嫉妬の魔王、死亡
ニーズヘッグから(正確には
イスと花音は現場に来るようで、他のメンツは拠点に帰るようだ。
たまにはみんなで空を飛ぶのもいいんじゃないか?とは思ったりもするが、今は目立つ時じゃない。
俺は、少し寂しく思いながらも空を駆けて行く。
「場所は聖王国と合衆国の間の国、ベアリスク王国。“アルベスの森”って所だったな?」
「シャ」
影に潜む子供達に確認をとると、“肯定”の返事。
ニーズヘッグに着いている子供達は、既に情報を掻き集めているようだ。
地図を見ながら飛ぶこと約1時間。俺はようやく現場へと辿り着いた。
森は既にボロボロになっており、木々があちこちに倒れている。
そして、湖の跡地らしき物がそこにはあった。
跡地から見て、結構な量の水があったと思うのだが、戦いで吹っ飛んだのか?
その跡地の底には、血をあちこちから垂れ流すネッシーのような見た目の竜........なのか?と、いかにもアンデットですと言わんばかりの瘴気を纏った黒いローブを被った人物。
そして、ニーズヘッグとそのアンデットの会話が耳に入ってくる。
俺の事を話しているようで、少し話を聞いていたが、途中から恥ずかしい事を言い始めたので急いで空から降りてき会話を中断させた。
「呼んだか?」
「もちろん呼びましたよ。団長さん」
多分、俺の存在に気づいていた上でこの会話をしていたのだろう。
ニーズヘッグはにこやかに笑ながらも、その目には悪戯心が残っているのが分かる。
「........報告を忘れて子供達にフォローしてもらった事、不問にしてやろうかと思ったが辞めだ。後で説教な」
「ちょ、少しからかっただけじゃないですか!!そこまで怒る必要は無いでしょ?」
「怒ってない怒って無い。その“してやったり”って顔が腹立つとかそんなんじゃないから」
「怒ってるじゃないですか!!」
ニーズヘッグは声を荒らげながら抗議する。
まぁ、仕返しはこのぐらいでいいだろう。
多少の権力乱用は許されても、度が過ぎるのはダメだからな。
俺はひとしきり笑った後、ポカーンと口を開けて固まっているアンデットに目を向ける。
「さて、冗談はこのぐらいにして。このアンデットはニーズヘッグの言ってた知り合いか?」
「えぇ。
「超有名人じゃん。かつて世界の4分の1を死に追いやった伝説の厄災級魔物だろ?」
様々な文献で読んだ覚えがある。
ただ、その見た目に関してはかなりズレがあった。
巨人だったり、竜だったり、生物として見ていいのか分からないなんかグチャグチャな何かだったり。
その文献によって書いてあることが違いすぎるものだから、見た目に関してはハッキリとした事が分かってなかった。
コレが不死王本来の姿なのだろう。
俺は未だに口を開けて固まっている不死王をじっと見つめた後、不死王の目の前で手を振る。
完全に意識があさっての方向に向いていやがる。
「おーい。
「........ハッ?!ワタシトシタコトガ。有リ得ナイ光景ニ、思ワズ固マッテシマッタ」
不死王はそう言うと、軽く頭をブンブンと振って正気を取り戻す。
そして、俺をマジマジと見つめてペコりと頭を下げた。
「ハジメマシテ。ワタシハ
想像していた何倍も優雅な挨拶。
どこかの貴族かのように洗礼された動きでの挨拶に俺は驚きつつも、自己紹介をし返す。
「ご丁寧にどうも。俺は
「ウイルド殿ト呼ンデモ?」
「そんなに畏まらなくていいさ。呼び捨てで構わない」
「........イヤ、ソレデハワタシガ困ル。ウイルド殿ト呼バセテモラオウ」
俺としては呼び捨てで構わないのだが、ニーズヘッグをチラリとみている辺り余程ニーズヘッグと敵対したくないと見える。
俺からすれば、厄災級魔物達の中では常識人と言う認識でしかないが、不死王にとっては畏怖の対象なのだろう。
そして、その上に立つ俺の実力が未知数なのが怖いのか。
舐められて足元を見られるよりはマシだが、こうも怯えられるとそれはそれで対応に困る。
こう見ると、リーゼンお嬢様やエリーちゃんのようにズカズカと話してくれる方がありがたいな。
俺は一旦不死王から視線を外し、死にかけているネッシーを見る。
先程から隙だらけなのに全く攻撃してこない。
しっかり警戒はしているため、何か攻撃しようとした瞬間に息の根を止めるつもりだったんだけどなぁ。
俺はそのネッシーを指さす。
「あれが魔王か?」
「えぇ。確か、嫉妬の魔王レヴィアタンって名前でしたね。私が来た時には既に死にかけでした」
「って事は、不死王がやったのか」
「ア、ハイ。ワタシガヤリマシタ。少々手コズリマシタガ」
少々手こずったと言う割には、不死王に傷らしき傷は見当たらない。
既に再生でもしたのか、それとも攻撃は一切受けなかったのか分からないが、魔王と不死王との間には明確な強さの格差があったのは間違いないだろう。
そりゃ、2500年前に出てきた新人に何万年前から人々に恐れられてきた厄災級魔物が負けるわけもないか。
俺はうんうんと頷きながら魔王の目の前へと降り立つ。
「にん........げん。だな?ならば、我の仕事は、終わりだ」
「あ?何を言って────────」
魔王は俺を見た後、何かを呟いて目を細めるとその巨大な首を地面へと叩きつける。
既に満身創痍だった魔王は、静かに塵となっていった。
風に吹かれて塵となっていく魔王の顔は穏やかで、どこか安心したかのようなその目。
俺は何も言えず、魔王が消えていくまで静かにその場に留まるのだった。
「最後、なんて言ったか聞こえたか?」
「ごめんさい。聞いてませんでした」
「ワタシモ聞イテナイ。申シ訳無イ」
「いや、謝る必要は無いさ。少し気になっただけだし」
俺はそう言うと、影の中から子供達を出現させていく。
「コレハ........
「お?見えるのか?いや、感じるのか?と言うべきか。流石は厄災級魔物だな」
「あははは!!初めて見るとそんな反応になりますよね!!まず
驚く不死王と、その様子を見て爆笑するニーズヘッグ。
俺は当たり前のようにやっているし、団員達も見慣れているため気にしてなかったが、やはりこの光景は異常に映るのだろう。
「そんなに驚くことか?」
「コレガ、ウイルド殿ノ能力カ?ソレナラナ納得イクガ」
「違うな。これは........なんて言ったらいいかな。アレだ。体質だ」
「エェ........」
“何を言っているんだお前は”といった顔をされるが、事実だからしょうがない。
この体質のおかげで、最初にベオークに殺されることもなければ、今こうして情報集めを手伝ってくれてる訳だしな。
そうやってのんびりと蜘蛛達をばら蒔いていると、ふたつの気配が上空ニーズヘッグ現れる。
「来ましたね」
「来たな。不死王。間違っても攻撃するなよ?場合によっては死ねるからな」
「?」
首を傾げる不死王だったが、直ぐに言葉の意味がわかったようでゆっくりと頷く。
俺も白色の仮面を取り出しておいた。
「パパー!!やっと見つけたの」
「じ──────────
俺は空から降ってきた2人を受け止めると、不死王に提案するのだった。
「さて、メンツは揃ったし、少し話すか。不死王?」
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