地脈

 俺の異能が“終末アポカリプス”と言うものに分類される事は分かったが、本来それを聞くために態々この“死と霧の世界ヘルヘイム”に入ってきた訳では無い。


 目的は、不死王に色々と聞くことなのだ。


 ある意味、この異能についても不死王から聞き出せた事だけどね。


 俺は未だにブツブツと何かを呟いていた不死王を正気に戻した後、本来聞くはずだった質問をぶつける。


 「魔王はどうだった?」

 「ドウ、ト言ウノハ?」

 「戦って何か不思議に思ったり、気づいたことはないか?って事だ。例えば........監視の目が付いていたとか」

 「アァ、監視ノ目ハアッタナ。ワタシガ魔王ト戦ウ時ニ、ドコカラカ見ラレテイル感覚ガアッタ」


 やはり、不死王の時も誰かが監視をしていたようだ。


 そして、不死王の言い方からして、そいつの居場所は分からなかったらしい。


 俺の時も複数の視線を感じたし、恐らく剣聖の時もどこからかの視線は感じていたはずだ。


 あの時は俺達も監視側だったしな。


 神聖皇国の時も恐らくは誰かの視線があったのだろうが、あそこに関しては監視以外の視線も多かった。


 魔王と戦っていた光司や黒百合さん達が、何らかの目的を持った視線に気づくのは無理だろう。


 魔王との戦いを誰かがずっと監視している訳だ。


 同じ人物が監視しているのかは知らないが、常に目があると考えた方がいい。


 俺が頭の中でそう考えていると、不死王が他に気づいた事を話す。


 「後、“魔王”ト言ウ割ニハ弱カッタ。ワタシハ少シ出シ惜シミシタガ、ソレデモ優位ダッタシ」

 「それは何処でもそうだな。俺の時もあまり強くはなかったし」


 かつて、人類を絶望の底にまで追いやったとは到底思えないが、元は大魔王アザトースと言う1つの存在だったのが7つに分けられて封印されていたのだ。


 つまり、単純計算して強さは全盛期の7分の1程度。


 そう考えると、結構強いのではないかと思う。


 力が7分の1にまで落ちているにもかかわらず、その強さは厄災級魔物並だ。


 もし、これら全ての魔王が集まって元の姿に戻ったらどうなるかと思うとゾッとする。


 そりゃ、人類も魔王に支配されるわけですわ。


 更に、2500年のブランクもありそうだし、全盛期の頃の大魔王アザトースってとんでもなく強かったのではないかと最近は思っている。


 「他には無いか?」

 「他ハ........アレダ。地脈ノ魔力ヲ吸イ上ゲテイタト思ウ。コレハ推測ノ域ヲ出ナイガ」

 「地脈?なんだそれは」

 「簡単ニ言エバ、大地ニ流レル魔力ダ」


 へぇ、そんなものがあるのか。


 異能の事と言い、地脈の事と言い、まだまだ俺の知らないことが多いな。


 俺がそうやって話を聞いていると、ニーズヘッグがなにかに気づいたように大声をあげる。


 「あぁ!!地脈ですよ!!団長さん。魔王は地脈の近くにいるかもしれませんよ」

 「そうなのか?」

 「確証はないですよ?でも、1番可能性がありそうじゃないですか」


 確かに、可能性としては1番有り得そうではある。


 もう少し地脈について聞いた方がいいな。


 俺は1人で勝手に盛り上がっているニーズヘッグに、地脈について詳しく聞くことにした。


 え?不死王に聞けよって?不死王はちょっと話が聞きづらいんだよね........


 感覚としては、日本語のイントネーションが違う外国人と話している感覚だ。


 何を言っているのかは分かるんだけど、聞くのに神経を使うあの感じ。


 不死王には申し訳ないが、ニーズヘッグの方が話を聞きやすいので説明は彼に求めさせてもらおう。


 「さっき不死王が“地脈は大地に流れる魔力”って言っていたな。その大地に流れる魔力ってなんだ?」

 「そのままですよ。この世界に流れる魔力の事です。正確に言えば、大地に流れる魔力の量が多いところですね。流れる魔力だけだと、この世界全てが対象になりますし」

 「なるほど。何となく分かった。それで、地脈に魔王がいるかもしれないって言う根拠は?」

 「随分前の話なので、今はどうかわかりませんが、大抵大きな都市や国ができるところって地脈が通っているんですよ。地脈の近くは、魔力が空気中にも多く溢れているので魔物が集まりやすいんです」


