない。
「おい、もっぺん言ってみろや。その綺麗な面に一発叩き込んでやる」
「ねぇねぇ光司くん。聖なる炎と浄化の光。どっちで死にたい?」
「どれも勘弁かな。僕はそんな野蛮人じゃないからね」
「よし、歯ァ食いしばれ」
「両方で死にたいんだ。贅沢だなー」
「うわ!!ちょ、本当にやらないでくれよ!!」
ギャーギャーと騒ぐ中、龍二は心の中でどこか懐かしさを感じる。
自由奔放な親友と基本それを止めない彼女。そして、それを止めようとする自分。
少し寂しくはあるものの、龍二は心の中で願う。
(なぁ、仁、花音。またお前らと騒げる日が来るのを待ってるぞ)
尚、魔王討伐に関しては旧サルベニア王国の時と同じ展開だった。
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闇に紛れた静かな世界。
そこには徐々に必要なものが集まりつつあった。
「これで四つめ。コチラはもうすぐ終わるな。アッチはどうなってる?」
「問題ない。とだけ言っておきます。彼女は問題なく仕事を遂行してくれるでしょう。そう言う契約ですしね」
暗闇で蠢く2つの影。
それが誰なのか分かるものは少ない。
片方の影は、背もたれに身体を預けると両腕を伸ばして身体を解した。
「まあ、失敗しても問題はないからいいか。それより連中は動いたか?」
「連中........
「あぁ。今動かれるのは不味いからな」
「問題ないですよ。監視を付けていますが、今のところ何か動きがあるという報告は上がってません」
「日和見主義なのが幸いしたな。動かれても大丈夫なようにはしているが、如何せん目立ちすぎる。下手に補足されると今後の計画がパーだ」
「一応、勇者の一人である黒百合朱那が
「一人。それも新人なら問題ない。間違っても攻撃するなよ........フリじゃないからな?」
もう片方の影がクスリと笑う。
「ふふ。そんなことしませんよ」
「いや、前科があるから言ってるんだぞ?冗談抜きでやめてくれよ。頼むから」
「分かってますよ」
自信満々に頷く影を見て、神妙な顔をしていた影はポツリと呟いた。
「不安だ」
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白が覆う銀色の世界。この世界とは違う場所で彼女は言った。
「ありがとね」
「いえ」
このやり取りだけが冷たい世界に響いたのだった。
これにて第二部4章は終わりです。第二部は次の章がラストです!!
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