世界樹、七大天使、原初、終末

 空から降りてきたイスと花音を抱き留めながら、俺は不死王の話を聞こうと提案する。


 色々と聞きたいことがあるのだ。


 「分カッタ。話ソウ」

 「助かるよ。あ、不死王ノーライフキング。寒いのは大丈夫か?」

 「........?問題無イ」


 俺の質問に首を傾げながら不死王は頷く。


 アンデットが寒さを感じるのかどうかは知らないが、もし、寒いのが苦手だったりしたら困るもんな。


 俺は、俺のお腹に頭を埋めるイスの頭を撫でながらお願いする。


 「ここにいる4人を連れて行ってくれ」

 「分かったの!!死と霧の世界ヘルヘイム


 イスは機嫌よく頷き、能力を発動。


 霧が俺達を覆う。


 不死王は突然現れた霧にピクリと反応したが、敵意が無いと分かったのか落ち着いていた。


 霧が晴れるとそこは極寒の地。相変わらず肌を抓るかのような寒さが俺達を襲う。


 これでも、最初の頃に比べれば随分と暖かくなったのだが、やはり寒いものは寒い。


 不死王は大丈夫かと心配して視線を移すと、またしてもポカーンと口を開けて固まっていた。


 驚き方がワンパターンだな。


 「ここなら余計な目は避けられる。どうだ不死王ノーライフキング。寒くないか?」

 「ア、アァ大丈夫ダ。マサカ、“世界樹ユグドラシル”ノ使イ手ニ会エルトハ、思ッテモミナカッタ」

 「“世界樹ユグドラシル”?」


 今度は俺が首を傾げる。


 イスの異能は“死と霧の世界ヘルヘイム”と言う名前であり、“世界樹ユグドラシル”というものでは無い。


 俺が何かを言う前に、ニーズヘッグが疑問に答えてくれた。


 「異能の種類ですよ」

 「種類?操作系とか領域系とかそう言うやつか?」

 「いえ、それとは違って、特殊系異能の中で強力な異能における別称みたいなものです」


 俺は言っていることがよく分からずに、さらに首を傾げる。


 つまり、どういうことだってばよ。


 「えーと、そうですね。1部の特殊な異能が継承されていくことは知っていますよね?」

 「あぁ。千里の巫女とか?」


 似た能力を継承していくって話だったはずだ。


 「それとは少し違うんですが、そんな感じです。簡単に言えば、以前の使い手かいたんですよ。その異能には」

 「マジか。イスの前に誰かがこの異能を持っていたって事か?」

 「そういうことです。そして、その中でも強力で似た性質を持つ異能には、それらを纏めて別の呼び名が付けられているんですよ」

 「それが“世界樹ユグドラシル”ということか」


 ニーズヘッグは頷くと、どこから取り出したのかホワイトボード(ドッペル作)とペンを蜘蛛達に用意させてなんか指示を出す。


 ニーズヘッグは身体が大きすぎて、マトモにペンとか持てないもんな。


 そして子供達よ。もしかして普段からホワイトボードとペンを持ち歩いているわけじゃないよな?ニーズヘッグが取り出したようには見えなかったから、多分子供達が影から出したと思うのだが........


 「アァ言ウ所ハ、昔カラ変ワッテナイ。ニーズヘッグサンラシイナ」


 サラッと放置されていた不死王が、俺の隣にやってきてどこか懐かしそうにせかせかと準備するニーズヘッグを眺めていた。


 昔と変わらないって事は、何万年も前にも同じようなことがあったわけだ。


 一体、この2人はどうやって出会ったのだろう。


 「すまんな。俺が余計な事を聞いたばかりに」

 「フフフ。大丈夫。ソレヨリモ、コノ白イ板ハナンダ?」

 「ホワイトボードってやつさ。専用のペンを使えば、ここに書いた物は消せる」

 「ホウ。ソレハ便利ダナ。今ハ、ソンナ物ガアル時代カ」


 少し欲しそうな目で見ていので、俺は慌てて補足を入れる。


 普通の店に、当たり前のように売っていると思ってはいけない。


 「あ、いや、これは俺たちが独自に作ったもので、普通は売ってないぞ。欲しかったら後であげるよ。それともうちに来るか?」

 「揺レ動ク者グングニルダッタカ?ニーズヘッグサンヲ見ルニ、楽シソウデハアルガ、ヤラナイトイケナイ事ガアル。モシ、ソレガ終ワッタ後モ、誘ッテクレルナラ、喜ンデ世話ニナロウ」