 魔物の多くは、その身体を維持するために空気中の魔力をエネルギーに変える性質を持っている。


 特に大型の魔物はその傾向が強く、空気中に魔力を多く含む場所を好むのだ。


 まぁ、中には例外もいてその代表格がアスピドケロンだったりするのだが........それは別として。


 俺はニーズヘッグの言葉に頷く。


 「魔物が集まれば、それだけ資源が手に入る。魔物における脅威はあるけど、多少離れていれば問題は無いだろうし。本当に強い魔物はその魔力の集まる中心地にいるだろうしな。そこで上手く発展していった街が大きな都市になって国になる訳か」

 「そういう事です!!流石は団長さん。頭が冴えてますね。とはいえ、これは随分前の話ですし推測の域を出ないので色々と調べる必要はあると思いますよ」


 確かに調べる必要はあるだろうけど、恐らくニーズヘッグの予想は外れていない。


 神聖皇国の首都である大聖堂カテドラの近くには、魔物で溢れている森があるし、首都からは少し離れているが最上級魔物が出てくる森もある。


 正教会国に関しても、同じだ。


 あの遺跡がある場所には魔物が多く存在し、正教会国内には最上級魔物が出てくる森もある。


 旧サルベニア王国の近くにも多くの魔物が存在しており、中には最上級魔物だって生息していたはずだ。


 そして、このリテルク湖。


 ここの場合は、不死王とその愉快なアンデット達が多くいる。


 この森の近くで街が発展しなかったのは、いる魔物がアンデットだからと言う理由だけであって、おそらく普通に資源となり得る魔物がいたら近くに大きな街ができて大国になっていたかもしれない。


 他にも、獣王国や合衆国などの他の11大国も同じような感じだったはずだ。


 大エルフ国は違うが。


 「推測の域は出ないが、可能性はもの凄く高そうだな。子供達に色々と調べさせて見るとしよう。いい着眼点だぞニーズヘッグ。お手柄だ」

 「それほどでもないですよ。団長さんなら気づけたはずですし」

 「俺?俺は無理だな。ちょこっと調べて後はポイだ。よくやったぞニーズヘッグ」


 俺が褒めると、ニーズヘッグは少し恥ずかしそうに身体をクネクネと動かす。


 なんと言うか、喜び方がメデューサと同じ感じだな。


 「いやぁ、団長さんに褒められると嬉しいですね。リンドブルムの気持ちが少しわかった気がします」


 チョロい。


 ほかの厄災級魔物にも言えるが、ものすごくちょろいのだ。


 普段褒められたりとか全くしないからか、そう言うのに耐性が全くない。


 特に、好意を向けてくれる相手に対して弱いのだ。


 俺は頼むから変な奴に引っかかるなよと、心の中で思いながら再び放置してしまった不死王に話しかける。


 不死王は喜ぶニーズヘッグの姿を見て、毎度の如く口を開けて固まっていた。


 「不死王はなぜそこに?」

 「ン?アァ........理由ハ言エナイ。ガ、少ナクトモ、ウイルド殿ニ迷惑ハ、カケナイツモリダ」

 「そうか。まぁ、言えないなら無理に言わなくてもいいか。あ、それと1つ。戻ったら直ぐにその場を離れることをオススメするよ。異世界から来た勇者の話はしただろ?」


 不死王は頷く。


 「情報によれば、既にこちらに向かっているらしい。2時間もあれば着くだろうから、その間に身を隠した方がいいぞ。後、貴方が何をするのかは知らないが、出来れば戦争が終わってからにして欲しい」

 「戦争?」

 「あぁ。戦争さ。数年後に世界を巻き込んだ戦争が起きるはずなんだ。俺たちの目的はそれでね。出来れば、それまでは大人しくしていて欲しいんだ」

 「ナルホド。了解シタ」


 その後も軽く情報交換をした後、俺達は不死王と別れて拠点へと帰った。


 彼?彼女?どちらかは分からないが、また不死王とはどこかで会える気がするな。

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