 「やるべき事?気になるじゃないか」

 「フフフ。ソレハ秘密ダ」


 少し楽しそうに笑う不死王。わざとらしく人差し指を口元に当てるその姿は、アンデットでありながらちょっと可愛かった。


 驚いて口を開けで固まっていたり、寡黙そうな見た目と違って感情豊かなやつなのかもしれない。


 そうやって雑談をしていると、ニーズヘッグの準備が終わったようでホワイトボードに様々なことが簡潔に書かれていた。


 「へぇ?4種類があるのか」

 「代表的なのがこのぐらいと言うだけです。実際はもっとありますよ」


 そこに書かれていたのは“世界樹ユグドラシル”“七大天使グレゴリウス”“原初オリジン”“終末アポカリプス”の四つ。


 なんかどれも凄くかっこいい名前をしているな。


 俺の隣でポケーッとホワイトボードを見ていた花音が、話しかけてくる。


 「七大天使グレゴリウスって朱那ちゃんだよね?」

 「多分そうだろうな。“四番大天使ウリエル”って名前だし」


 むしろ、これで“七大天使グレゴリウス”の分類じゃありませんとか言ったらびっくりだ。


 そして、その会話を聞いていた不死王が興味を示す。


 「七大天使グレゴリウスニ、知リ合イガ?」

 「知らないか?異世界から来た勇者の一人に天使の異能を持ったのがいるんだよ」

 「ソレハ知ラナカッタ。ヤハリ、外ノ情報ハ定期的ニ集メナイトナ」


 不死王はそう言うと、なにか1人でブツブツ言い始めた。


 何言ってるのか分からないので、とりあえず放っておいて次に行こう。


 「原初オリジンはファフニールか?」

 「そうなんじゃない?だって“原初の竜”ファフニールだよ?二つ名に“原初”って入ってて異能は別ですとかダサすぎでしょ」

 「確かに」

 「ファフニールさんは“原初オリジン”の一体ですね。だから滅茶苦茶強いわけです。ちなみに“原初オリジン”の異能は使い手が今まで一切変わっていません」


 なるほど。あのよく分からん能力は“原初オリジン”なのか。


 まぁ、別称が分かったところでどうしようもない感はあるが。


 そして最後“終末アポカリプス”。


 これは思い当たる人が居ない。名前からしてかなり強そうなのは分かるんだけどなぁ........


 そう思っていると、ニーズヘッグがとんでも無いことを言い始めた。


 「最後の“終末アポカリプス”は団長さんの異能ですよ」

 「は?俺の異能が“終末アポカリプス”?」

 「えぇ。“天秤崩壊ヴァーゲ・ルーイン”はとても強力な異能ですよ」


 サラッと重要なことを言うニーズヘッグ。


 確かに俺の異能は強力だが、そんな話1度も聞いたことがない。


 俺は少しパニックになりながら質問した。


 「他の団員達は知ってるのか?」

 「知ってると思いますよ。三姉妹や獣人達はともかく、厄災級魔物達は知っているでしょうね」

 「........ならなんで今の今まで誰も何も言わなかったんだ?」

 「団長さんが異能に頼った戦い方をするのを防ぐためでしょうね。ほら、強力な異能だと、それに頼った戦い方をする人って多いですよね?」

 「確かに........」


 強い異能なんだから、使わないわけが無い。


 灰輝級ミスリル冒険者だった“彗星”がいい例だ。奴はその異能の力で灰輝級ミスリル冒険者になったと言っても過言ではない。


 だからこそ、あっさりと暗殺されたのだ。


 俺も異能は使うが、あくまで戦うための一手札と言うだけ。


 基本は、自身の身体能力と経験で戦うのを主体としている。


 「そんな訳で教えていた私達は何も言わなかったんですよ。まぁ、その後は普通に忘れてましたね」


 そういう所は厄災級魔物だなぁと思う。


 「んー?それ、人の世には広まってる?もしかして、あまり大々的に使わない方がいい?」


 花音が手を挙げて質問する。


 確かに、人の中に広まっていたら使うのを控える方がいいかもしれない。


 面倒事を引き起こしそうだ。


 「そこまでは流石にわからないですね。とはいえ、気にせずにバンバン使っていいと思いますよ。不都合があれば、私達が全て消せばいいんですし」

 「結局暴力が全てを解決するのか」

 「そんなもんですよ。この世界は」


 やはり暴力!!暴力が全てを解決する........!!


 俺は、そんなくだらない事を思うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る